旧帝国銀行広島支店

旧帝国銀行広島支店は、広島県広島市にかつて存在した帝国銀行の支店であり、現在は広島アンデルセンの店舗として利用されています。この建物は、その歴史と建築的な特徴から、広島の歴史を語る上で重要な役割を果たしています。便宜上、本記事では「旧帝国銀行広島支店」という名称を使用します。

概要

1925年（大正14年）に三井銀行広島支店として建設されたこの建物は、合併により帝国銀行広島支店となりました。1945年（昭和20年）の広島市への原子爆弾投下では、爆心地から360mという至近距離に位置しながらも、奇跡的に全壊を免れました。戦後、様々な変遷を経て、1967年（昭和42年）にタカキベーカリー（アンデルセングループ）が建物を買い取り、店舗としてリノベーションしました。2018年（平成30年）には、アンデルセン開店50周年を迎え、店舗のリニューアルを検討しましたが、東日本大震災を経て、被爆建物の耐震補強に多額の費用がかかることが判明。維持を断念し、建て替えが決定しました。2020年（令和2年）に再開店した現在の店舗は、被爆した外壁の一部を保存し、旧銀行時代のデザインを踏襲しています。この企業努力により、市による被爆建物登録が継続されました。

爆心地にほど近い場所に位置し、戦後、「原爆ドーム」と並んで、広島のシンボルとしてどちらを残すか議論が交わされた建物でもあります。原爆ドームが現状保存されたのに対し、旧帝国銀行広島支店は店舗として再利用されたことは、広島の復興の象徴とも言えるでしょう。

歴史

三井/帝国銀行時代

1876年（明治9年）7月、広島初の私立銀行として三井銀行広島出張店が大手町1丁目に開業しました。その後、1880年（明治13年）には三井銀行広島分店と改称し、大手町2丁目へ移転しました。1925年（大正14年）2月、三井銀行広島支店として3度目の移転と同時に新築されたものが、この建物です。当時の広島の主要道路であった西国街道（山陽道）沿いに建設され、広島の発展を見守ってきました。1943年（昭和18年）、太平洋戦争中の統制により、三井銀行は第一銀行と合併し帝国銀行を設立。この際、この建物は帝国銀行広島支店となりました。

被爆と戦後

1945年（昭和20年）8月6日、広島に原子爆弾が投下されました。旧帝国銀行広島支店は、爆心地からわずか360mという至近距離に位置していました。当時、宿直行員や女子行員がいましたが、全員が死亡し、詳しい状況は不明です。支店内で被爆した者は計32人に上るとされています。建物は爆風により大きく損傷し、屋根のほとんどが落ち、内部も大部分が崩壊しました。しかし、アメリカ製の大型金庫は無事だったため、現金や帳簿類は焼失を免れました。この金庫は、当時のアメリカの新聞でも報道されました。

被爆2日後の8月8日には、日銀広島支店内に仮拠点を構えて営業を再開。同年10月には、大手町1丁目の三井物産跡に仮拠点を移し、1947年（昭和22年）2月には、旧帝銀大手町支店に移転しました。1948年（昭和23年）に帝国銀行が分割されると、帝銀支店は播磨屋町に仮営業所を設置しました。1950年（昭和25年）、建物は復旧を終え、帝国銀行支店として営業を再開しました。1954年（昭和29年）には、元の三井銀行広島支店に変更され、1962年（昭和37年）に老朽化のため、支店社屋は紙屋町に移転しました。

その後、三井銀行本店が建物を所有し、賃貸物件として使用され、広島銀行や農林中央金庫広島支所が仮店舗として利用しました。

広島アンデルセン

1952年（昭和27年）12月、タカキベーカリーは、この建物の北側に「パンホール」を開店していました。業務拡大のため、本通りを挟んだ南側に位置する旧銀行の建物に着目し、三井支店移転後すぐに売買契約を交わしました。1967年（昭和42年）に、タカキベーカリーが正式に建物を取得しました。創業者である高木俊介・高木彬子夫妻は、ヨーロッパで見た菓子メーカーが歴史的建物を活用して商売をしていることに触発され、この銀行建物を活かして北欧風のレストランを併設したパン販売店舗「アンデルセン」を立ち上げました。1967年10月、広島アンデルセンがオープンしました。

