AV-8B (航空機)

AV-8B ハリアー II：革新的な垂直離着陸攻撃機

AV-8B ハリアー II は、マクドネル・ダグラス（現ボーイング）社が主体となって開発した、垂直/短距離離着陸（V/STOL）が可能な攻撃機です。イギリスのホーカー・シドレー社が開発したハリアーをベースに、大幅な改良が加えられました。アメリカ海兵隊での運用を筆頭に、スペインやイタリアの海軍でも艦上攻撃機として採用され、その高い柔軟性と作戦能力が実証されています。

開発の経緯

ハリアーは、世界初の実用V/STOL機としてイギリスで開発されました。アメリカ海兵隊は、その能力に早くから注目し、AV-8Aとして採用しました。当初、アメリカ国内での製造が検討されましたが、コストや時間的な問題からイギリスでの生産となりました。その後、マクドネル・ダグラス社は、ハリアーの後継機開発に着手し、ホーカー・シドレー社と共同で研究を進めました。この研究から生まれたのが、航続距離とペイロードが大幅に向上したAV-8B ハリアー II です。

設計

AV-8Bは、ハリアーの基本設計を踏襲しつつも、機体構造や空力特性に大きな変更が加えられました。

機体構造

機体重量の軽減のため、複合材が多用されました。主翼には炭素繊維強化プラスチック（CFRP）が用いられ、従来の機体よりも大幅な軽量化に成功しました。また、主翼の翼幅を延長し、ハードポイントを追加したことで、兵器搭載能力が向上しました。さらに、超臨界翼を採用したことで、遷音速域での抵抗を減少させ、フラップの増積とエルロンの拡大により離着陸性能と運動性能を向上させました。機体下部にはLIDs（Lift Improvement Devices）が装着され、垂直離着陸時の揚力増強に貢献しています。

コックピット

コックピットは、パイロットの視界を確保するために、座席位置が高く配置され、風防も一体型に変更されました。射出座席には、ゼロ高度・ゼロ速度での脱出が可能なSJU-4/Aが採用され、ホバリング状態からの脱出も考慮されています。

動力系統

エンジンは、ペガサス11-21（アメリカ海兵隊仕様：F402-RR-406）に換装されました。その後、更なる改良型であるペガサス11-61（アメリカ海兵隊仕様：F402-RR-408）が導入され、推力と信頼性が向上しました。燃料搭載量も増加し、作戦行動範囲が拡大しました。

装備

電装

アビオニクスは、MIL-STD-1553Bデータバスで連接され、AN/AYK-14|AN_AYK-14電子計算機が搭載されました。初期生産型には、A-4Mと同様のAN/ASB-19 ARBSが搭載されましたが、後にAN/AAR-51 FLIRを搭載したナイトアタック（NA）仕様が開発されました。さらに、火器管制レーダーを搭載したAV-8B+も登場し、全天候作戦能力を獲得しました。ソノブイの搭載・敷設能力も備えており、対潜哨戒にも活用できます。

兵装

空対地ミサイルにはAGM-65E/Fマーベリック、対レーダーミサイルにはAGM-122 サイドアームが用いられました。誘導爆弾としてはペイブウェイが使用され、後にJDAMの運用能力も付与されました。空対空ミサイルとしてはAIM-9サイドワインダーが搭載され、AV-8B+ではAIM-120 AMRAAMも運用可能となりました。固定武装として、25mm口径のGAU-12機関砲が搭載されています。

諸元・性能

乗員: 1名 / 2名 (TAV-8B)
全長: 14.12 m / 14.55 m (AV-8B+) / 15.32 m (TAV-8B)
全高: 3.55 m
翼幅: 9.25 m
翼面積: 21.37 m2
空虚重量: 6,336 kg / 6,763 kg (AV-8B+) / 6,451 kg (TAV-8B)
最大離陸重量:
VTO時: 8,702 kg / 9,413 kg (AV-8B+)
STO時: 14,061 kg / 14,515 kg (AV-8B+)
動力: F402-RR-406/408 ターボファンエンジン
-406: 22,000 lbf (98 kN)
-408: 23,800 lbf (106 kN)
最大速度: 1,065 km/h
戦闘行動半径: 941 km
フェリー飛行時航続距離: 3,641 km
実用上昇限度: 15,240 m
固定武装: GAU-12 25mm機関砲
ハードポイント: 7ヶ所
* 最大搭載量: 5,986 kg

運用史

アメリカ海兵隊

AV-8Bは、1980年代からアメリカ海兵隊に配備され、数多くの作戦に参加しました。湾岸戦争では、強襲揚陸艦を「ハリアー空母」として運用し、地上部隊への航空支援を行いました。また、アフガニスタンやイラクでの作戦にも投入され、その柔軟性と攻撃能力を実証しました。後継機であるF-35Bの導入に伴い、AV-8Bの運用は徐々に縮小され、2026年には全機退役する予定です。

スペイン海軍

スペイン海軍は、軽空母「デダロ」および「プリンシペ・デ・アストゥリアス」に搭載するためにAV-8Bを導入しました。当初はAV-8S（AV-8A相当）を運用していましたが、後にAV-8BおよびAV-8B+に更新しました。これらの機体は、スペイン海軍の主力艦上攻撃機として活躍しています。

イタリア海軍

イタリア海軍は、空母「ジュゼッペ・ガリバルディ」での運用を前提としてAV-8B+を導入しました。固定翼機運用を禁止されていた時期もありましたが、法改正後にハリアーの導入を実現しました。ソマリアでの作戦にも投入され、その能力を実証しました。

登場作品

AV-8BハリアーIIは、その特徴的な外観とV/STOL能力から、多くの映画やゲームに登場しています。

まとめ

AV-8B ハリアー IIは、V/STOL機として優れた能力を持つ攻撃機であり、アメリカ海兵隊をはじめとする各国で広く運用されました。その高い作戦能力と柔軟性は、現代の軍事作戦においても重要な役割を果たしました。複合材の多用やアビオニクスの近代化など、先進的な技術が投入されており、航空機開発史における重要な一機として評価されています。

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