つくば科学万博の交通

1985年（昭和60年）3月17日から9月16日まで、茨城県筑波郡谷田部町（現在のつくば市）で開催された国際科学技術博覧会、通称「つくば科学万博」では、会期中に多くの来場者を迎えました。この博覧会を成功させるため、会場へのアクセス手段として、鉄道や道路インフラの整備、そして会場内の交通機関の充実が図られました。以下に、当時の交通システムについて詳しく解説します。

会場へのアクセス

鉄道

鉄道アクセスでは、常磐線に万博開催期間限定の仮設臨時駅「万博中央駅」が設けられました。この駅は、当時の名古屋駅や京都駅に匹敵する規模を持ち、1日最大20万人の乗降に対応できるよう設計されました。万博中央駅の西口からは、会場北ゲートを結ぶ連節バス「スーパーシャトル」が運行し、東口にはスーパーシャトル100台分の待機スペースが設けられました。また、常磐線の土浦駅と牛久駅からは、在来型のシャトルバスも運行されました。さらに、東北本線の古河駅からは、国鉄バスが会場まで直通していました。

道路

道路アクセスでは、常磐自動車道が主要ルートとなり、東京方面からは谷田部インターチェンジまたは谷田部仮出口から、水戸方面からは桜土浦インターチェンジから、それぞれ案内標識に従って会場へ向かうことができました。団体バスは会場内の駐車場を利用でき、自家用車利用者は場外東駐車場から「動く歩道」で会場まで移動することができました。開催期間中は、会場周辺の道路や交差点で大規模な交通規制が実施され、シャトルバスの定時運行を確保しました。

万博中央駅

常磐線牛久駅と荒川沖駅間に設置された臨時駅「万博中央駅」は、万博の鉄道アクセスにおける重要な役割を担いました。1日最大20万人の乗降客に対応できるよう、大規模な設備が整えられました。駅構内には、シャトルバス発着場、待合広場、旅行センター、国鉄直営売店などが設けられ、万博ムードを盛り上げるための演出も施されました。駅には普通列車のほか、臨時快速「エキスポライナー」が停車しました。万博終了後、駅は取り壊される予定でしたが、地元住民の要望により、駅の記念として一部の構造物と記念碑が残されました。その後、この場所には1998年に「ひたち野うしく駅」が開業し、記念碑は現在、ひたち野うしく駅西口に移設されています。

エキスポライナー号

上野駅、我孫子駅、取手駅、大宮駅と万博中央駅、土浦駅を結ぶ臨時快速列車「エキスポライナー」が運行されました。直流・交流電化の接点であるデッドセクションを通過するため、使用できる車両は交直流電車に限られました。博覧会のキャラクター「コスモ星丸」のヘッドマークが全列車に掲げられ、寝台車を座席車として利用するなど、当時の国鉄の柔軟な対応が伺えます。また、列車によっては、我孫子駅や取手駅で折り返し、定期列車と接続する運用も行われました。エキスポライナーの運転は、特に取手駅〜土浦駅間の利用客の日常的な需要に応える結果となり、一部の列車は博覧会終了後も定期列車として運行されるようになりました。

エキスポドリーム号

会場周辺の宿泊施設の不足に対応するため、「エキスポライナー」で使用されていた寝台車を土浦駅でホテルとして利用する「エキスポドリーム」が運行されました。夜間に土浦駅に到着した列車が、翌朝、万博中央駅まで運転されました。乗車券は、土浦駅〜万博中央駅間の乗車券を持つ人にのみ販売され、当時としては比較的安価な均一料金で提供されました。

割引乗車券とサービス

全国の各駅から、万博会場最寄りの駅までの往復割引乗車券「科学万博往復割引きっぷ」が販売されました。また、手荷物を預けて会場を身軽に見学できる「科学万博キャリーサービス」も、東京駅、上野駅、土浦駅で提供されました。

スーパーシャトルバス

万博中央駅から会場を結ぶアクセスバスとして、スウェーデン・ボルボ製の連節バス「スーパーシャトル」が運行されました。全長17.99メートルの車体は、162人もの乗客を運ぶことができました。バスには、運転手が後方を確認するためのモニターテレビが設置され、コンピュータ制御による運行管理システムも導入されました。このシステムは、当時としては画期的なバスロケーションシステムでした。運行は、地域外の31社が担当し、100台のバスが投入されました。閉幕後、これらのバスの一部は海外へ輸出されたり、他の事業者に譲渡されたりしましたが、一部は動態保存されています。

その他のバス

万博中央駅以外にも、周辺の各駅から会場まで連絡バスが運行されました。これらのバスは、地元バス事業者が担当し、新車が投入されました。また、会場とサブ会場のエキスポセンターを結ぶ連絡バスや、つくばセンターバスターミナルから会場へのバスも運行されました。

オフィシャル・エアライン

日本航空が「オフィシャル・エアライン」となり、多くの機材に万博のロゴマークを入れて運行しました。また、多くのパッケージツアーも主催しました。しかし、開催期間中の8月12日には、羽田発伊丹行きの日本航空123便が墜落する事故が発生し、万博帰りの観光客も犠牲となりました。

ヘリコプター

東京国際空港、東京ヘリポート、新東京国際空港（現：成田国際空港）などから、ヘリコプターによる会場へのアクセスも可能でした。飛行時間は30分以内で、会場のヘリポートからはバスで西口ゲートまで送迎されました。

会場内交通機関

HSST

HSST方式の磁気浮上式鉄道がデモ運行されました。最高時速30キロで約350メートルのコースを往復しました。この技術は、後に愛知万博で実用化されました。

ビスタライナー

コンピュータ制御のミニモノレール「ビスタライナー」が、会場内を移動する手段として利用されました。4人乗り観覧車のような車両が17両連結され、3社がスポンサーとなっていました。終了後、一部は大阪の万博記念公園に移設されました。

スカイライド

会場内で利用されたロープウェイで、終了後、東武動物公園に移設されました。

ポレポレバス

トヨタ自動車のマイクロバスをベースにした会場内巡回バス「ポレポレバス」が運行されました。「ポレポレ」とはスワヒリ語で「ゆっくり」という意味です。車椅子利用者のためにリフト付きの車両も用意され、安全運行のために童謡「かっこう」のメロディーを流して走行しました。

まとめ

つくば科学万博では、鉄道、バス、自家用車、ヘリコプターなど、多様なアクセス手段が整備され、多くの来場者を円滑に輸送するための工夫が凝らされました。また、会場内では、磁気浮上式鉄道、ミニモノレール、ロープウェイ、巡回バスなど、様々な交通機関が利用でき、万博を訪れる人々に快適な移動を提供しました。

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