セレンディピティ

セレンディピティ：偶然から生まれる幸運な発見

セレンディピティ（serendipity）とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。何かを探している時に、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけることを指します。

語源と意味

この言葉は、イギリスの政治家であり小説家であったホレス・ウォルポールが1754年に作った造語です。彼が子供の頃に読んだ童話『セレンディップの3人の王子』に由来します。セレンディップはセイロン島、現在のスリランカを指し、「スリランカの3人の王子」という意味です。ウォルポールは友人に宛てた手紙の中で、自身のちょっとした発見について説明する際にこの言葉を初めて使用しました。

英英辞書では、セレンディピティは以下のように説明されています。

The occurrence and development of events by chance in a happy or beneficial way.

日本語では、「セレンディピティ」または「セレンディーピティー」と音写されることが一般的です。「偶察力」と訳されることもありますが、定まった訳語はありません。精神科医の中井久夫は「徴候的知」と呼んでいます。

自然科学におけるセレンディピティ

アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが1958年に『セレンディピティの旅と冒険』を発表したことで、学術誌や科学雑誌で頻繁に使われるようになりました。セレンディピティは、失敗から学び、成功につなげるサクセスストーリーとして、また科学的な大発見を身近に感じさせるエピソードとして語られます。

酒井邦嘉は、ペニシリンの発見や田中耕一の例を挙げ、ルイ・パスツールの言葉を紹介し、「構えのある心」がセレンディピティの重要な要素だと述べています。パスツールは、「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」と述べています。セレンディピティは社会的独創性は高いものの、発想的独創性は低いと言われています。

セレンディピティの代表例

セレンディピティによってもたらされた発見や発明は数多く存在します。

アルキメデスの原理の発見（紀元前3世紀）：アルキメデスが風呂に入った際に、水が溢れるのを見てひらめいたと言われています。
リンの分離と発見（1669年）：錬金術師ヘニッヒ・ブラントが、銀を金に変えようと人間の尿を蒸発させていた際に発見しました。
電流と磁気の関係の発見（1820年）：ハンス・クリスティアン・エルステッドが、実験中に偶然針金に電流を流したところ、方位磁針が動いたことから発見しました。
ゴムへの加硫の発見（1839年）：チャールズ・グッドイヤーが、ゴムに硫黄を混ぜて熱を加えることで、耐久性が向上することを発見しました。
モーブ（紫色染料）の発見（1856年）：ウィリアム・パーキンが、マラリアの特効薬キニーネを研究中に、偶然紫色のアルコール溶液を生成し、世界初の人工染料を発見しました。
ダイナマイトの発明（1866年）：アルフレッド・ノーベルが、ニトログリセリンを安全に扱えるように改良する過程で発明しました。
X線の発見（1895年）：ヴィルヘルム・レントゲンが、真空管放電の実験中に、偶然蛍光板が光るのを発見しました。
ラジウムの発見（1898年）：ピエール・キュリー、マリ・キュリー夫妻が、ポロニウムを抽出した後の残渣に強い電離作用があることから発見しました。
ポリエチレンの発見（1898年）：ハンス・フォン・ペヒマンが、実験中に偶然発見しました。
合わせガラスの発明（1903年）：エドゥアール・ベネディクトゥスが、実験器具の落下事故からヒントを得て発明しました。
リゾチームとペニシリンの発見（1922年と1928年）：アレクサンダー・フレミングが、培養実験中に偶然アオカビが混入したことから、ペニシリンを発見しました。
LSDの幻覚作用の発見（1938年）：アルバート・ホフマンが、LSDを合成した際に誤って摂取し、幻覚作用を発見しました。
テフロンの発見（1938年）：ロイ・プランケットが、フロンガスの研究中に偶然発見しました。
電子レンジの発明（1940年代）：パーシー・スペンサーが、レーダーの研究中にポケットに入れていたチョコレートが溶けたことからヒントを得て発明しました。
マジックテープの発明（1950年頃）：ジョルジュ・デ・メストラルが、ハイキング中に衣服に付着した植物の種子を見て発明しました。
宇宙背景放射の発見（1964 - 1965年）：アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、電波望遠鏡の調整中に偶然発見しました。
* 光免疫療法の発見（2009年）：小林久隆が、がん細胞を特異的に攻撃する新しい治療法を発見しました。

これらの例は、科学的な探求において、偶然の発見がいかに重要であるかを示しています。セレンディピティは、単なる偶然ではなく、知識や経験に基づいた「構えのある心」によって引き寄せられるものと言えるでしょう。

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