イギリスにおける1946-1947年の冬

1947年のイギリス大寒波：社会・経済・政治への影響

1946年から1947年にかけての冬、特にイギリスは記録的な寒波に見舞われました。この異常気象は、社会、経済、政治の各方面に深刻な影響を及ぼしました。

寒波の概要

1947年 1月21日以降、イギリスは度重なる寒波に見舞われ、各地で大雪が降りました。道路や鉄道は雪で遮断され、交通網は麻痺状態となりました。第二次世界大戦後の石炭供給不足が深刻化していた中、発電所への石炭輸送も困難になり、多くの発電所が稼働停止に追い込まれました。政府は電力供給を大幅に制限し、産業用電力の供給を停止。ラジオ放送やテレビ放送も制限され、新聞や雑誌の発行も縮小を余儀なくされました。

燃料不足は深刻で、2月末には食料不足も懸念されました。野菜は地中で凍結し、供給が滞りました。3月中旬に暖気が訪れ雪解けが始まりましたが、今度は大規模な洪水が発生し、国土の多くが浸水しました。この洪水により、10万以上の土地が影響を受け、軍や人道支援機関による救助活動が行われました。この冬は、イギリスの産業に深刻な打撃を与え、工業生産は大幅に減少。穀物やジャガイモなどの生産量も落ち込み、多くの家畜が失われました。この寒波による混乱は、当時の与党労働党への国民の信頼を失墜させ、後の選挙で大敗を喫する要因となりました。

エネルギー危機

寒波による影響は、エネルギー部門の問題によってさらに深刻化しました。石炭産業や電力産業は当時、クレメント・アトリー政権によって国有化され、エマニュエル・シンウェル燃料動力大臣の管轄下に置かれていました。シンウェルは増産を試みましたが、石炭供給は十分ではありませんでした。戦前には10〜12週間分の石炭備蓄があったのに対し、この冬の開始時にはわずか4週間分しかありませんでした。シンウェルは全国炭鉱労働組合からの楽観的な報告に安堵していましたが、実際の生産は伸び悩みました。これは、組合員の欠勤率が戦前の2.5倍にも達していたためです。家庭用暖房のための電気ストーブの使用が増加し、電力需要が急増しました。シンウェルは石炭不足の警告を受けていましたが、暖冬になることを期待し、鉱山労働者との対立を避けた結果、事態は悪化しました。

寒波の進行

1946年12月と1947年1月の2度の寒波に始まりましたが、最も寒かった時期は1月21日以降でした。1月20日からスカンディナヴィア上空に高気圧が停滞し、大西洋の低気圧の発達を妨げ、イギリスに強い東風をもたらしました。この東風が、東部イングランドと南東イングランドに雪を降らせました。1月30日にはシリー諸島が18センチの雪に覆われ、エセックスでは夜間の気温が-20℃まで下がりました。

2月も東風は続き、記録的な寒さとなりました。キュー天文台では、5℃を超える気温は記録されず、日照時間も平均の半分以下でした。2月20日には、積氷のためにフェリーがベルギー沖で停止しました。一部地域では、2月28日間のうち26日間降雪がありました。2月25日には、ベッドフォードシャーのウォーバーンで-21℃を記録しました。細かい雪が吹き溜まり、鉄道輸送が困難になり、主要道路も通行不能になりました。数百の村が孤立し、沿岸では浮氷により海上輸送が危険にさらされました。

石炭は凍結し、運搬も困難になり、発電所の燃料不足を招きました。軍やドイツ人捕虜、ポーランド軍が線路の除雪作業にあたりましたが、多くの発電所が稼働停止を余儀なくされました。イギリス海軍は「ブラックカラント作戦」を実施し、潜水艦から沿岸の町に補助電力を供給しました。シンウェルは電力供給を制限し、多くの工場が閉鎖され、失業者は400万人に達しました。テレビ放送は停止し、ラジオ放送は減少し、雑誌や新聞も縮小されました。食料配給もさらに削減され、国民の不満が高まりました。

しかし、シンウェルの政策にもかかわらず、燃料供給は改善されず、広範囲で停電が続きました。バッキンガム宮殿や議事堂、電力庁でも、ロウソクの明かりで業務を行う状況でした。ソ連やアイスランドとの通商会談も、暖房や照明なしで行われました。燃料不足のため、人々はコークスを求めてガス工場に列をなし、アスピリンも不足しました。養鶏場では多くの鶏が寒さで死に、公共交通機関も縮小されました。シンウェルは国民からの支持を失い、爆弾脅迫まで受けるようになりました。彼は警察の警護下に置かれましたが、鉱山労働者からは依然として支持を得ていました。政府は彼の罷免が労働争議を引き起こすことを恐れ、慎重な対応をとりました。2月27日には天候が回復し、石炭船が発電所への物資輸送を再開し、燃料危機は一時的に緩和されました。

食料不足も深刻化し、政府は南アフリカ産の魚「Snoek」の普及を試みましたが、国民の口に合わず失敗に終わりました。多くの根菜が地中で凍結し、収穫が困難になりました。7万トンのジャガイモが霜でダメになり、ジャガイモが配給される事態となりました。

3月に入ると、豪雪が再び襲い、各地に吹き溜まりを作りました。スコットランド高地では雪の深さが7メートルに達しました。3月5日には20世紀最悪のブリザードが発生し、食料供給は再び困難になりました。3月10日には暖気が入り、雪解け水が大規模な洪水を引き起こしました。地面は凍ったままだったため、大量の雪解け水が河川に流れ込み、堤防が決壊し、広範囲で浸水が発生しました。3月15日には低気圧が発達し、豪雨と強風をもたらしました。イースト・アングリアの堤防が決壊し、広大な土地が浸水しました。トレント川も氾濫し、ノッティンガムでは2階の高さまで浸水しました。洪水は3月20日に西イングランドで収束しましたが、東イングランドでは水位が上昇し続け、各地で甚大な被害をもたらしました。

社会的影響

この厳冬は、イギリス産業に長期的な影響を与えました。工業生産は10%減少し、3月の洪水で被害額は2億5000万～3億7500万ポンドに達しました。農業も大きな打撃を受け、穀物やジャガイモの収穫量が大幅に減少し、多くの羊が失われました。国民は労働党政権への信頼を失い、1950年の選挙では保守党に多数の議席を奪われることになりました。エマニュエル・シンウェルはスケープゴートとされ、大臣職から外されました。

政府は、軍備、国民保健サービス、戦後復興に多額の支出を行っており、財政は逼迫していました。この寒波は通貨の安定性を損ない、ポンドの切り下げ（1ポンド＝4.03ドルから2.80ドルへ）につながりました。また、イギリスの超大国としての地位を揺るがし、マーシャル・プランによるアメリカの支援を受けることになりました。この冬は、多くのイギリス人が海外へ移住する要因ともなりました。

英国外への影響

寒波は、他のヨーロッパ諸国にも影響を与えました。中欧やバルト海南部でも同様の寒波と降雪が見られました。オランダでは1790年以来最悪の冬となりました。大西洋低気圧は南に押し出され、ポルトガルやスペイン、フランス南部では降雨量が増加しました。ベルリンでは寒さと飢えで150人が死亡し、オランダでは学校が休校しました。コペンハーゲンでは石炭を運ぶ貨物列車が暴徒に襲撃され、アイルランドでは企業の操業停止とガス供給の制限が生じました。