前巷説百物語

前巷説百物語

『前巷説百物語』は、京極夏彦による時代小説で、妖怪を題材とした『巷説百物語シリーズ』の第4作にあたります。本作は、シリーズの過去を描いた前日譚であり、主人公の又市が、おぎんや治平といった仲間たちと出会う以前、損料屋「ゑんま屋」に所属していた頃の物語です。

概要

物語の舞台は江戸時代末期。これまで傍観者であった百介の視点ではなく、仕掛け人である又市の視点から物語が展開します。ミステリーでいうところの犯人視点のような構成で、読者は又市がどのように事件を仕組んでいくのかを追体験できます。

又市は、上方で失敗し、江戸に流れ着いた駆け出しの双六売りとして登場します。ひょんなことから損料屋「ゑんま屋」に拾われ、そこで働くことになります。ゑんま屋は、表向きは物を貸す店ですが、裏では人々の「損」を肩代わりする稼業を営んでいます。又市は、そこで出会う仲間たちと共に、様々な事件を解決していくことになります。

あらすじ

物語は、又市が上方で失敗し、林蔵と共に江戸へ流れ着くところから始まります。二人は、ひょんなことから損料屋「ゑんま屋」に拾われ、そこで働くことになります。ゑんま屋には、様々な依頼が舞い込み、又市たちは、それらの依頼を解決するために、江戸の町に様々な「からくり」を仕掛けていきます。物語は、又市がどのようにして後の「御行の又市」へと成長していくのかを描いています。

主要登場人物

又市
異名：双六売りの又市
駆け出しの双六売りで、上方で失敗し江戸に流れ着いた。口は達者だが腕っ節は弱く、人情に厚い性格。
林蔵
異名：削掛の林蔵、御託の林蔵
又市と義兄弟の杯を交わした小悪党。お調子者で女好き。
お甲
ゑんま屋の主。裏の稼業の元締。
角助
ゑんま屋の手代。お甲の腹心。
仲蔵
異名：長耳の仲蔵
手遊屋で、仕掛け道具を作る。
久瀬 棠庵
儒学者崩れの本草学者。博識でゑんま屋の手助けをする。
山崎 寅之助
元公儀鳥見役の浪人。荒事を担当。
巳之八
ゑんま屋の諸事手伝い。

その他の登場人物

おちか
小料理屋「いせ家」の手伝いをしている女。
志方 兵吾
南町奉行所定町廻り同心。
万三
志方の手下の岡っ引き。
小右衛門
異名：御燈の小右衛門
人形師で、裏の渡世の大物。
祇右衛門
異名：稲荷坂の祇右衛門
長吏浅草弾左衛門配下の男。

各話のあらすじ

寝肥
遊女が何度も見受けされては戻されることを繰り返すことに疑問を持った又市。その遊女が殺人を犯したと告白し、角助がその「損」を買う。
周防大蟆
正月に舞い込んだ仇討ちの依頼。又市たちは真相を探っていく。
二口女
又市の元にやってきた角助は、ある厄介な依頼を受けてしまったと話す。久瀬棠庵の推理が光る。
かみなり
立木藩の江戸留守居役が腹を切る。ゑんま屋一味は何者かに命を狙われることになる。
山地乳
渋谷道玄坂にある縁切り堂の黒絵馬に名前を書かれたものは3日以内に死ぬという。志方兵吾が調査に訪れる。
旧鼠
祇右衛門の魔の手がゑんま屋に迫る。仲間が殺されていく中、又市は小右衛門と立ち向かう。

用語解説

ゑんま屋
根岸にある損料屋で、表向きは物を貸す店だが、裏では人々の「損」を肩代わりする稼業を営む。
川津藩
周防の小藩で、義を重んじる風潮が強い。
立木藩
下野の小藩で、財政が厳しい。
黒絵馬
道玄坂の縁切り堂に掛けられた、名前を書かれると死ぬという絵馬。

書誌情報

四六判：角川書店、2007年4月20日、ISBN 4-04-873769-4
新書判：中央公論新社〈C★NOVELS〉、2009年4月1日、ISBN 4-12-501070-6
文庫判：角川書店〈角川文庫〉、2009年12月25日、ISBN 4-04-362007-1

関連作品

寝肥、大蝦蟇、二口女、雷獣、山地乳、旧鼠
人面疔
夔

外部リンク

前巷説百物語 京極　夏彦：書籍 | KADOKAWA

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