オルランド・ディ・ラッソ

オルランド・ディ・ラッソ：ルネサンス音楽の巨匠

オルランド・ディ・ラッソ（1532年頃 - 1594年）は、後期ルネサンスのフランドル楽派を代表する作曲家の一人です。イタリア語ではオルランド・ディ・ラッソ、ラテン語ではオルランドゥス・ラッススと表記されます。その名は、音楽史においてジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナと並び称され、フランドル楽派の高度なポリフォニー様式を確立した人物として知られています。16世紀末のヨーロッパにおいて、最も著名で影響力のある作曲家の一人でした。

生涯

ラッソの生年は正確には不明ですが、1532年頃と推定されています。彼の出生地は、当時の作曲家としては珍しく特定されており、現在のベルギー、エノー州モンスです。本名はローラン・ドゥラットルと言われています。幼少期に関する資料は乏しいものの、その美声ゆえに3度も誘拐され、イタリアに連れて行かれたという逸話が残っています。12歳の時、フェランテ・ゴンザーガに随行し、マントヴァ、シチリア、ミラノなどを巡りました。ミラノ滞在中には、マドリガーレ作曲家のオステ・ダ・レッジョと親交を深め、初期の作曲様式に影響を受けました。

1550年代初頭、ナポリでコンスタンティーノ・カストリオートに声楽家兼作曲家として仕え、初期の作品を作曲しました。その後ローマに移り、フィレンツェ公家に仕官。1553年には、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂の楽長に就任しますが、わずか1年で辞任しています。

1554年以降の足取りは定かではありませんが、フランスやイングランドを訪問したという記録があります。1555年にはネーデルラントに帰国し、初期の作品をアントウェルペンで出版しました。1556年、バイエルン公アルブレヒト5世の宮廷音楽家となり、ミュンヘンに定住。1563年には楽長に昇格し、1568年に結婚して二人の息子をもうけました。ラッソは生涯にわたりバイエルン宮廷に仕え、アルブレヒト5世とその跡継ぎであるヴィルヘルム5世に才能を発揮しました。

1560年代には、ラッソの名声を聞きつけた音楽家たちがミュンヘンに留学し、彼の指導を仰ぎました。アンドレーア・ガブリエーリもその一人で、1562年頃から1年間ラッソに師事したと考えられています。

1570年、神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン2世から貴族の称号を授与されました。作曲家としては異例の待遇でした。1571年には教皇グレゴリウス13世から教皇庁騎士に叙任され、黄金拍車勲章を授与されました。また、シャルル9世の招待でフランスを訪問するなど、その名声はヨーロッパ中に広まりました。

多くの君主や貴族がラッソを自らの宮廷に迎えようとしましたが、彼はバイエルン宮廷での安定した地位と充実した音楽活動を重視し、移籍を拒否しました。

1570年代後半から1580年代にかけて、ラッソは数回にわたりイタリアを訪問し、当時の最先端の音楽様式に触れました。しかし、自らの伝統的な作曲様式を守り続け、晩年にはより簡素で洗練されたスタイルへと変化していきました。1590年代には健康を害し、心気症の治療を受けましたが、作曲活動は続けました。最後の作品は、21の宗教マドリガーレからなる曲集《聖ペテロの涙》で、彼の死後に出版され、教皇クレメンス8世に献呈されました。

音楽作品とその影響力

ラッソは、後期ルネサンスにおいて最も多作な作曲家の一人であり、ラテン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語による2000曲以上の声楽曲を作曲しました。ミサ曲、モテット、マドリガーレ、シャンソン、リートなど、あらゆるジャンルにわたり、その才能を発揮しました。器楽曲はほとんど作曲しなかったと考えられています。

ドイツのバロック時代の作曲家ベネディクト・アントン・アウフシュナイターは、理想の音楽の一つとしてラッソを挙げています。

宗教曲

ラッソはカトリック信徒でしたが、トリエント公会議の厳格な教義に固執することはありませんでした。比較的寛容な地域に住んでいたこともあり、柔軟な姿勢を保ちました。

ミサ曲

現存するミサ曲は約60曲で、そのほとんどが世俗音楽に基づくパロディ・ミサです。技術的に優れているものの、ラッソの作品の中では比較的保守的な部分を占めています。しかし、素材となった出典の様式を尊重しながらも、常に表情豊かで敬虔な性格を失うことはありませんでした。小ミサ曲（ミサ・ブレヴィス）も数多く作曲しています。

その他の宗教曲

賛歌、ソロモンの雅歌、マニフィカト、聖務週間日課のためのレスポンソリウム、受難曲、預言者エレミアの哀歌などを作曲しました。

ラッソは、「ムジカ・レゼルヴァータ」様式の作曲家としても知られています。テクストの内容を音楽に濃密に表出させる作曲様式であり、特に音楽通のために作曲された楽曲に用いられました。12曲のモテットからなる曲集《シビラの預言》は、その代表的な例であり、大胆な半音階的和声が用いられています。

また、すべての福音書に基づき受難曲を作曲しました。

モテット作曲家としてのラッソは、ルネサンス音楽全体で最も変幻自在で秀逸であると評価されています。

《ダヴィデの改悛詩篇集》（全7曲）は、ルネサンス音楽全体の詩篇唱の中で最も有名な作品の一つです。

世俗音楽

ラッソは、マドリガーレ、シャンソン、リートなど、当時のあらゆる主要な形態の世俗音楽を作曲しました。ルネサンス音楽の多作家の中で唯一、すべての言語を用いて作曲し、どの言語においても等しい流暢さで作曲しました。

マドリガーレ

多くはローマ滞在中に作曲され、明晰かつ簡潔な様式が特徴です。

シャンソン

約150曲を遺しており、威厳があって厳粛なものから、愉快で下卑たものまで、幅広い作風を見せています。

ドイツ・リート

シャンソンやマドリガーレとは異なり、宗教的な主題や軽くてコミカルな詩など、多様な内容を持っています。

オルランド・ディ・ラッソは、ルネサンス音楽の多様性と豊かさを体現した作曲家であり、その作品は今日においても多くの人々に愛されています。

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