「粘土のお面」より かあちゃん

映画『「粘土のお面」より かあちゃん』について

1961年3月15日に公開された『「粘土のお面」より かあちゃん』は、中川信夫監督による日本の白黒映画です。新東宝が製作・配給を手掛け、新東宝スコープで上映されました。この作品は、豊田正子の自伝的小説『粘土のお面』を原作としています。新東宝の自社配給作品としては、中川信夫監督の最後の作品となりました。

概要

中川信夫監督は、前作の『地獄』で描いたテーマをさらに深く追求しようとしていた時期に、本作を制作しました。ダンテの『神曲』地獄篇を基にしたシナリオを書き進める一方で、怪奇映画とは全く異なる文芸作品に挑戦したのです。前年に新東宝の社長が解任された影響で、大蔵貢のような強力なプロデューサー不在の状況下で製作されましたが、その結果として、初期の新東宝映画のような文芸的な色彩が強くなりました。

脚本を担当したのは、中川監督の文芸作品を多く手掛けてきた館岡謙之助です。彼は、『思春の泉』や『若き日の啄木 雲は天才である』といった作品で中川監督と協力しており、本作は『青ヶ島の子供たち 女教師の記録』以来、6年ぶりの参加となりました。

また、中川監督の怪談や時代劇でおなじみの北沢典子が、本作では珍しく現代劇に挑戦し、二木てるみ演じる主人公の少女が通う小学校の教師役を演じました。中川監督は、北沢典子が『ラ・マルセイエーズ』を歌うシーンを非常に気に入っていたと伝えられています。晩年のインタビューでは、本作を自身のベスト3の一つに挙げており、自叙伝では他の作品に苦言を呈する一方で、本作のみを「大好きな作品」と語っています。

あらすじ

物語の舞台は1949年の年末、東京の下町にある長屋です。ブリキ屋を営む由五郎は、借金に苦しみながら正月を迎えようとしていました。妻のお雪は、娘の正子に「由五郎が怪我をしてお金がない」という嘘の手紙を持たせ、得意先から借金をしてなんとか正月を乗り切ろうとします。しかし、正月が過ぎると家にはお金がなく、由五郎は不機嫌になります。

正子が学校で賞をもらった粘土のお面は、大好きな「かあちゃん」であるお雪をモデルにしたものでした。しかし、由五郎はそれを「縁起が悪い」となじり、正子は泣く泣く担任の木村先生に預けることになります。木村先生は、若くて美しい声を持つ、正子の憧れの存在でした。

夫婦喧嘩の末、お雪が家を飛び出す騒動が起こります。由五郎は、どんなに働いても人に騙されてしまい、家賃も払えずに夜逃げを決意します。夜の闇に消えていく家族を見つめる正子の耳に、木村先生が好きだった『ラ・マルセイエーズ』を歌う巡査の声が聞こえてくるのでした。

スタッフ

監督: 中川信夫
企画: 柴田万三
原作: 豊田正子
脚色: 館岡謙之助
撮影: 平野好美
美術: 黒澤治安
照明: 傍士議雄
音楽: 木下忠司
録音: 道源勇二

キャスト

豊田由五郎: 伊藤雄之助
女房お雪: 望月優子
豊田正子: 二木てるみ
稔坊: 津沢彰秀
木村芳子: 北沢典子
金谷トシエ: 浜野桂子
トシエの父親: 河合英二郎
トシエの母親: 花岡菊子
山崎: 鶴丸睦彦
山崎の女房: 西朱実
清坊: 鈴木新
圭吉: 黒丸良
圭吉の母親: 藤村昌子
池辺さん: 林寛
かべ屋: 田崎潤
おかみさん: 加藤欣子
吉田の奥さん: 山下明子
吉田の女中: 橘恵子
須藤: 山田長正
巡査: 宇津井健
立石のかしら: 沖竜次
留蔵: 加藤章
教頭先生: 中村彰
草加のおやじさん: 石川冷
ある男: 宮浩一
団子屋: 川部修詩

参考文献

鈴木健介編『地獄でヨーイ・ハイ! 中川信夫怪談・恐怖映画の業華』、ワイズ出版、2000年
『北沢典子インタビュー』、北沢典子、同書
滝沢一・山根貞男編『映画監督 中川信夫』、リブロポート、1987年
『インタビュー 全自作を語る』、中川信夫、聞き手桂千穂、同書
『自分史 わが心の自叙伝』、中川信夫、同書
『中川信夫・フィルモグラフィーおよび年譜』、鈴木健介、同書

外部リンク

「粘土のお面」より かあちゃん - allcinema
「粘土のお面」より かあちゃん - KINENOTE
「粘土のお面」より かあちゃん - IMDb（英語）

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