(614689) 2020 XL5

概要

小惑星(614689) 2020 XL5は、地球近傍を公転する天体であり、(706765) 2010 TK7に続いて史上2番目に確認された地球のトロヤ群小惑星です。トロヤ群天体は、惑星の軌道上で、主星（太陽）と惑星の重力が釣り合う安定点、通称「ラグランジュ点」の近くに存在します。2020 XL5は、地球軌道の約60度前方に位置するラグランジュ点L4の周囲を振動するように移動しています。その軌道は動的に安定しており、少なくとも今後約4,000年間はこのL4点の近辺に留まると予測されています。

発見

この小惑星は、ハワイ州マウイ島にあるハレアカラ天文台のPan-STARRS 1望遠鏡による観測で、2020年 12月12日に発見されました。発見当時の見かけの明るさは21.4等級で、星座としてはコップ座の方向に位置していました。発見後、国際的な観測ネットワークによる追跡観測が行われ、その存在と軌道が確認されました。また、過去の観測記録を遡って調査した結果、2020年11月には既にレモン山サーベイによって観測されていたことも判明しています。これらのデータは、2020年 12月14日に小惑星電子回報（MPEC）として公表され、正式に仮符号(2020 XL5)が付与されました。

軌道と分類

(614689) 2020 XL5の軌道は、8年以上にわたる観測データに基づいて非常に高い精度で決定されており、軌道の不確実性を示すパラメータは最良の値である「0」となっています。太陽からの平均距離は約1.001天文単位（AU）で、これは地球の軌道長半径とほぼ同じです。公転周期も約365.8日と、地球の1年とほぼ同じですが、軌道の離心率は0.388と比較的大きく、楕円形をしています。また、軌道面は黄道面に対して約13.8度傾いています。軌道上の太陽からの距離は、近日点では約0.61 AU、遠日点では約1.39 AUの間で大きく変動し、金星と地球の軌道を横断しています。地球の軌道を横切る性質を持つため、地球近傍小惑星の一つであるアポロ群に分類されています。

トロヤ群小惑星としての軌道

惑星のトロヤ群天体は、惑星と主星（太陽）の間の重力的な安定点であるラグランジュ点（特にL4とL5）の周囲を公転します。これらの点は、惑星の軌道上で惑星の前方60度（L4）および後方60度（L5）に位置し、天体は惑星と1:1の軌道共鳴状態にあります。(614689) 2020 XL5は、地球軌道のL4点の周囲を、いわゆる「Tadpole orbit（オタマジャクシ軌道）」と呼ばれる、L4点を中心に大きく振動するような軌道を描いています。2021年1月、アマチュア天文家のTony Dunn氏がこの小惑星の軌道が地球のL4点付近にある可能性を指摘し、その後の詳細な軌道分析によって地球のトロヤ群であることが確認されました。特に重要なのは、その軌道安定性です。数値シミュレーションの結果、2020 XL5の軌道は少なくとも4,000年間は地球のL4点に留まると予測されており、これは既知のもう一つの地球トロヤ群である(706765) 2010 TK7（安定期間が2,000年未満とされる）よりも長い期間の安定性を示しています。シミュレーションでは、この小惑星が15世紀頃から地球のL4点に取り込まれた可能性も示唆されています。ただし、(614689) 2020 XL5は高い軌道離心率を持ち、金星の軌道にも比較的近くを通過することがあります。現在のところ、その軌道面が金星の軌道面から外れているため、金星による重力的な影響は小さいですが、数百年かけて昇交点黄経が変化することで金星との最小交差距離が小さくなり、最終的には数千年後にはL4点から外れて不安定な軌道に移行する可能性も指摘されています。

物理的特徴

2020年から2021年にかけて行われた測光観測によれば、(614689) 2020 XL5は炭素質のC型小惑星に似た色を持つことが示されています。C型小惑星の一般的な反射率（アルベド）を仮定した場合、絶対等級18.6等から推定される直径は約1.18キロメートルとなります。これは、これまでに知られていた唯一の地球トロヤ群小惑星であった(706765) 2010 TK7（直径約380メートル）と比べて3倍以上大きく、現在のところ発見されている地球のトロヤ群小惑星の中では最も大きな天体です。地球からは薄明時の地平線近くでしか観測できないため、大気の影響により自転による光度の変化などを正確に測定することは難しく、現在のところ自転に関する詳細な情報は得られていません。

探査の可能性

(614689) 2020 XL5は、その軌道傾斜角が大きいことから、もし地球低軌道からの探査ミッションを計画する場合、ランデブー（接近して伴走）するためには合計で最低約10.3 km/sという大きな速度変化（デルタV）が必要となります。これは一般的な小惑星探査ミッションのターゲットとしては要求されるエネルギーがかなり大きい部類に入ります。しかし、単にフライバイ（通過観測）を行うだけであれば、最低約3.3 km/sのデルタVで実現できる可能性が実現できるとされています。

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