1984年の文学

1984年の文学界

1984年（昭和59年）の文学界は、新たな作品の誕生や文学賞の発表、そして国内外の多くの作家たちの足跡が刻まれた一年でした。

年間の主な出来事

文学界の一年の始まりを告げるのは、例年通り芥川龍之介賞と直木三十五賞の選考会です。

1月17日 - 1983年下半期を対象とする第90回芥川賞・直木賞の選考会が開かれました。
11月22日 - 写真週刊誌『フライデー』の翌日号に、三島由紀夫氏の生首写真が掲載されるという衝撃的な出来事がありました。この写真は警視庁が撮影したものとされ、遺族である瑤子未亡人が警視庁に対し写真の出所について調査を依頼する騒動に発展しました。

文学賞の動向

この年も多くの文学賞が発表され、新たな才能や円熟した作家たちが評価されました。

芥川賞・直木賞

年二回選考が行われる芥川賞と直木賞では、以下のような作品と作家が受賞しました。

第90回（1983年下半期）
芥川賞：笠原淳『杢二の世界』、髙樹のぶ子『光抱く友よ』
直木賞：神吉拓郎『私生活』、高橋治『秘伝』
第91回（1984年上半期）
芥川賞：該当作なし
直木賞：連城三紀彦『恋文』、難波利三『てんのじ村』

その他の主要な文学賞

谷崎潤一郎賞（第20回）：黒井千次『群棲』、高井有一『この国の空』が受賞しました。
泉鏡花文学賞（第12回）：赤江瀑氏の『海峡』と『八雲が殺した』が選ばれました。
群像新人文学賞（第27回）：華城文子氏の『ダミアンズ、私の獲物』が受賞し、注目を集めました。
野間文芸新人賞（第6回）：青野聰氏の『女からの声』と、島田雅彦氏の『夢遊王国のための音楽』が受賞し、新進気鋭の作家として評価されました。

注目の新刊

1984年には、多くの作家が個性豊かな作品を発表しました。代表的なものを以下に挙げます。

小説：安部公房氏の幻想的な世界を描いた『方舟さくら丸』、司馬遼太郎氏の歴史小説『箱根の坂』、島田荘司氏の斬新なミステリー『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』、村上春樹氏の短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』などが刊行されました。その他、華城文子、干刈あがた、増田みず子、吉村昭、連城三紀彦といった作家たちの作品も話題となりました。
その他：黒澤明監督の自伝的な一冊『蝦蟇の油―自伝のようなもの』、黒柳徹子氏のエッセイ集『トットチャンネル』、戦史研究の古典となる『失敗の本質』（戸部良一ほか）など、幅広いジャンルの書籍が出版されました。三島由紀夫氏の『実感的スポーツ論』や、編著による『生きる意味を問う』も刊行されています。また、村上春樹氏は安西水丸氏や稲越功一氏との共著も発表しています。

文学界における訃報

この年は、国内外で多くの著名な文学者や思想家が惜しまれつつこの世を去りました。

2月12日 - アルゼンチンの巨匠、作家フリオ・コルタサル氏（69歳）。
2月21日 - ロシアのノーベル文学賞作家、ミハイル・ショーロホフ氏（78歳）。代表作に『静かなドン』があります。
3月17日 - 劇作家・脚本家の伊馬春部氏（75歳）。
4月25日 - 思想家・評論家の林達夫氏（87歳）。
6月15日 - 評論家・ドイツ文学者の竹山道雄氏（80歳）。
6月25日 - フランスの哲学者、ミシェル・フーコー氏（57歳）。
7月6日 - 翻訳家・哲学者の河野与一氏（87歳）。『プルターク英雄伝』の原典訳で知られます。
8月25日 - 米国の小説家、トルーマン・カポーティ氏（59歳）。
8月30日 - 小説家の有吉佐和子氏（53歳）。
9月13日 - 漫画家のちばあきお氏（41歳）。
12月14日 - スペインのノーベル文学賞詩人、ビセンテ・アレイクサンドレ氏（86歳）。
12月27日 - 児童文学翻訳家の恩地三保子氏（67歳）。

1984年は、新たな文学作品が生み出され、評価される一方で、多くの才能が失われた年でもありました。これらの出来事が、その後の文学史に影響を与えていくこととなります。

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