FH70

FH70（Field Howitzer 1970s）

FH70は、1970年代に西ドイツ、イギリス、イタリアの3か国が共同開発した155mm榴弾砲です。この火砲は、牽引式でありながらも補助動力装置（APU）による自走能力を持ち、高い機動性と迅速な展開・撤収を可能にしています。陸上自衛隊でも主力火砲として運用されており、その高い性能と信頼性から多くの国で採用されています。

開発経緯

FH70の開発は、1963年にNATO（北大西洋条約機構）が策定した基本軍事要求39号に基づき、「牽引・自走両用の近接支援用榴弾砲」として計画されました。この要求仕様では、APUの搭載、通常弾で24km、ロケット補助推進弾で30kmの射程、最大連射速度は15-20秒で3発、持続連射速度は毎分2発という高い性能が求められました。また、弾薬はNATO標準の155mm砲弾に対応しつつ、長射程弾の開発も計画されました。これらの要求に基づき、西ドイツとイギリスが共同で研究開発を行い、1968年に細部仕様が決定。1970年からはイタリアも計画に加わりました。

当初の研究開発は、イギリス王立兵器調査開発研究所が主導し、ヴィッカーズとラインメタルが中心となって進められました。その後、フォルクスワーゲンがAPUの開発を担当しました。1978年に製造が開始され、西ドイツとイタリアでは旧式の榴弾砲、イギリスではBL 5.5インチ砲の後継として採用されました。

特徴

FH70の大きな特徴の一つは、砲身後端下部に搭載された砲弾装填用トレイと半自動装填補助装置です。これにより、砲弾をトレイに乗せた状態で砲撃すると、砲身の前進運動と連動してトレイが持ち上がり、尾栓が自動で開くため、迅速な装填と高い連射速度を実現しています。手動操作も可能で、状況に応じて使い分けることができます。

また、FH70は、砲架に1,800ccの空冷水平対向4気筒ガソリンエンジン（日本のFH70は富士重工業製の水冷水平対向4気筒エンジン）を搭載しており、短距離であれば自走が可能です。これにより、発射位置までの牽引を必要とせず、展開・撤収が迅速に行えるという利点があります。ただし、自走速度は時速16km程度であり、人員や砲弾の運搬はできないため、あくまで最終的な陣地進入の際に限定的に使用されます。陸上自衛隊では、FH70の牽引に74式特大型トラックをベースとした中砲けん引車を使用しています。

さらに、FH70は大型輸送ヘリコプターによる空輸も可能ですが、その重量から実用性は低いとされています。

照準方法

FH70の射撃に必要な方位角の入力には、パノラマ眼鏡と方向盤を使用した反覘法が用いられます。照準はすべて人力で行われ、2つの手動旋回ハンドルを操作して調整します。1km先の目標を射撃する際、方位角が1ミル（円周は6400ミル）ずれると弾着が1mずれるため、照準手には高い練度が求められます。

運用国

現在、FH70は以下の国で運用されています。

イタリア
エストニア
オマーン
オランダ
サウジアラビア
日本
モロッコ
ウクライナ

過去には、イギリス、ドイツ、マレーシアでも運用されていました。

陸上自衛隊

陸上自衛隊では、FH70を「155mmりゅう弾砲」として制式採用しており、開発国での制式名称FH70を略称として使用しています。防衛庁（現在の防衛省）は愛称を「サンダーストーン」としていますが、一般的にはFH70またはFHの名称が広く使われています。1983年から日本製鋼所によるライセンス生産が開始され、陸上自衛隊の主力火砲として配備されています。導入数も多く、本州、四国、九州の師団や旅団に配備されています。しかし、導入から40年近くが経過し、老朽化が進んでいるため、特科部隊の改編や火砲定数の削減とともに、順次退役が進められています。

