オスマン古典音楽

オスマン古典音楽

オスマン古典音楽は、かつてのオスマン帝国をルーツとするトルコの伝統芸術音楽です。現在のトルコでは「トルコ古典音楽」（Klasik Türk Musikisi, Türk Klâsik Müziği）と呼ばれ親しまれています。500年以上の長い歴史を持ち、西アジアの豊かな音楽文化の中で独特の地位を築いてきました。

特徴と起源

この音楽の大きな特徴は、他の西アジア伝統音楽と比較して、旋法（マカーム）による形式的な制約が比較的緩やかである点です。即興演奏や奏者の自由な表現が重視される傾向があります。その起源は、アラブ音楽やペルシア音楽の伝統に深く根ざしており、さらにインドや古代ギリシャの音楽からも影響を受けて発展しました。使用される楽器にもその共通性が見られ、例えばヨーロッパのリュートの祖とされるウード（ud）、ツィターに似たカーヌーン（Kanun）、そして葦笛のネイ（Ney）などは、アラブ古典音楽でもおなじみの楽器です。

代表的な楽器

これらの共通する楽器に加え、オスマン古典音楽でよく用いられる代表的な楽器には以下のようなものがあります。

タンブール (Tanbur)：長いネックを持つ弦楽器で、ロング・ネック・リュートとも呼ばれます。
ケマン (Keman)：西洋のバイオリンとほぼ同じ楽器です。
ケメンチェ (Kemençe)：小型のケマンで、膝の上に立てて左手の爪を使って演奏する独特なスタイルを持ちます。
レバブ (Rebab)：中国の胡弓にも似た弓奏楽器です。
サントゥール (Santur)：台形の木箱に張られた金属線を、小さなハンマーで叩いて演奏する打弦楽器です。
クデュム (Kudüm)：二つ一組の小型の太鼓で、バチを使って演奏する打楽器です。
デフ (Def)：タンバリンに似たフレームドラムの一種です。

メヴレヴィー教団の役割

アラブやペルシアの音楽伝統がオスマン古典音楽としてトルコの地、特にアナトリア（現在のトルコ）に深く根付く上で、メヴレヴィー教団が果たした役割は非常に大きいと言えます。この教団は、13世紀にペルシア系のスーフィー詩人、ジャラール・ウッディーン・ルーミーが現在のコンヤで開いた神秘主義教団です。メヴレヴィー教団は、音楽とそれに合わせた独特の旋舞（セマー）を通じて忘我の状態に至り、スーフィーの究極的な目標である神との合一を目指します。このため音楽との結びつきが非常に強く、歴史的には多くの著名なオスマン古典音楽の作曲家や演奏家がメヴレヴィー教団に所属していました。

伝承と楽譜

オスマン帝国は長らくヨーロッパ諸国と密接な関係がありましたが、オスマン古典音楽は20世紀初頭に至るまで、例外的な試みを除けば楽譜として記録されることがほとんどありませんでした。これは、音楽家たちが楽曲を師匠から弟子へと、個人的な稽古を通じて記憶によってのみ伝えるべきものと考えていたためです。多くの楽曲を記憶していることが、音楽家のステータスを示すことさえありました。そのため、オスマン古典音楽は500年以上の長い伝統を持つにもかかわらず、現在私たちが耳にする楽曲の多くは、比較的近年に作曲されたものです。

日本における紹介例

日本ではオスマン古典音楽を直接耳にする機会は多くありませんが、かつてサントゥーリー・エトヘム・エフェンディ（1855年 - 1926年）作曲の「シェフナーズ・ロンガ（Şehnaz Longa）」という楽曲が、中国のグループである女子十二楽坊によって「自由」というタイトルで演奏され、テレビCMなどで使用されたことがあります。

主な作曲家

オスマン古典音楽の歴史には、多くの優れた作曲家が名を連ねています。その一部を以下に挙げます。

ガーズィー・ギライ (Gazi Giray)（16世紀末）：クリミア・ハン国のハン。代表作にマーフル・ペスレヴなど。
ハーフズ・ポスト (Hafız Post)（1630年 - 1694年）：メフメト4世の宮廷で最高の音楽家と称されました。
ブフーリーザーデ・ムスタファー・ウトリー (Buhurizâde Mustafa Itrî)（1640年 - 1711/1712年）：ハーフィズ・ポストの弟子であり詩人でもあります。多くの作品を残しましたが、現在伝わっているのは一部です。
カンテミルオール (Kantemiroğlu)（1673年 - 1723年）：モルダヴィア公ディミトリエ・カンテミールのトルコ名。独自の記譜法を考案し、自作曲を記録しました。
セリム3世 (Sultan III. Selim)（1761年 - 1808年）：第29代オスマン帝国スルタン。数多くの古典音楽を作曲し、「セリム3世楽派」の祖とされています。
ハマーミーザーデ・イスマイル・デデ・エフェンディ (Hamamizade İsmail Dede Efendi)（1777/1778年 - 1845/1846年）：「デデ・エフェンディ」として知られる、古典音楽史上で最高の作曲家の一人。マフムト2世に仕え、いくつかの新しいマカームを開発しました。
ハンパルスム・リモンジュヤン (Hamparsum Limonicuyan)（1768年 - 1839年）：アルメニア人の作曲家、歌手。セリム3世の求めでハンパルスム譜という記譜法を考案しました。
デッラールザーデ・イスマイル・エフェンディ (Dellâlzade Ismail Efendi)（1797年 - 1869年）：イスマイル・デデの最も有名な弟子であり、師に次ぐ大作曲家として知られます。
ゼキャーイー・デデ・エフェンディ (Zekâî Dede)（1824年 - 1897年）：オスマン古典音楽最後の大作曲家とされる人物。
ハジュ・アーリフ・ベイ (Hacı Ârif Bey)（1831年 - 1884年/1885年）：声楽曲の分野で特に著名な作曲家です。
タンブーリー・ジェミル・ベイ (Tanburî Cemil Bey)（1871年 - 1925年）：タンブールの演奏家としても比類なき名手とされ、トルコ音楽史上重要な人物です。

オスマン古典音楽は、その長い歴史と独特の文化的背景を持つ、トルコが誇るべき重要な芸術遺産です。

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