はやし・こば

作曲家・編曲家であるはやし・こば（本名：小林郁夫）は、1935年7月27日に東京都で生を受け、2016年1月11日に80歳でその生涯を終えました。彼は日本の広告音楽界において、多くの人々に記憶されるCMソングやサウンドロゴを数多く世に送り出した功績で知られています。

経歴

東京都立大学心理学科で音楽心理学を専攻し、大学を卒業しました。学生時代から音楽活動に熱心で、都立高校在学中には既にジャズ・ピアニストとしてバンド活動を行い、在日米軍キャンプのクラブなどで演奏していました。

大学卒業後、東芝音楽工業（現在のユニバーサルミュージックの一部）で専属編曲家として活動しました。この時期に培われた経験が、後の多様な音楽制作に活かされます。

1962年、日本のCM音楽のパイオニアである三木鶏郎が主宰する音楽工房に参加したことが、彼のキャリアにおける大きな転換点となりました。三木鶏郎のもとでCMソングの作曲を本格的に開始し、現在の活動名である「はやし・こば」も三木鶏郎によって名付けられたものです。

CM音楽の分野で頭角を現した後、1972年には自身のプロダクション、コバ・ミュージック出版株式会社を設立し独立。以後、日本の広告音楽制作の中心人物の一人として、多数のCMソングやサウンドロゴを手がけました。

主な作品

CM音楽

はやし・こばの制作したCMソングやサウンドロゴは、その多くがCMと一体となって広く親しまれました。いくつか代表的なものを挙げます。

CMソング:
「フェザー オソリソリ」（フェザー安全剃刀「ハイ・ステンレス」）
「鉄火焼せんべいの歌」(ホンダ製菓「鉄火焼せんべい」)
「ガンバラナクッチャ」 （中外製薬「新グロモント」）
「ハイミー、パパパーッ」（味の素「ハイミー」）
「答一発! カシオミニ」 （カシオ計算機「カシオミニ」）
「ホテルニュー岡部」 （ホテルニュー岡部）
「おトイレ・ソング」 （藤沢薬品工業「ピコレット」）
「毎度毎度のおさそいに…」 （大正製薬「大正漢方胃腸薬」）
「アンツーカーの走り」 （スズキ「カルタス」）
「白松が最中」 （白松がモナカ）

サウンドロゴ:
「もまずにあったまる金鳥どんと」 （大日本除虫菊「金鳥どんと」）
「タンスにゴン」 （大日本除虫菊「金鳥ゴン」）
「こてっちゃん」 （スタミナ食品）
「ビトウィーンライオン」 （ライオン）
「味なことやるマクドナルド」 （日本マクドナルド）
「いいことあるぞ」 （ダスキン「ミスタードーナツ」）
「やめたい人の禁煙パイポ」 （アルマン）

アニメ音楽

テレビアニメの音楽も手がけており、特にタツノコプロ制作の作品でその才能を発揮しました。

フジテレビ系、TCJ動画センター制作:
遊星仮面(1966-1967年) ※嵐野英彦と共同
フジテレビ系、タツノコプロ制作:
カバトット（1971-1972年）
かいけつタマゴン（1972-1973年）
一発貫太くん（1977-1978年） ※市川昭介と共同
とんでも戦士ムテキング（1980-1981年）
ダッシュ勝平（1981-1982年）

映画音楽

CMディレクターとして知られる市川準が監督した映画「ノーライフキング」（1989年）の音楽を担当しました。

その他の音楽・編曲

CMやアニメ以外にも、本名の小林郁夫名義を含め、幅広いジャンルの音楽制作に関わりました。克美しげるの楽曲編曲や、「ひらけポンキッキ」への楽曲提供などがあります。

「霧の中のジョニー」（克美しげる、1961年） ※編曲（小林郁夫 名義）
「片目のジャック」（克美しげる、1962年） ※編曲（小林郁夫 名義）
「バチ・バチ」（林家三平、1968年） ※作・編曲（小林郁夫 名義）
「グットがまんして!!」（小山ルミ、1970年）
「ヤセタンとコロンタン」（ひらけポンキッキ）
「あのエリマキトカゲの唄」（はやしこば、1984年）

俳優・声優活動

はやし・こばは音楽活動に加え、異分野でもその才能を発揮しました。CMでの縁を通じて市川準監督と親交を深め、彼の監督作品には俳優としてたびたび出演しました。また、スタジオジブリ制作、宮崎駿監督の長編アニメーション映画「千と千尋の神隠し」（2001年）では、河の神（オクサレ様）の吹き替え声優として参加しています。

主な出演映画:
BU・SU（1987年、市川準監督） - 辰巳 役
ノーライフキング（1989年、市川準監督） - 校長先生 役
東京夜曲（1997年、市川準監督） - 浜中の父 役
ざわざわ下北沢（2000年、市川準監督） - 有希の祖父 役
主な声優出演:
千と千尋の神隠し（2001年、宮崎駿監督） - オクサレ様/河の神 役

晩年と死去

2011年には、過去に手がけたCM音楽を集めたCDアルバム「はやし・こば CM WORKS」が発売され、その功績が改めて多くの人々に紹介されました。

2016年1月11日、敗血症のため80歳で逝去。日本のCM音楽史に大きな足跡を残しただけでなく、アニメ、映画、俳優、声優と多岐にわたる分野で活躍した、記憶に残る音楽家です。

著書

『オタマジャクシ村への招待状』 （大阪書籍、1987年）

参考文献

田家秀樹『みんなCM音楽を歌っていた』（徳間書店、2007年）

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