また、FH70を装備していた野戦特科部隊は方面隊直轄の特科部隊に集約されており、2019年から2024年にかけて各方面隊の特科部隊が改編されました。現在、FH70運用部隊は東北、東部、中部方面隊が方面隊直轄、西部方面隊が第2特科団隷下となっています。

後継として、2019年に19式装輪自走155mmりゅう弾砲が部隊使用を認められ、装備転換が進められています。

音楽隊が「1812年 (序曲)」を演奏する際、礼砲としてFH70を使用することがあります。また、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の劇中曲「DECISIVE BATTLE」など、他の楽曲の演奏にも使われることがあります。ただし、FH70は礼砲としては使い勝手が悪いため、105mm榴弾砲が関東補給処に少数残されています。

配備されている駐屯地では、隊員の成人式のイベントとしてFH70と綱引きを行うこともあります。

配備部隊・機関

FH70は以下の部隊・機関に配備されています。

陸上自衛隊富士学校
富士教導団
特科教導隊
陸上自衛隊武器学校
東北方面特科連隊
東部方面特科連隊
中部方面特科連隊
第2特科団
西部方面特科連隊
西部方面混成団
第5陸曹教育隊

諸元・性能

種別: 榴弾砲
口径: 155 mm
砲身長: 39口径長
重量: 7,800 - 9,600 kg
全長: 9.8 m（牽引時）, 12.4 m（射撃時）
全幅: 2.56 m（牽引時）
全高: 2.56 m（牽引時）
砲員数: 8名
砲尾: 垂直鎖栓式閉鎖機
反動: 液気圧式駐退機、2段式マズルブレーキ
砲架: 開脚式1,800 cc水冷水平対向4気筒ガソリンエンジン装備
最大自走速度：20 km/h
俯仰角: -100 - 1,250ミル（-5.6°~+70°）
旋回角: 左右に500ミルずつ（56°）
初速: 827 m/秒
最大射程: 24 km（通常弾）, 30 km（RAP弾）
発射速度: 3発/15秒（最大）, 3 - 6発/分（持続射撃）
弾薬: 砲弾・薬嚢分離装填式（NATO標準規格）
砲弾: L15榴弾, M107榴弾、03式155mmりゅう弾砲用多目的弾
開発国: イギリス/ 西ドイツ/ イタリア
生産期間: 1978年（昭和53年） -

登場作品

FH70は、以下の作品にも登場しています。

映画・テレビドラマ

『MM9－MONSTER MAGNITUDE－』：第5話に登場。
『ゴジラvsビオランテ』：実物が登場し、ゴジラ迎撃のために展開。
『ゴジラvsキングギドラ』：実物が登場し、円盤包囲部隊に配備。

アニメ

『アウトブレイク・カンパニー』：異世界に派遣された自衛隊が使用。
『デジモンテイマーズ』：自衛隊の装備の一つとして登場。

漫画

『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』：異世界に持ち込まれた自衛隊の装備として登場。
『日本国召喚』：陸上自衛隊第7師団に配備されたものが登場。

小説

『自衛隊三国志』：三国時代にタイムスリップした自衛隊の装備として登場。
『漂流自衛隊』：戦国時代にタイムスリップした部隊の装備として登場。

模型

1/35スケールのプラスチックモデルが発売されています。

関連項目

陸上自衛隊の装備品一覧
M198 155mm榴弾砲
TRF1 155mm榴弾砲
祝砲

外部リンク

陸上自衛隊
イタリア陸軍公式サイト
エストニア国防軍公式サイト
FAS.org

画像リンク

陸上自衛隊の実弾演習 - YouTube
エストニア国防軍の砲兵大隊 - YouTube
2010 陸上自衛隊日本原駐屯地祭　音楽編　大序曲1812年 FH-70-YouTube
中部方面隊創隊50周年記念行事　音楽演奏『序曲1812年』～伊丹駐屯地-YouTube
* 序曲「1812年」陸上自衛隊FH70射撃-YouTube

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