2018 AG37

2018 AG37（ファーファーアウト）

2018 AG37は、「ファーファーアウト（FarFarOut）」という愛称で知られる太陽系外縁天体です。この天体が特筆されるのは、観測史上、既知の太陽系内天体の中で最も太陽から遠い位置で発見されたという点にあります。その発見は、理論的に存在が予測されている「プラネット・ナイン」の探索中に偶然もたらされました。2018年1月に日本のすばる望遠鏡を用いた観測で初めて捉えられ、その後複数回の追観測を経て、2021年2月にその存在が正式に確認されました。発見に貢献したのは、これまで多くの太陽系外縁天体を見つけてきたスコット・S・シェパード、チャドウィック・トルヒージョ、デビッド・J・トーレンの各氏です。

発見の経緯

2018 AG37の最初の観測は、2018年1月15日にハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡で行われました。しかし、この時点ではすぐにその存在は認識されませんでした。発見のきっかけとなったのは、2019年1月にシェパード氏が予定していた講演が悪天候で延期になったことでした。この予期せぬ時間の余裕を利用して、彼は2018年にすばる望遠鏡で撮影された過去の画像を再確認しました。その中で、1日間隔で撮影された2枚の画像に写り込んだ、見かけの等級が約25.3等という極めて暗い点が、背景の恒星に対して非常にゆっくりと移動していることに気づいたのです。この微かな動きと明るさから、シェパード氏はその天体が非常に遠くにあると推測しました。

当時の計算では、この天体が太陽から約140 au（天文単位）の距離にあると見積もられ、これは当時観測史上最も遠い天体として知られていた2018 VG18、通称「ファーアウト」よりもさらに遠いものでした。このことから、シェパード氏は冗談交じりにこの新たな天体を「ファーファーアウト」と呼び始めました。発見の知らせを受けた他の天文学者たちも、2019年3月にはチリのマゼラン望遠鏡、さらに2019年5月と2020年1月には再びすばる望遠鏡を用いて追観測を行いました。これらの約2年間にわたる観測データが蓄積された結果、天体の暫定的な軌道が計算され、小惑星センター（MPC）によって2021年2月10日に正式に発見が確認・公表されました。

名称について

「ファーファーアウト」という愛称は、前述の通り、先行して発見された「ファーアウト」（2018 VG18）よりもさらに遠いことから名付けられました。正式名称である「2018 AG37」は、小惑星センターが付与する仮符号です。この仮符号は天体の発見時期を示しており、「2018 AG37」の場合、2018年の1月前半に発見された932番目の天体であることを意味しています。

現在、2018 AG37にはまだ小惑星番号が割り当てられていません。これは、天体の観測データが少なく、軌道の確定に不十分であるためです。通常、小惑星番号は天体が4回以上の衝（地球から見て太陽の反対側に位置する時期）を観測されるなどして、十分に精度よく軌道が求まった場合に与えられます。今後、追加の観測によって軌道が明確に決定され、小惑星番号が付与されれば、発見者にはこの天体に固有の名前を命名する権利が与えられます。

軌道

2018 AG37の最も大きな特徴の一つは、その極端な軌道と、現在のところ軌道がまだ不確実であることです。発見から約2年間でわずか9回しか観測されていないのは、太陽からの距離があまりにも遠く、天球上を非常にゆっくりとしか移動して見えないためです。この限られた観測データでは、軌道全体の形状や天体の詳細な動きを正確に捉えることが難しく、軌道の不確実性を示すパラメータは最高の「9」となっています。より精密な軌道要素を求めるためには、今後数年にわたる継続的な観測が不可欠です。

現在の暫定的な軌道計算によると、2018 AG37の軌道長半径は約80.2 au、軌道離心率は約0.655と、非常に細長い楕円軌道を描いていることが示唆されています。近日点距離は約27.6 au、遠日点距離は約132.7 auと推定されており、約700年かけて太陽の周りを一周すると見られています。興味深いのは、その近日点距離が海王星の軌道（約30.1 au）の内側に入り込むことです。これは、過去に海王星と接近遭遇し、その強い重力によって軌道が大きく変化させられたことを示唆しており、このような天体は「散乱円盤天体（SDO）」として分類されます。海王星軌道との最小交差距離（MOID）は約4 au（約6億km）と計算されており、今後も海王星と接近する可能性を秘めています。

太陽からの距離と物理的特性

2018 AG37は、発見された2018年1月時点で、太陽から約132.2 ± 1.5 au（約197.8 ± 2.2億km）の距離に位置しており、これは冥王星までの距離の約4倍に相当します。この距離は、当時の観測技術で確認できた太陽系内の天体としては最も遠い記録でした。

ただし、長周期彗星や非周期彗星の中には、現在、2018 AG37よりもさらに遠くにあると計算されているものも存在します（例: カエサル彗星、ドナティ彗星）。しかし、これらの天体は極めて暗く、現在の望遠鏡でも観測することはできません。また、2018 AG37よりも遠い遠日点を持つ太陽系外縁天体は、既に100個以上が発見されていますが、発見時の太陽からの距離で最遠だったのが2018 AG37ということです。

2018 AG37の大きさは直接測定されていませんが、明るさから推定されています。絶対等級は4.2等と計算されており、これは既知の散乱円盤天体の中では比較的明るい部類に入ります。反射率（アルベド）を仮定した推定直径は400kmから600kmの範囲とみられています。発見者のシェパード氏は、表面に氷が多く存在してアルベドが高いと仮定し、直径を約400km程度と見積もっています。このサイズは、自己重力によって球に近い形状になる準惑星として認められる可能性のある下限に近いものであり、今後の観測によっては準惑星に分類される可能性もゼロではありません。

2018 AG37は、その極端な軌道と遠さから、太陽系外縁部の天体分布や、惑星の重力による軌道進化を理解する上で重要な手がかりを与えてくれる天体です。今後の観測による軌道の確定が待たれます。

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