その後、1978年（昭和53年）には南側に新館を建設し、1988年（昭和63年）には内装をリニューアル。2002年（平成14年）には、被爆建物部分の耐震補強と全面改装を行いました。アンデルセンの思想により、デンマークとの交流も始まり、1981年（昭和56年）にはマルグレーテ2世女王とヘンリク王配、1987年（昭和62年）にはフレデリック王太子が訪問しました。

遺壁保存

2002年に大規模な耐震補強を行ったものの、2018年には、創業70周年を迎え、店舗リニューアルを検討することになりました。東日本大震災を経て、耐震補強には莫大な費用がかかることが予想されたため、2015年（平成27年）5月に全面建て替えを決定しました。

アンデルセンは、歴史的に価値のある建物を保存するため、広島市と協議し、被爆した外壁の一部約50m²を切り取り、新店舗の東側外壁にはめ込みました。さらに、外壁のストリングコースも残しました。また、新店舗の2階部分は、旧銀行時代のデザインをそのまま踏襲しました。これにより、市公認の被爆建物として登録が継続されました。そして2020年（令和2年）8月に再開店しました。

構造

建物

最初の設計は長野宇平治事務所、施工は竹中工務店によるものです。敷地は本通り沿いに南北に長く、北側が銀行棟、南側に附属棟が配置されていました。玄関は本通り側に設けられ、1階が吹き抜けの営業室、2階が会議室や応接室などでした。附属棟は、行員用の事務所として使用されていました。建物全体は、西洋ルネサンス様式で、玄関両脇には円柱が設けられていました。吹き抜けの営業室や中2階のギャラリーは、当時の銀行建築によく見られる特徴でした。

外壁には岡山産の万成石（花崗岩）が、内部にはイタリア産の大理石が使用されていました。大正末期の鉄筋コンクリート構造で、当時の最先端技術である異形鉄筋が使用されていましたが、コンクリート強度は、長野が設計した日銀広島支店と比較して劣っていたことが後の調査で判明しました。基礎には松杭が用いられていました。

被爆後の復旧設計は山下寿郎設計事務所（現山下設計）、施工は藤田組（現フジタ）によるものでした。健全な部分を最大限に活用し、当時の最新建築規格にあわせて全面的に補強されました。天井のトップライトは、この時に設けられたもので、アンデルセンでもそのまま残されています。

1967年のアンデルセンとしてのリノベーションは、設計・施工ともに大成建設が行いました。1978年の新館建設とリニューアルは、広島建築綜合設計（木村設計事務所）が設計、コンセプトデザインはアメリカのインヒルコ社ジョセフ・バウム、内装はインテリアデザイナーのフィリップ・ジョージ、施工は大成建設が行いました。

エピソード

アンデルセンが建物を購入し改装しようとした際、一つの柱が邪魔になることが判明しました。当時、パン屋はショーケースの中の商品を店員が取り出す方式が一般的でしたが、柱のためにショーケースが設置できませんでした。そこで、アンデルセンはパンをラックに陳列し、客自身がトレイにとって精算する方式に切り替えました。これが日本初のパン屋のセルフチョイス方式となり、他のパン屋にも普及しました。

脚注

参考資料

“広島アンデルセンの建物の歴史”. 広島アンデルセン. 2015年7月24日閲覧。
建築世界社『工学博士長野宇平治作品集』1928年。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1191411。2015年7月24日閲覧。
李明「旧三井銀行広島支店建築とその変遷過程について」（PDF）『総合国際学術誌』第10巻第4号、国際情報学会、2007年9月、2015年7月24日閲覧。
平和データベース - 広島平和記念資料館

外部リンク

原爆被災説明板　帝国銀行広島支店 - 広島市

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