オルダ・ウルス

オルダ・ウルス：モンゴル帝国ジョチ・ウルスの左翼とその後継国家たち

概要

オルダ・ウルスは、チンギス・カンによって建国されたモンゴル帝国を構成する遊牧国家の一つであるジョチ・ウルスの左翼を担った政権です。その成立は13世紀初頭に遡り、15世紀後半にウズベク・ハン国とカザフ・ハン国へ分割されるまで、現在のカザフスタンを中心とした広大な地域を支配しました。

一般的にはアク・オルダ（白帳汗国）として知られていますが、近年の研究ではキョク・オルダ（青帳汗国）が正しい名称であるとする見方が強まっています。そのため、書籍などでは両方の名称が混在しているのが現状です。オルダ・ウルスの歴史を理解するためには、この名称の混乱と、その背景にある歴史的経緯を踏まえることが重要です。

領域と首都

オルダ・ウルスは、当初イルティシュ川上流域を中心に勢力を築きました。その後、シル川中・下流域のオアシス都市群を征服し、支配領域を西方に拡大しました。

時代が進むにつれて、モンゴル王公の定住化が進み、オルダ・ウルスの首都もシル川下流域のオアシス都市へと移転していきます。その中でも特に重要な都市がスグナクでした。スグナクは、オルダ・ウルス後期における政治・経済・宗教の中心地としての役割を担い、歴代君主の墓廟も置かれていました。しかし、ウズベク・ハン国とカザフ・ハン国の成立と勢力範囲の確定に伴い、経済の中心はタシュケントへと移り、スグナクは衰退し、現在は廃墟となっています。

歴史

オルダ・ウルスの成立（1206年～1220年代）

1206年、チンギス・カンはモンゴル帝国を建国し、一族や功臣に領地と人民を分配しました。その中で、チンギス・カン長男のジョチはイルティシュ川流域と4つの千人隊を与えられ、ジョチ・ウルスを形成しました。ジョチの死後、その領地は息子たちに分割されましたが、長男のオルダは弟たちの一部を傘下に収め、「ジョチ・ウルスの左翼」を形成し、これがオルダ・ウルスの始まりです。

ジョチ・ウルスの成立期には、右翼、中央、左翼の三極構造であったとする説もありますが、少なくともトクタ・ハンの治世後半（14世紀以降）には、右翼（白帳＝バトゥ・ウルス）と左翼（青帳＝オルダ・ウルス）の二極構造が確立していました。この「白帳」「青帳」の呼称は、20世紀半ばまでは逆の意味で理解されていましたが、近年の研究により現在の理解が定着しました。

帝国の内紛との関わり（1220年代～1250年代）

オルダ・ウルスは、モンゴル帝国における帝位継承争いに深く関わりました。特にオルダ自身は、グユク・カアンとモンケ・カアンの即位に際して重要な役割を果たしました。モンケ・カアンはオルダの貢献を高く評価し、彼をジョチ家の代表として遇しました。しかし、モンケ・カアンの死後、東西で内戦が勃発し、オルダ・ウルスも間接的にその影響を受けました。

コニチの治世（1260年代～1290年代）

オルダの曾孫にあたるコニチは、30年近くにわたってオルダ・ウルスの当主を務めました。コニチはフレグ・ウルスやカイドゥとの外交関係を巧みに操り、大元ウルスとの関係構築にも努めました。しかし、シリギの乱やカイドゥとの戦いなど、様々な出来事がジョチ・ウルス内部や周辺諸勢力との関係に影響を与えました。

クペレクの乱（1290年代～1310年代）

バヤンの治世には、クペレクによる反乱が起こりました。クペレクはカイドゥと同盟し、バヤンと激しく争いました。この争いは、バヤンと大元ウルスが同盟を結ぶ契機となり、最終的にはカイドゥの死で決着しました。しかし、この内紛によってオルダ・ウルスは疲弊し、バトゥ・ウルスに従属する状態になってしまいました。

バトゥ・ウルスへの従属（1320年代～1350年代）

バヤン以降、オルダ・ウルスに関する記録は乏しくなります。『ムイーン史選』によると、この時代はバトゥ・ウルスへの従属状態にあったとされます。しかし、『ムイーン史選』の記述には混乱も多く、史実として完全に受け入れられているわけではありません。この時代には、ムバーラク・ホージャによる独立運動など、様々な出来事が発生しました。

トカ・テムル家の浮上（1360年代～1370年代）

14世紀半ば、オルダ家は断絶し、トカ・テムル家が台頭しました。この時代には、オロス・ハンがオルダ・ウルスの中興を図り、バトゥ・ウルスへの遠征も試みました。しかし、オロスはトクタミシュによって倒され、オルダ・ウルスの支配権はトクタミシュへと移りました。

トクタミシュのジョチ・ウルス再統一（1380年代～1390年代）

トクタミシュはティムールの支援を受け、オロスを倒し、オルダ・ウルスを統一しました。さらに、バトゥ・ウルスをも平定し、ジョチ・ウルスの再統一を達成しました。しかし、ティムールとの関係が悪化し、最終的にはティムールによって敗北し、ジョチ・ウルスは再び分裂しました。

オロス家の復活（1390年代～1420年代）

トクタミシュの敗北後、オルダ・ウルスは再び混乱に陥りました。この中で、オロス家の後裔であるバラク・ハンが台頭し、一時的にオルダ・ウルスに近い領域を支配しました。しかし、バラク・ハンもまた暗殺され、オルダ・ウルスは完全に解体しました。

ウズベク・ハン国／カザフ・ハン国の成立（1430年代～）

オルダ・ウルスの解体後、その領域はウズベク・ハン国とカザフ・ハン国によって分割されました。ウズベク・ハン国はシバン家の後裔が建国し、カザフ・ハン国はオロス家の後裔であるジャニベク・ハンが建国しました。これら二つの国家は、現在のウズベキスタンとカザフスタンの原型となりました。しかし、15世紀の段階で既に「ウズベク人」「カザフ人」という民族集団が存在したとは言い切れない点に注意が必要です。

研究史

オルダ・ウルスに関する研究は、これまでロシアや欧米で盛んに行われてきましたが、近年では日本でも活発な研究が行われています。特に、近年の研究では、従来あまり活用されてこなかった系譜史料の分析や、ジョチ家内部で編纂された史料の重視が提唱されており、オルダ・ウルスの歴史像はさらに精密化しつつあります。しかし、史料の解釈をめぐっては、研究者間で異なる見解が存在する点にも注意が必要です。

オルダ王家とトカ・テムル王家

オルダ・ウルスの歴代当主については、オルダ家とトカ・テムル家出身者を含めた複雑な系譜が存在します。特に、近年の研究では、従来オルダ家とされていた人物の一部が、実際にはトカ・テムル家出身であった可能性が指摘されており、この点に関しても継続的な研究が求められています。

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