エウペーモス

エウペーモス：ギリシア神話の英雄

エウペーモス（古希: Εὔφημος, Euphēmos）は、ギリシア神話に登場する複数の人物を指す名前です。特に著名なのは、海神ポセイドーンの息子と、トロイゼーノスの息子として登場する二人のエウペーモスです。長母音を省略してエウペモスとも表記されることがあります。

ポセイドーンの息子

このエウペーモスは、タイナロンの英雄として知られ、巨人ティテュオスの娘エウローペーとポセイドーンの間に生まれたとされています。彼は泳ぎの名手であり、水面を濡らさずに歩くことができたという伝説も残っています。

イアーソーン率いるアルゴナウタイの遠征にも参加し、数々の冒険を共にしました。アポロドーロスの記述によれば、シュムプレーガデスの岩をアルゴー船が通過する際、ピーネウスの助言に従い、鳩を放ったのはエウペーモスであったとされています。コルキスからの帰還後、イオールコスで行われたペリアースの葬礼競技では、エウペーモスは二頭立ての戦車競走で勝利を収めたと伝えられています。

キューレーネー王家の祖

ピンダロスの「ピューティア第四祝勝歌」に関するツェツェースの注釈によれば、エウペーモスはレームノス島の女性との間にレウコパネスをもうけ、その子孫がリビュアーのキューレーネー市を創建したバットスであるとされています。

カール・ケレーニイによれば、アルゴナウタイが北アフリカのトリートーネス湖に到達した際、海神トリートーンに地中海への帰路を尋ねたのはエウペーモスでした。トリートーンはエウペーモスに土の塊を渡し、これはリビュアーの統治権を意味していたとされます。この土の塊は、後に重要な役割を果たすことになります。

一行がクレーテー島を経てアナペー島を出航した際、エウペーモスは夢を見ます。夢の中で、土の塊が乙女に変身し、エウペーモスと交わりました。乙女はトリートーンと女神リビュエーの娘であると名乗り、エウペーモスの子孫が日の目を見るように、自分をネーレーイデスのもとへ投げ入れるよう告げました。この夢の話を聞いたイアーソーンの助言に従い、エウペーモスが土の塊を海中に投げ入れると、深みから島が現れ、カリステー（最も美しい）島となりました。この島は、後にテーラ島（現在のサントリーニ島）として知られるようになり、エウペーモスの後裔の一族が住むことになったとされます。ロバート・グレーヴスによると、上述のバットスがテーラ島からキューレーネーに移住したのは紀元前7世紀のことです。

トロイゼーノスの息子

もう一人のエウペーモスは、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』において、トロイア戦争の9年目にトロイア側の味方として参戦した将の一人として描かれています。このエウペーモスは、ポセイドーンの息子とは異なる人物であり、トロイゼーノスの息子であるとされています。彼は、ギリシア軍との戦いで勇猛に戦ったと伝えられています。

まとめ

エウペーモスは、ギリシア神話において、ポセイドーンの息子としてアルゴナウタイの冒険譚に関わり、キューレーネー王家の祖先となる物語を持つ人物と、トロイア戦争に参加した武将という、二つの異なる側面を持つ英雄です。特にポセイドーンの息子として語られるエピソードは、彼の神話的な能力や、子孫の繁栄に繋がる重要な物語として、後世に語り継がれています。

参考文献

アポロドーロス『ギリシア神話』（高津春繁訳、岩波文庫）
ヒュギーヌス『ギリシア神話集』（松田治・青山照男訳、講談社学術文庫）
ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』（上・下、高杉一郎訳、紀伊國屋書店）
カール・ケレーニイ『ギリシアの神話』（「神々の時代」・「英雄の時代」、高橋英夫訳、中央公論社）
* B.エヴスリン『ギリシア神話小事典』（小林稔訳、現代教養文庫）(ISBN 4-390-11000-4)

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