アンガラ (ロケット)

アンガラロケット

「アンガラ」（ロシア語: Ангара、英語: Angara）は、ロシアが開発・運用する新型の人工衛星打ち上げ用ロケットです。その名称は、ロシアのアンガラ川にちなんで名付けられました。このロケットは、多様化していた既存の主力ロケット（コスモス-3M、ツィクロン、ロコット、ゼニット、プロトンなど）を段階的に置き換え、ロシアの宇宙輸送システムを一本化することを目指して開発されました。

概要

アンガラの最大の特徴は、ユニバーサル・ロケット・モジュール（URM）と呼ばれる共通の基本構成要素を組み合わせることで、打ち上げ能力を柔軟に変更できる点にあります。これはアメリカのEELV（発展型使い捨てロケット）プログラムと同様の設計思想ですが、アンガラは固体燃料ロケットブースター（SRB）を使用せず、液体燃料モジュールのみで構成されます。構成の変更により、低軌道へ約3,800kgから最大約24,500kgの貨物を投入可能です。将来の構想には、補助ブースターを回収・再使用する「バイカル」計画も含まれており、大幅なコスト削減を目指しています。アンガラロケットは、派生型によらず同一の射場設備からの打ち上げが可能です。

アンガラの技術検証は、計画初期から韓国の羅老ロケット開発に協力する形で進められました。羅老ロケットの第1段にアンガラ第1段と同系統のURM/RD-151エンジンが採用され、2009年からの羅老の打ち上げを通じて、その性能や信頼性が試験されました。これらの打ち上げは、ロシアが開発資金の一部を得る機会ともなりました。

アンガラロケット自体の初飛行は、当初の予定より遅れて2014年7月に行われました。これは、財政難による射点建設の遅れなどが主な要因でした。最初の打ち上げは、小型の「アンガラ1.2PP」による弾道飛行として実施されました。

設計

アンガラロケットは、共通設計であるURMを核として構成されます。

URM-1（第1段および補助ロケット）
ロケットの基本となるコアモジュールです。液体酸素とRP-1（ケロシン）を燃料とするNPOエネゴマシュ製の液体ロケットエンジン、RD-191を1基装備します。RD-191エンジンは、エネルギアのブースター用エンジンとして開発されたRD-170から派生した単燃焼室エンジンであり、同様のファミリーにはゼニットに使用されるRD-171（4燃焼室）やアトラスVに使用されるRD-180（2燃焼室）があります。アンガラでは、ペイロードや軌道に合わせて、このURM-1を中央コアとして使用しつつ、その周囲に1本、3本、5本、あるいは7本のURM-1を補助ロケットとして束ねる構成が可能です。中央のURM-1は、補助ロケット分離まで推力を絞って飛行し、推進剤を温存する能力を持ちます。URM-1の構造は、上部に液体酸素タンク、下部にケロシンタンクを配置し、底部にはピッチ・ヨー制御用のジンバル機構やロール制御用の推進器を備えています。

URM-2（第2段）
第1段の上に搭載されるモジュールです。アンガラ1.2バージョンでは、ソユーズ2.1bロケットでも使用されるブロックIを第2段として利用しますが、他の派生型ではブロックIを拡張したURM-2が使用されます。URM-2は液体酸素とケロシンを燃料とし、キマフトマティキ製のRD-0124Aエンジンを装備します。RD-0124Aは、ソユーズ2の第2段ブロックIに使用されるRD-0124と類似したエンジンです。URM-2の直径は、アンガラA5などの大型派生型では3.6mが予定されていますが、アンガラ1.2ではより小型の2.66m、あるいはURM-1と同径の2.9mとなる可能性もあります。

上段
低軌道へのペイロード投入では使用されないことが一般的ですが、静止トランスファ軌道などの高エネルギー軌道へ投入する際に使用されます。アンガラA5では、プロトン-Mロケットでも実績のあるブリーズ-M上段（推進剤：N2O4/UDMH）または、液体水素と液体酸素を推進剤とする新型の極低温上段KVTK（エンジン：RD-0146D）を使用可能です。ボストチヌイ宇宙基地からの打ち上げにおいては、毒性の強い推進剤を使用するブリーズMを避けるため、ブロックDの使用も検討されています。

主な派生型と構想

アンガラロケットは、URMの組み合わせによって様々な能力を持つ派生型が計画・開発されています。

アンガラ 1.2：URM-1コア1基と改良型ブロックIで構成される最小バージョン。低軌道へ約3.8トンの投入能力を持ちます。
アンガラ 1.2PP：2014年7月の初飛行に使用されたアンガラ1.2の特別バージョン。弾道飛行で主要要素を試験しました。
アンガラ A5：URM-1コア1基と4基のURM-1補助ブースター、URM-2、そして上段（ブリーズ-MまたはKVTK）で構成される主力バージョン。低軌道へ約24.5トン、静止トランスファ軌道へ約5.4トン（ブリーズM）または約7.5トン（KVTK）の投入能力を持ちます。

その他、計画段階で中止または計画が落ちた派生型として、小型のアンガラ1.1（ソユーズ2-1vと重複）、中型版のアンガラA3（ソユーズ2と重複）があります。将来的な構想には、有人宇宙船打ち上げを想定したアンガラA5P（2段目なしで弾道軌道投入）、大型水素上段や強化型URM-1を備える高能力化型のアンガラA5V（低軌道へ35-40トン目標）、そして超重量級のアンガラA7（低軌道へ35トン、静止トランスファ軌道へ12.5トン目標、専用射場必要）などがあります。さらに、NASAの提案に応じた超重量物打ち上げ機アンガラ-100の構想も存在しました。再使用可能なURM-1ブースターであるバイカルの開発計画もかつて進められていました。

開発と運用

アンガラロケットの開発は1995年にロシア政府によって承認されました。URMやエンジンの地上試験は2000年代後半から行われましたが、開発資金の不足から初飛行は度々延期されました。韓国の羅老ロケットの第1段としてURM/RD-151が採用されたことは、技術検証と資金確保の点でアンガラ計画に寄与しました。

アンガラとしての最初の打ち上げは、前述の通り2014年7月9日にアンガラ1.2PPによりプレセツク宇宙基地から行われ、弾道飛行に成功しました。続いて同年12月23日には、主力のアンガラA5の初打ち上げが行われ、ダミーペイロードを搭載したブリーズM上段を用いて静止軌道への投入能力実証に成功しました。

アンガラロケットの打ち上げは、主にロシア国内のプレセツク宇宙基地とボストチヌイ宇宙基地から実施されます。これは、ソ連時代から使用してきたカザフスタンのバイコヌール宇宙基地への依存度を下げるというロシアの政策に沿ったものです。ただし、カザフスタンとの「Baiterek」計画の下、バイコヌールからアンガラA5を打ち上げる可能性も検討されています。

URMやブリーズ-M上段の生産は、クルニチェフの子会社であるPolyot生産会社が担当しています。RD-191エンジンの設計・試験はNPOエネゴマシュが行い、生産はプロトン-PMが担います。アンガラシリーズは商業打ち上げ市場への販売も計画されており、アンガラ1.1の価格は約2000万ドルとされていました。

比較されるロケット

アンガラロケットは、その能力や設計思想から、以下のような他国のロケットとしばしば比較されます。

デルタ IV
アトラス V
アリアン5
長征5号
* ファルコン9

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