トレント川

トレント川：英国中部を潤す産業と歴史の大河

英国中部のイングランド地方に位置するトレント川は、その全長がおよそ298キロメートルに及び、国内で三番目の長さを誇る主要河川です。

流路

トレント川は、英国中部のウェスト・ミッドランズ地方、スタッフォードシャー州に位置するビダルフ・ムーア、ペナイン山脈の南西端にその源を発します。スタッフォードシャー最大の都市、ストーク・オン・トレントを流れ下ると、トレント川は次第にその流路を南東、そして北東へと大きく円弧を描くように変えていきます。途中でダーウェント川やソアー川といった重要な支流を迎え入れながら、やがて川はダービーシャー州の南部をかすめ、ノッティンガムシャー州を潤しながら進みます。その下流部ではヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー地方において、北から流れてくるウーズ川と合流します。この合流地点から先は、広大な三角江であるハンバー川として知られています。ハンバー川となったトレント川の水は、東へ向かって流れ、主要港湾都市であるキングストン・アポン・ハルを経て、最終的に北海へと注ぎ込みます。

流域と地理

トレント川は、英国中央部の歴史ある炭田地帯や工業地帯を貫く、まさに大動脈とも言える重要な河川です。上流に位置するストーク・オン・トレント周辺は、古くから陶磁器産業を中心とした窯業で栄えた地域として知られています。また、中流域にはダービーやノッティンガムといった英国有数の工業都市が発展しました。さらに、支流であるソアー川を通じて、歴史都市レスターとも結びついています。その流域には、多くの発電所が建設され、エネルギー供給の面でも重要な役割を担ってきました。特に1960年代には、バートン・アポン・トレントより下流の区間に集中して八つの発電所が設けられ、中でもコタム発電所は、当時ヨーロッパ最大級となる200万キロワットの発電能力を有していました。

地形的には、源流からアルルーワス付近にかけては比較的狭い谷間を流れますが、それより下流では一転して広大な氾濫原が形成されています。ニューアーク・オン・トレントより下流はさらに地形が平坦になり、市場園芸など農業が盛んな肥沃な地帯へと変わります。ニューアーク付近から河口までの標高差が極めて小さいため、トレント川は約85キロメートルにも及ぶ長い感潮区間を持つ感潮河川となっています。このため、潮の干満の影響はニューアーク近くまで及び、時には海嘯（かいしょう、タイダルボア）と呼ばれる現象も見られます。下流のゲインズバラより先では、大規模な防潮堤が整備され、沿岸部の安全が守られています。

交通と歴史

古くから水運が盛んであったトレント川は、運河網の中心でもありました。トレント・アンド・マージー運河をはじめとする多くの運河が建設され、他の河川水系や主要都市との交通を結びつけてきました。これらの運河や、テイム川のような支流を経由することで、テムズ川やセヴァーン川、マージー川といった英国の主要河川水系はもちろん、内陸の重要都市バーミンガムなどとも緊密に結ばれていました。現代でも水上交通は一定の役割を担っており、より大型の船舶はソーレーまで遡ることが可能です。また、120トン以下の小型船舶であれば、ノッティンガム市内まで航行することができます。

主な支流

トレント川には、ソアー川、ダーウェント川、テイム川、ダヴ川、サウ川など、多くの支流が合流します。

河川名の由来

『トレント（Trent）』という名称は、古代ケルト語に由来し、『氾濫しやすい川』あるいは『押し寄せる流れ』といった意味を持つとされています。実際に、1946年3月には大潮に伴う増水でノッティンガム市内の堤防が決壊し、広範な浸水被害が発生した記録が残っています。

関連事項

ストーク・フィールドの戦い：1487年にトレント川河畔で行われた歴史的な戦闘。
ノッティンガムのサッカークラブ：ノッティンガム・フォレストFCとノッツ・カウンティFC。両クラブの本拠地はトレント川を挟んで対岸に位置しており、熱いライバル関係を築いています。
紋章官の境界線：英国紋章院における三人のキング・オブ・アームズのうち、クラレンスーとノロイの管轄区域を分ける境界線の一つとされています。
ロールス・ロイス トレント：航空機エンジンメーカー、ロールス・ロイス・ホールディングスが開発・製造するジェットエンジンシリーズ名。トレント川にちなんで名付けられました。

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