HR 8799 b

はじめに

HR 8799 bは、地球から約128.5光年離れたペガスス座の領域に位置する恒星HR 8799の周囲を巡る太陽系外惑星の一つです。この惑星は、その存在が画像として直接確認された、最初期の太陽系外惑星の一つとして特に知られています。

発見の経緯

HR 8799 bは、主星であるA型主系列星 HR 8799を公転する4つの既知の惑星の中で、最も外側を回る天体です。2008年 11月13日、HR 8799 bの存在は、同じくHR 8799を周回する惑星であるHR 8799 c、HR 8799 dと共に公式に発表されました。

この発見は、2004年 7月14日から2008年 9月18日までの期間に、アメリカのW・M・ケック天文台、ジェミニ天文台、そして宇宙望遠鏡であるハッブル宇宙望遠鏡によって取得された、赤外線領域での観測画像に基づいています。画像解析により、時間の経過とともに天体の見かけの位置が移動していることが確認され、これがHR 8799の重力に束縛された惑星であると結論づけられました。これは、惑星そのものを「直接」画像として捉えることで存在が確認された、画期的な事例の一つです。

直接撮影による惑星発見としては、以前に褐色矮星の周囲を公転する2M1207bが赤外線で撮影されていましたが、一般的には惑星とは分類されないため、HR 8799 bが惑星としては最初期に直接撮影された例とされています。

興味深いことに、HR 8799系の惑星が発表された同日には、恒星フォーマルハウトの周囲を回るフォーマルハウトbも、可視光領域で直接撮影された惑星として同時に公表されています。ただし、フォーマルハウトbの像については、本当に惑星なのか、あるいは塵の塊などの別の天体なのかという議論も存在しています。HR 8799の惑星は、可視光ではなく赤外線でのみ検出されています。また、この発表時点では、後に発見されるHR 8799 eの存在は確認されていませんでした。

HR 8799系の惑星が発見された後、過去に撮影されたHR 8799周辺の古い観測データの再解析が行われました。その結果、1998年 10月30日にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像や、2002年 7月19日に国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡が撮影した画像にも、HR 8799 bが写り込んでいることが2009年に確認されました。また、1998年のハッブルの画像には、HR 8799 cとHR 8799 dも捉えられていたことが後に明らかになっています。

軌道の特性

HR 8799 bは、HR 8799を公転する既知の惑星の中で、最も主星から遠い軌道を周回しています。その軌道長半径は約102億km、これは太陽系での単位では約68AUに相当し、太陽系で言えば冥王星よりもさらに遠い位置にあたります。

このように主星から大きく離れた軌道のため、HR 8799 bの公転周期は非常に長く、約449.7年から463.3年と推定されています。2013年時点で確認されていた太陽系外惑星の中には、HR 8799 bよりも遠い軌道を持つものも多く存在しますが、その公転周期が明らかになっているものは少なく、公転周期が確定している天体の中では、へびつかい座11番星b（約2000年）、フォーマルハウトb（約872年）に次いで、3番目に長い値でした。HR 8799 bの軌道離心率はほぼゼロに近い、円軌道であると推測されています。ただし、これらの軌道要素の値には、中心星であるHR 8799の質量の推定値に含まれる不確実性が影響を与えています。

興味深いことに、HR 8799 bは内側の惑星であるHR 8799 c、HR 8799 dとの間で、それぞれ4:2:1という単純な比率での軌道共鳴状態にある可能性が指摘されています。これは、これらの惑星の公転周期が互いに整数比に近い関係にあることを示唆しており、惑星系の形成や進化の過程で重要な役割を果たしたと考えられています。

物理的特徴

前述の通り、HR 8799 bは主星から遠く離れていますが、中心星HR 8799が太陽の約4.92倍も明るい恒星であること、そして惑星系自体の年齢が比較的に若い（推定2000万年から5000万年）ことから、その表面温度は約600℃と比較的高温です。

この高い温度のため、HR 8799 bは強い赤外線を放出しており、これが直接撮影による発見の決め手となりました。放射される赤外線の光度は、太陽の約1万分の1程度にあたる約3.1×10²¹ワットに達しますが、地球から見た見かけの明るさは、主星であるHR 8799の10万分の1以下と非常に暗いです。その見かけの色は、暗い赤色をしていると考えられています。また、HR 8799系の4つの惑星の中では、表面温度が最も低いため、最も暗く見えます。

HR 8799 bの大きさは木星と比較すると、直径で約1.1倍から1.3倍程度ですが、質量は木星の約5倍から11倍にも達すると推定されています。特に質量の上限値である11倍は、褐色矮星の下限質量（約13倍）にかなり近い値であり、惑星と褐色矮星の中間に位置するような巨大質量天体である可能性も示唆されます。この質量と大きさから計算される平均密度は、約5.0 g/cm³と比較的高い値となります。

HR 8799 bの大気の正確な組成はまだ明らかになっていません。しかし、HR 8799系全体を包む広大な塵の円盤には、一酸化炭素、メタン、そしてアンモニアかアセチレン、あるいはその両方が含まれていることが観測で判明しており、これらの成分が惑星の大気組成にも関連している可能性があります。塵の組成の分析は、HR 8799 bが主星から約1.7秒角という十分な角距離で離れているため、主星の光に邪魔されずに惑星周辺の分光観測が可能であったことから行われました。

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