2002年の文学

2002年（平成14年）は、日本の文学界において様々な動きが見られた一年でした。

年明け早々の1月16日には、第126回芥川龍之介賞および直木三十五賞（2001年下半期）の選考会が開催されました。芥川賞には長嶋有氏の『猛スピードで母は』が、直木賞には山本一力氏の『あかね空』と唯川恵氏の『肩ごしの恋人』がそれぞれ選ばれました。続いて同年上半期の作品を対象とする第127回の選考会では、芥川賞は吉田修一氏の『パーク・ライフ』が、直木賞は乙川優三郎氏の『生きる』が受賞しました。

文学賞の動向では、主要なものとして第38回谷崎潤一郎賞が該当作なしという結果に終わった一方、第30回泉鏡花文学賞は野坂昭如氏の「文壇」およびこれまでの文業に対して贈られました。

この年の出来事として特に注目されたのは、作家・三島由紀夫の少年期に書かれた未発表作品が相次いで発見されたことです。2月10日には三島由紀夫文学館にて、三島が少年時代に執筆した童話『仔熊の話』が見つかり、広く公開されました。さらに6月29日には、同じく少年時代の作品である小説『白拍子』も発見・公開され、文豪の創作のルーツに触れる貴重な機会が提供されました。

出版界では、長年にわたり人文科学系の書籍を多く刊行してきた社会思想社が6月25日に事業を停止するという出来事もありました。

2002年に刊行された注目すべき書籍も多数あります。小説分野では、後に映画化もされた横山秀夫氏の力作『半落ち』、村上春樹氏の長編小説『海辺のカフカ』が大きな話題となりました。他にも、角田光代氏の『空中庭園』、重松清氏の『きよしこ』といった人気作家の作品が読者の関心を集めました。宇江佐真理氏の『斬られ権佐』、小川洋子氏の『貴婦人Aの蘇生』、小池真理子氏の『狂王の庭』と『夜の寝覚め』、大道珠貴氏の『裸』、高橋源一郎氏の『官能小説家』、谷村志穂氏の『海猫』、中山可穂氏の『花伽藍』、松井今朝子氏の『非道、行ずべからず』、そして同年逝去した矢川澄子氏の『受胎告知』など、多様なジャンルの作品が生み出されました。

小説以外の分野でも重要な書籍が刊行されています。大野晋氏の『日本語の教室』、内田樹氏の『「おじさん」的思考』や『寝ながら学べる構造主義』といった思想・言語に関する著作、笠原和夫氏、荒井晴彦氏、絓秀実氏による『昭和の劇―映画脚本家笠原和夫』、河野多惠子氏の『小説の秘密をめぐる十二章』といった文芸評論、高橋秀実氏の『からくり民主主義』、橋本治氏の『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』、藤本和子氏の『リチャード・ブローティガン』、町山智浩氏の『映画の見方がわかる本』など、幅広いテーマの書籍が読書界を賑わせました。

また、この年は文学界において多くの著名な人物がこの世を去りました。児童文学の分野では、『長くつ下のピッピ』の作者であるスウェーデンのアストリッド・リンドグレーン氏（94歳没）をはじめ、日本のいぬいとみこ氏（77歳没）、上野瞭氏（73歳没）、米国のヴァージニア・ハミルトン氏（65歳没）といった国内外の功労者が逝去されました。小説家としては、古山高麗雄氏（81歳没）、ジョージ・アレック・エフィンジャー氏（55歳没）、鮎川哲也氏（83歳没）、日野啓三氏（73歳没）、笹沢左保氏（71歳没）といったベテラン作家たちが惜しまれつつ亡くなりました。特に、同年に『受胎告知』を発表した作家で詩人、翻訳家でもあった矢川澄子氏も71歳で逝去しています。さらに、随筆家の山本夏彦氏（87歳没）、脚本家の笠原和夫氏（75歳没）、編集者の坂本一亀氏（80歳没）、英文学者の高橋康也氏（70歳没）など、文学および関連分野で重要な役割を果たした多くの方々がこの世を去り、文学界は多くの別れを経験した年でもありました。

2002年は、文学賞の行方、巨匠の未発表作品発見、そして多くの才能ある書き手たちの逝去という、様々な側面から文学の現在と歴史を感じさせる一年であったと言えるでしょう。

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