妙高型重巡洋艦

妙高型重巡洋艦は、大日本帝国海軍がワシントン海軍軍縮条約の制約下で建造した、10,000トン級の重巡洋艦です。同型艦は「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」の4隻で、当初は那智級重巡洋艦とも呼ばれていました。青葉型重巡洋艦を基に発展した艦型であり、設計は平賀譲造船官が主導しました。

概要

当初、妙高型は八八艦隊計画における7,200トン巡洋艦として計画されていましたが、ワシントン条約締結により、基準排水量10,000トン以内で最大の攻撃力と防御力を備える艦が求められるようになりました。軍令部は20.3cm砲8門と61cm魚雷8門を搭載し、35.5ノットの速力を要求しましたが、魚雷兵装の危険性から、平賀は魚雷を全廃し、主砲を10門とする案を提案しました。

最終的に、軍令部が魚雷発射管の装備を強く要求したため、設計は二転三転しました。平賀が欧州視察中に、藤本喜久雄造船官が設計変更を命じられ、61cm三連装魚雷発射管4基が搭載されることになりました。この結果、居住区画が不足し、艦橋が大型化するなど、設計は複雑化しました。また、武装強化や居住区の追加により、排水量が予定よりも980トン増加し、条約制限を超過することになりました。

武装

主砲

主砲には、前型から引き続き三年式一号20.3cm（50口径）砲を採用しました。新型のD型砲塔に搭載され、110kgの砲弾を最大射程29,000mまで射出できました。砲塔の旋回角度は、一部を除き左右150度で、3番砲塔のみ160度でした。ただし、艦橋への誤射を防ぐため、3番砲塔は後方0度から20度の間では発射できないように制御されていました。

その他の備砲・雷装

高角砲は四五口径十年式12cm高角砲を当初4基搭載する予定でしたが、後に6基に増強されました。近接防御用として、ルイス式7.7mm機銃も2基搭載されました。水雷兵装として、61cm三連装魚雷発射管4基が艦内に固定装備されました。艦内装備は、被弾時に爆風が拡大する危険性があり、居住区画の不足を招きました。艦載機は、カタパルト1基と格納庫を設けて水上機2機を搭載し、艦載機揚収用のデリックも装備されました。しかし、4番主砲の発射時に艦載機が爆風で破壊される危険性も常に存在しました。

防御

甲板防御は、中甲板に35mm（舷側部は32mm）の装甲が施されました。水線部装甲は102mmで、傾斜装甲方式が採用されました。これは当時の同クラス艦と比較して厚い装甲でした。さらに、水線下装甲を艦底部まで伸ばし、機関部には二層式のバルジを設けるなど、可能な限り防御力が強化されました。しかし、水線部装甲の高さはそれほど高くなく、公試状態では重量増加により水線上1.8mまで沈下しました。主砲塔の装甲は軽量化され、榴弾破片防御程度に留まりましたが、バーベット部分の装甲は強化されました。

機関

機関配置は、缶室を前に、機関を後部に配置する全缶全機配置方式でした。主缶は重油専焼缶に統一され、推進機関には艦政本部式ギヤード・タービンが採用されました。これにより、タービン機関の大型化を抑え、低速時には燃料消費量を抑えることができました。公試では13万馬力を発揮し、速力は35.5ノットに達しましたが、実戦状態では若干低下しました。また、排水量の増加により、航続性能も低下しました。

竣工後の近代化改装

第一次改装（1932年～1936年）と第二次改装（1938年以降）により、主砲が203mm砲へ改正され、主砲弾の重量が増加、給弾方法も変更されました。また、大型のバルジが追加され、高角砲や機銃の換装・増備、魚雷発射管の更新、カタパルトの増設などが行われました。機関関係では、ボイラーが一部高温缶に取り替えられ、4軸推進方式に変更されました。これにより、航続距離が延伸しましたが、速度は低下しました。しかし、8インチ砲の散布界過大や、中央縦隔壁による横転沈没の危険性など、問題点も残りました。

エピソード

3番艦「足柄」は、1937年にジョージ6世戴冠記念の観艦式のためヨーロッパへ派遣されました。シンガポールではイギリス海軍の空母「イーグル」と並んで停泊し、現地のメディアから「狼のようだ」と評されました。これは精悍さを評価したとの解釈もありましたが、「狼」という言葉が持つ負の側面を指摘する意見もありました。また、イギリスの新聞記者は、日本の軍艦の居住性が劣悪であると皮肉を込めて評しました。これは、長期間の海外勤務を行うイギリス巡洋艦と異なり、日本の巡洋艦は作戦海域を限定していたため、居住性に重きを置いていなかったことに起因します。

同型艦

妙高
那智
足柄
羽黒

参考文献

国立国会図書館デジタルコレクション
福永恭助『増補軍艦物語』
川井裕『軍艦「足柄」の英国観艦式派遣及びドイツ訪問について』
アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）
雑誌「丸」編集部『写真日本の軍艦第5巻重巡I』
江畑謙介「重巡妙高型の建造と変遷」『艦船模型の制作と研究重巡洋艦妙高クラス』
「世界の艦船増刊昭和61年(1986年)1月増刊近代巡洋艦史」
「世界の艦船増刊平成22年(2010年)10月増刊近代巡洋艦史」
「世界の艦船増刊第32集日本巡洋艦史」

関連項目

平賀譲
海軍休日

外部リンク

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