未知なるカダスを夢に求めて

未知なるカダスを夢に求めて：ラヴクラフトの長編小説への探求

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『未知なるカダスを夢に求めて』（原題: The Dream-Quest of Unknown Kadath）は、1927年に完成した長編作品です。短編が中心だったラヴクラフトの作品において、『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』と並ぶ長編として知られており、彼の死後、1943年に発表されました。ドリームランドを舞台としたランドルフ・カーターシリーズの一作であり、カーターが最も若い時期の物語を描いています。物語の結末で、カーターはドリームランドへのアクセスを失います。

夢幻の旅：あらすじ

1904年、30歳のランドルフ・カーターは、夢の世界「未知なるカダスの地」への旅に出ます。彼の冒険は、ウルタール、ダイラス・リーン、オリアブ島、セレファイス、レン高原といった様々な異様な都市や地を巡ります。旅の目的はカダスへの到達ですが、万物の総帥アザトースの意志の代行者であるニャルラトホテプが、ムーンビーストやシャンタク鳥などの怪物を使い、カーターの旅を妨害します。一方、ウルタールの猫、夜鬼、屍食鬼、そして神ノーデンスらがカーターを支援します。カーターの冒険は、まさに夢と現実、そして様々な存在との壮絶な戦いとなります。

異世界の舞台：ドリームランド

物語の舞台は、眠りの中で「炎の神殿」と「深き眠りの門」を越えた先に広がるドリームランドです。「夢見る者」だけが到達できる異世界であり、目覚めた世界とは地理的に異なる独自の都市や環境が存在します。セレファイスやウルタールといった都市が繁栄し、人語を話す猫や、地上と月を往来するガレー船といった不思議な存在も登場します。そして、カダスには神々が住んでいるとされています。

主要登場人物

ランドルフ・カーター: 主人公。カダスを目指してドリームランドを冒険する。ラヴクラフト作品における主要な主人公の一人です。
ニャルラトホテプ: カダスへのカーターの旅を妨害する、アザトースの代行者。クトゥルフ神話において重要な存在です。
リチャード・アプトン・ピックマン: 屍食鬼であり、カーターに協力する。ラヴクラフトの他の作品にも登場する人物です。
クラネス: 夢の国の都市セレファイスの王。『セレファイス』という作品にも登場します。
* ノーデンス: ニャルラトホテプと敵対する神。

作風と影響

ラヴクラフトは「宇宙的恐怖」をテーマに掲げ、地球中心的な思考を脱却した宇宙生物を描いてきました。しかし、『未知なるカダスを夢に求めて』は、他の作品とは異なり、ファンタジー色が強く、しゃべる猫や怪鳥といった地球的な要素や神々が登場します。この作風の違いは、ラヴクラフトが自らこの作品を発表しなかった理由の一つと考えられています。

ラヴクラフトの手紙には、商業誌への掲載を期待せず、素朴な御伽噺に近い作品として執筆したことが記されています。ウィリアム・トマス・ベックフォードの『ヴァテック』や、エドガー・ライス・バローズの『火星シリーズ』、ライマン・フランク・ボーンの『オズの魔法使い』など、様々な作品からの影響が指摘されています。また、未完の断片『アザトース』とも関連性が深いとされています。

ランドルフ・カーターと関連作品

ランドルフ・カーターは、ラヴクラフト作品における主要な主人公であり、「ラヴクラフトの理想化された分身」とも言われています。本作は、カーター・シリーズの中で時間軸的に最も古い作品ですが、他の作品との関連性も深く、複数の作品にまたがる登場人物や地名が登場します。ドリームランドへの冒険を通じて、カーターは最終的にドリームランドへのアクセスを失い、現実世界への嫌悪感を抱くようになります。

断片『アザトース』

『アザトース』は、1922年に執筆が始まったものの中断された断片です。約480語の書き出し部分のみが残っており、『未知なるカダスを夢に求めて』と同様、夢の世界への冒険を描いています。

ピックマン

グールのピックマンは、『ピックマンのモデル』など他の作品にも登場しますが、本作における描写は、エドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』の影響を受けている可能性が指摘されています。

まとめ

『未知なるカダスを夢に求めて』は、ラヴクラフトの他の作品とは異なるファンタジー色の強い長編小説です。ドリームランドという異世界を舞台に、様々な存在が登場する壮大な冒険譚は、読者に独特の恐怖と魅力を与え続けます。この作品は、ラヴクラフトの他の作品や、彼が影響を受けた作品群を理解する上で、重要な一作と言えるでしょう。

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