アンゴラサウルス

アンゴラサウルス：白亜紀の大西洋を支配した海生爬虫類

アンゴラサウルス（学名：Angolasaurus）は、中生代白亜紀後期、特に後期白亜紀に大西洋に生息していたモササウルス科の絶滅した属です。「アンゴラのトカゲ」を意味するこの名前は、その化石がアンゴラで発見されたことに由来します。現在、Angolasaurus bocagei（ボカゲイ種）という1種のみが知られています。

生息年代と分布

アンゴラサウルスの化石は、アンゴラのセノマニアン末期の地層から確実なものが発見されています。さらに、アメリカ合衆国のチューロニアンやニジェールのマーストリヒチアンの地層からも、その可能性のある化石が見つかっています。この分布範囲は、アンゴラサウルスがチューロニアン期のモササウルス科の中で唯一大西洋を横断していたことを示唆しています。

形態と特徴

アンゴラサウルスは、全長約4メートルほどの小型のモササウルス科爬虫類でした。その体型は近縁のプラテカルプスに似ていますが、頭骨がわずかに長く、顎には上顎骨に11本、前上顎骨に4本、歯骨に12本の歯が並んでいました。また、尾びれを持ち、鼻孔が前方に傾いている点、そして流体力学的効率を高めるために倒れた鱗を持つという特徴があります。これらの特徴から、アンゴラサウルスは水中での遊泳に適応していたと考えられます。

体温調節の仮説

アンゴラサウルスが生息していた時代の海水温が低下した地域では、彼らが体温を調節するために背側の暗い色の模様を広げたという仮説が立てられています。これは、彼らが環境の変化に適応するために進化した可能性を示唆しています。

発見と研究の歴史

アンゴラサウルスは、1964年にミゲル・テレス・アントゥネスによって初めて命名されました。当初はプラテカルプスの種として分類されましたが、後の系統解析によってプリオプラテカルプス亜科のセルマサウルスとエクテノサウルスの中間に位置づけられ、プリオプラテカルプス亜科内で基盤的な位置を占めることが明らかになりました。

2005年から2009年にかけてのフィールドワークでは、少なくとも2つのアンゴラサウルスの骨格が発見されました。これらの骨格のCTスキャンにより、頭蓋内部の複雑な詳細が明らかになり、プリオプラテカルプス亜科内でのより具体的な分類が可能になりました。さらに、モササウルス科の大規模な系統解析の結果、アンゴラサウルスはラッセロサウルス亜科やティロサウルス亜科、プリオプラテカルプス亜科を含むグループの基盤に位置づけられています。

また、2007年にはアメリカ合衆国テキサス州のイーグルフォード累層から産出した2つの個体がアンゴラサウルス属に分類されました。これらの化石の中には、舌骨装置の一部が保存されていたものや、かつてプラテカルプスに分類されていた歯が含まれていました。これらの歯は、ブラジルのセルジペ盆地からも発見されており、アンゴラサウルスのホロタイプと見分けがつかないほど類似しています。

古生態学

アンゴラサウルスは、様々な地域の地層から発見されており、その生息環境が多岐にわたっていたことがうかがえます。

アンゴラ: アンゴラのクワンザ盆地からは、アンゴラサウルスの化石とともに、ティロサウルス・イネベーンシスやアンゴラケリスなどの海生生物の化石が発見されています。また、陸上動物としては竜脚類のアンゴラティタンが生息していました。
ニジェール: ニジェールのドゥカマジェ層からは、アンゴラサウルスと共に、プラテカルプスやプリオプラテカルプス、ハリサウルス、モササウルス、ゴロニオサウルス、イグダマノサウルスなど、多様なモササウルス科の仲間が生息していたことがわかっています。
アメリカ合衆国: アメリカ合衆国のイーグルフォード層群からは、アンゴラサウルスに加えて、首長竜のポリプチコドンやリボネクテス、キモリアサウルス、モササウルス科のクリダステスなどの化石が発見されています。

論文と参考文献

アンゴラサウルスの研究に関する多くの論文が発表されています。これらの論文は、アンゴラサウルスの形態、系統分類、古生態、進化に関する貴重な情報を提供しています。以下にいくつかの主要な論文を挙げます。

Lingham-Soliar, 1994：アンゴラサウルスの初期の分類に関する論文。
Jacobs et al., 2006：アンゴラにおける白亜紀の化石発見に関する包括的な研究。
Lindgren et al., 2010：水中適応における収斂進化に関する考察。
Konishi et Caldwell, 2011：プリオプラテカルプス亜科の系統解析。
Lindgren et al., 2011：モササウルスの皮膚構造に関する研究。
Strganac et al., 2015：アンゴラのモササウルスの古水温に関する研究。
Simões et al., 2017：モササウロイドの系統解析。

その他の参考文献

Second Mosasaur Meeting Abstract Book (2007) ：モササウルスに関する研究発表のアブストラクト集。

関連事項

1964年の古生物学：アンゴラサウルスが記載された年における古生物学上の出来事。
ミゲル・テレス・アントゥネス：アンゴラサウルスの記載者。
セノマニアン末期、チューロニアン、コニアシアン、サントニアン、カンパニアン、マーストリヒチアン：アンゴラサウルスが生息していた地質時代。
大西洋：アンゴラサウルスの生息水域。
イトンベ層、ドゥカマジェ層、イーグルフォード層群：アンゴラサウルスの化石が発見された地層。

外部リンク

Paleobiology Database(PBDB)：アンゴラサウルスのデータが登録されているデータベース。
Fossilworks：アンゴラサウルスに関する情報を提供するデータベース。
* fossilworks(テキサス州オースティン周辺の化石)：アンゴラサウルスを含む化石が発見された場所に関する情報。

アンゴラサウルスは、その進化と分布の広さから、白亜紀後期の海洋生態系における重要な存在であったと考えられます。今後の研究によって、この興味深い海生爬虫類の更なる詳細が明らかになることが期待されます。

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