SL北びわこ号

「SL北びわこ号」（SLきたびわこごう）は、西日本旅客鉄道（JR西日本）が北陸本線の米原駅と木ノ本駅の間で運転していた蒸気機関車（SL）牽引の臨時列車です。この列車の主な目的は、滋賀県湖北地域の観光を盛り上げることと、動態保存されている蒸気機関車を実際に走らせることでした。運転が始まったのは1995年 8月19日です。開始から2010年までの間に、この列車を利用した人の数は25万人にも達し、地元米原市の弁当店「井筒屋」からは記念の弁当も発売されるなど、地域に親しまれる存在でした。

運行の軌跡

SL北びわこ号は、主に2月や10月、11月の日曜日や祝日、そしてゴールデンウイークなどの特定の時期に運行されました。運転される季節によっては、列車に取り付けられるヘッドマークのデザインが変わることもありました。

運行開始当初から1997年11月24日までは、米原駅と木ノ本駅の間を2往復したり、下り列車のみ1往復（3・4号）運転したりといった形態が見られました。その後、1998年 5月3日から2003年 8月にかけては、下りが米原発木ノ本行き2本、上りが木ノ本発米原行き1本の運転となりました。さらに2003年 11月8日からは、下り列車が2本のみの運転体制に移行します。しかし、2018年に新たにD51 200が導入される影響もあり、同年には下り3号が廃止され、以降は下り1号のみの運転となりました。

木ノ本駅での機関車付け替えと回送

終着駅である木ノ本駅には、蒸気機関車の向きを変えるための転車台がありませんでした。このため、上下列車が運転されていた時期は、木ノ本駅でSLを一度客車から切り離して別の線路を通り、進行方向を変えて再び客車に連結する「機回し」作業が必要でした。そして、進行方向とは逆向き（逆機）でSLが客車を牽引して米原駅へ戻っていました。しかし、逆機運転時の最高速度は45km/hに制限され（進行方向での最高速度は75km/h）、定期列車の本数が多い北陸本線においては、この速度制限がダイヤ編成上の大きな制約となり、他の定期列車に影響が出やすいという課題がありました。これを解消するため、2003年 11月8日以降は機回しを行わない運行形態に変更されました。木ノ本駅到着後、SLは客車の木ノ本方に連結されたままとなり、米原方には宮原総合運転所（現在の網干総合車両所宮原支所）に所属するDD51形ディーゼル機関車が連結され、このディーゼル機関車がSLと客車をまとめて米原駅まで回送するという形が取られました。さらに2007年 10月21日からは、回送用の機関車として下関車両管理室（現在の下関総合車両所運用検修センター）に所属するEF65形電気機関車が使用されるようになりました。特に2016年 5月8日には、「トワイライトエクスプレス」塗装のEF65 1124が回送列車を牽引し、話題となりました。

その他、1996年8月23日には団体列車として、C56 160が客車「わくわく団らん」5両を復路のみながら牽引した記録があります。また、2005年から2006年頃にかけては、寝台特急を牽引していたEF66形電気機関車が、空き時間を利用してSL北びわこ号用の12系客車3～5両を牽引して回送することもあったようです。

停車駅

SL北びわこ号が停車した駅は、米原駅、長浜駅、虎姫駅、河毛駅、高月駅、木ノ本駅です。ただし、運行が始まった当初は、坂田駅と田村駅にも停車していました。

使用された車両

牽引機としては、通常は梅小路運転区に所属するC56 160が使われました。ただし、この機関車が検査や故障で運転できない場合や、冬季運行で3月上旬に運転がある際には、同じ梅小路運転区所属で「SLやまぐち号」を牽引しているC57 1が代わりに牽引することがありました。C57 1が初めてSL北びわこ号を牽引したのは1996年1月27日のことです。過去には、1996年、1997年、1998年の冬季運行期間に、C56 160とC57 1の2両が連携して重連運転を行ったこともあり、この時は客車が8両に増やされていました。2015年2月17日にはC57 1の試運転中に不具合が発生し、運転が危ぶまれましたが、無事に修理が完了し、同年3月1日には運転されました。C56 160による牽引は、2018年 5月27日をもって終了しました。その後、同年夏以降はD51 200が牽引機となる予定でしたが、平成30年7月豪雨などの影響により、同年7月15日以降の運転は全てC57 1が牽引することになりました。D51 200による牽引は、2019年 3月10日に開始されました。

客車には、網干総合車両所宮原支所に所属する12系客車が用いられました。運転開始当初は、各車両の端部に様々なロゴマークが付けられていましたが、これは後に撤去されました。前述のように、C56 160とC57 1による重連運転時には、客車が通常の編成より長い8両で運転されていました。その後、客車の編成は12系100番台の5両に統一され（2010年 3月13日に京都総合運転所、現在の吹田総合車両所京都支所から転属）、列車の廃止まで使用されました。かつてSLやまぐち号で使われた「レトロ客車」とは異なり、オリジナルの12系客車の仕様を保っていました。座席は全て指定席でした。

運行の終焉

2020年に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で見合わせが発表されました。そして、2021年5月21日には、使用していた客車の換気能力が十分でないこと、また客車自体の老朽化が進んでいることを理由に、SL北びわこ号という列車そのものの運転終了が正式に発表されました。結果として、2019年 11月10日が事実上の最後の運行日となりました。

列車の運転終了後、2021年9月30日から10月5日にかけて、京都鉄道博物館の施設である「SLスチーム号」を利用して、C56 160が牽引する「SL北びわこ号」としての最後の運転が特別に行われました。このうち10月3日には、2020年の運行開始25周年を記念して企画されていた、地元の小学生たちがデザインを公募した3種類のヘッドマークを掲げて運転され、有終の美を飾りました。

長年にわたり、多くの人々に親しまれ、地域の活性化とSLの保存に貢献したSL北びわこ号は、その歴史に幕を下ろしました。

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