アッバース朝革命

アッバース朝革命：イスラム世界の変革

アッバース朝革命は、8世紀にウマイヤ朝を倒し、アッバース朝を成立させた一連の出来事を指します。この革命は、イスラム世界の政治、社会、文化に大きな変化をもたらしました。

研究小史

19世紀末、ヨーロッパの東洋学者は、この革命に人種主義的な解釈を加えました。フロテンは、この事件を重税に苦しむイラン人のアラブ支配に対する反乱とみなし、その動機をイラン民族主義とシーア派思想に求めました。一方、ヴェルハウゼンは、マワーリー（非アラブ人改宗者）の税制上の不平等が原因であると主張しました。彼は、革命軍の兵士の多くはイラン人農民であったものの、指導層にはアラブ人もおり、シーア派思想はイラン民族主義とは無関係に生じたと指摘しました。ヴェルハウゼンは、ウマイヤ朝を「アラブ帝国」、アッバース朝を「イスラーム帝国」と呼び、この理論は修正されつつも現代まで影響を与えています。

背景

ウマイヤ朝の正統性は当初から疑問視されていました。ハワーリジュ派による反体制運動が絶えず、ムアーウィヤによる世襲制の導入や、ヤズィード1世によるフサイン殺害は非難を浴びました。さらに、ウマイヤ朝はアラブ人を優遇し、非アラブ人改宗者をマワーリーとして差別し、ジズヤ（人頭税）を課しました。歴代カリフがイスラムの戒律を軽視したことも批判されました。

743年のヒシャームの死後、王朝の衰退は決定的となりました。その要因としては、南アラブ人と北アラブ人の対立、宮廷内の権力争い、無能なカリフの続出、シーア派の影響力拡大、マワーリーの不満、そしてイラン民族主義の台頭などが挙げられます。このような状況下で、預言者ムハンマドの叔父の末裔であるアッバース一族が、各地の不満分子を利用して権力獲得を目指しました。

経過

アッバース一族は、ハーシム家の一員として尊敬されていましたが、政権からは遠ざけられていました。しかし、ウマイヤ朝の正統性が疑われる中で、アッバース一族は預言者に近い血統を主張し、イスラム世界の支配権を要求しました。当主ムハンマドは、フマイマを拠点にハーシミーヤという政治運動を組織し、各地にダーイー（秘密教宣員）を派遣してウマイヤ朝への不満を煽りました。クーファにも重要な支部が置かれました。

ダーイーたちは、最終目的を隠しつつ、シーア派と結び、各地で反乱を組織しました。アブー・ムスリムはホラーサーンで挙兵し、748年にメルヴを占領。総督ナスルを殺害し、大軍を西方に派遣しました。ホラーサーン軍はイラン各地を制圧し、749年にイラクに到達しました。

ウマイヤ朝側は、アッバース一族の動きを察知し、当主イブラーヒームを捕えて処刑しました。しかし、弟のアブー・アル＝アッバースらはクーファに脱出しました。ホラーサーン軍はクーファを制圧し、749年10月/11月にアブー・アル＝アッバースがカリフとして推戴されました。これが初代カリフのサッファーフです。マルワーン2世はザーブ河畔の戦いで敗北し、エジプトで殺害されました。750年4月にはダマスカスが陥落し、ウマイヤ朝の王族のほとんどが殺害されました。アブド・アッラフマーンはイベリア半島に逃れ、後ウマイヤ朝を建てました。

結果

アッバース朝は、革命協力者としてシーア派やカイサーン派を利用しましたが、王朝確立後は彼らを弾圧しました。また、アブー・ムスリムら功臣も粛清されました。

アッバース朝では、官僚制が組織され、カリフの権威が強化されました。カリフはめったに人前に姿を現さず、文武百官によって隔絶されました。カリフは様々な称号を帯び、「神の代理人」と名乗るようになりました。また、カリフの意に沿わぬ者はその場で処刑されました。

アッバース朝の成立により、ペルシア人の影響力が増しました。ペルシア人は官僚として取り立てられ、宰相の位をほぼ独占しました。軍事面でも、ホラーサーン人によるカリフの親衛隊が中核を担いました。文化面でもペルシア化が進み、宮廷ではサーサーン朝に倣った官制や称号が導入されました。アッバース朝をアラブ人とペルシア人の連合政権とみなす研究者もいます。

アッバース朝治下では、非アラブ人に対する税制上の差別待遇が撤廃されました。ムスリムであれば非アラブ人であってもジズヤは課されず、アラブ人であっても土地を所有していればハラージュが課されるようになりました。バグダードを中心に国際交易が発達し、多様な文化や民族の融合が促進されました。歴代カリフはアラブの部族制を重視せず、ペルシア人をはじめとする諸民族から妃妾を迎えました。イスラムへの改宗とアラビア語の普及も進みました。ウマイヤ朝がアラブ帝国であるのに対し、アッバース朝は人種を問わない普遍的世界帝国、すなわちイスラーム帝国であると論じられます。

歴史的意義をめぐる論争

ヴェルハウゼンは、アッバース革命をペルシア人改宗民による政治革命とみなしました。しかし、アッバース革命を担ったホラーサーン軍の中核はアラブ人兵士の子孫であり、革命はアラブ人がペルシア人の力を利用してウマイヤ朝を打倒したに過ぎないと反論する意見もあります。

アッバース朝革命は、イスラム世界の歴史における重要な転換点であり、その影響は現代にも及んでいます。

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