HR 8799 d

HR 8799 dは、地球からおよそ128.5光年離れたペガスス座の領域に位置する恒星HR 8799の周囲を公転する太陽系外惑星です。この天体は、HR 8799系に属する4つの既知の惑星の一つであり、特にその姿を直接画像として捉える「直接撮像」という手法で発見された、最初期の太陽系外惑星として天文学史に名を刻んでいます。

発見の経緯

HR 8799 dの存在は、同じ恒星を周回するHR 8799 bおよびHR 8799 cと共に、2008年 11月13日に公にされました。その発見は、2008年7月から9月にかけて、ハワイにあるW・M・ケック天文台やジェミニ天文台、そして宇宙に浮かぶハッブル宇宙望遠鏡が捉えた赤外線波長での観測画像に基づいています。これらの画像に写し出された天体が時間の経過と共に位置を変える様子を追跡することで、この天体がHR 8799の重力に束縛された惑星であることが確認されました。

惑星を直接撮影して発見するという方法は、当時としては画期的なものでした。この発見は、同じ日に可視光での直接撮像によって報告されたフォーマルハウトb（ただし、その実態については議論があります）と並んで、系外惑星の探査における新しい時代の到来を告げる出来事でした。興味深いことに、HR 8799 dは、同時期に発見されたHR 8799 bやcとは異なり、2004年や2007年の観測画像には写っていませんでした。なお、HR 8799 dより以前に赤外線で直接撮影された2M1207bという天体も存在しますが、こちらは一般的には惑星ではなく褐色矮星と見なされることが多いです。

HR 8799系の惑星が発見された後、過去にHR 8799を撮影した古い画像の再解析が進められました。その結果、1998年 10月30日にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像の中に、HR 8799 bやcと共にdも写っていたことが後に判明しました。これは、HR 8799 bが最初に発見された画像としても知られています。

軌道の特性

HR 8799 dは、HR 8799を公転する既知の惑星の中では、主星から2番目に近い軌道を持っています。その軌道の大きさを示す軌道長半径は、研究によって約36億km（約24天文単位）から40億4000万km（約27.0天文単位）の範囲で推定されています。この距離は、私たちの太陽系に当てはめると、天王星と海王星の公転軌道のちょうど間に位置するような、比較的遠い領域に相当します。この軌道を一周するのに要する公転周期は非常に長く、およそ100年から116年と計算されています。

既知の太陽系外惑星の中で、HR 8799 dよりも遠い軌道を持つものは多く見つかっていますが、正確な公転周期が判明しているものは限られています。そのような中で、HR 8799 dの公転周期は、へびつかい座11番星b（約2000年）、フォーマルハウトb（約872年）、そして同じHR 8799系のHR 8799 bおよびcに次いで、5番目に長い値の一つです。また、HR 8799 dは、HR 8799系の既知の惑星の中では唯一、軌道の離心率が0.1から0.115程度と推定されています。これは、観測期間中の天体の見かけの位置の移動速度から導き出されました。離心率が判明したことにより、軌道の近点引数も約75.3度または約80.2度と計算されています。これらの軌道要素の値に幅があるのは、中心星であるHR 8799の質量の推定に若干の不確かさが含まれるためです。

興味深い理論として、HR 8799 b、HR 8799 c、そしてHR 8799 dの三つの惑星は、それぞれ公転周期が4:2:1という単純な整数比に近い関係にある「軌道共鳴」の状態にある可能性が指摘されており、これがこの惑星系の安定性に関わっていると考えられています。

物理的な性質

HR 8799 dは、中心星からかなり離れた軌道にありますが、中心星HR 8799が太陽の約4.92倍もの明るさを持つ大質量の星であり、さらに惑星系自体が約2000万年から5000万年という非常に若い天体であるため、表面温度は約820℃にも達する高温の惑星です。この高温が、この惑星が強い赤外線を放つ理由であり、これが直接撮像による発見を可能にしました。放出される光の強さ（光度）は太陽の約1万分の1程度ですが、地球から見た見かけの明るさは主星の10万分の1以下と非常に暗く、見かけの色は暗い赤色をしていると推測されています。

HR 8799 dの大きさは木星の約1.2倍から1.3倍程度と推定されていますが、質量は木星の約7倍から13倍と、サイズに比べて非常に大きいことが分かっています。特に質量の推定値の上限は、恒星になりきれなかった天体である「褐色矮星」の質量の下限（木星の約13倍程度）に匹敵します。この質量とサイズから計算される平均密度は、約7.2 g/cm³と、木星など太陽系の巨大ガス惑星に比べてかなり高い値となります。

HR 8799 dを構成する大気の詳しい組成については、まだ十分な観測データがなく不明な点が多いです。しかし、HR 8799系全体を取り囲む広大な塵の円盤には、一酸化炭素やメタン、さらにアンモニアやアセチレンなどが含まれていることが、特に最も主星から離れたHR 8799 bの分光観測から明らかになっています。これらの物質が惑星の大気組成にも影響を与えている可能性が考えられており、今後の詳細な観測が待たれます。

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