カイカイフィル

カイカイフィル：南極の巨大モササウルス

カイカイフィル（学名: Kaikaifilu hervei）は、白亜紀末の大量絶滅直前にあたる後期[[白亜紀]]に生息したモササウルス科の海生爬虫類です。南極のロペス・デ・ベルトダノ累層から産出し、ティロサウルス亜科に分類されます。この属は、同亜科の中でも最大級であり、南極に生息した大型のティロサウルス亜科としては唯一知られています。

記載

カイカイフィルのホロタイプ標本は、部分的な頭骨で、保存されている部位の長さが0.7メートルに達し、完全な頭骨長は1.1〜1.2メートルと推定されています。全長は10メートルに達すると考えられています。これは、同時期のモササウルス科爬虫類であるタニファサウルス・アンタークティクス（頭骨長0.65メートル）よりも大型であり、南半球から産出した既知のモササウルス科爬虫類の中では最大級となります。

頭骨の縫合線が癒合していること、筋肉が付着する上腕骨の隆起である外上顆と内上顆が発達していること、そして内側の組織が比較的密であることから、この個体が成体であったことが示唆されています。

カイカイフィルには、近縁属と区別できる特徴が複数あります。眼窩の上部縁に顕著な隆起が存在し、鼻孔の間にも隆起があります。前頭骨は三角形を呈し、鼻孔と松果孔に接しています。また、頭骨の幅は眼下の前方で狭まっており、上腕骨頭は垂直方向に非常に厚くなっています。

特に注目すべき点は、カイカイフィルの歯が異歯性を示すことです。すなわち、複数の異なるタイプの歯が存在します。具体的には、

咬耗（こうもう：歯の磨耗）が全くない中型の円錐形の歯
内外側に2、3の咬耗がある中型の円錐形の歯
咬耗が全くない非常に大型の円錐形の歯
断面がD字型で、柔らかいエナメル質に覆われた、おそらく成長中の丸みを帯びた小さな歯

などが確認されています。このような異歯性は、他のモササウルス科爬虫類でもエレミアサウルスやカリノデンスなどで見られます。

発見と命名

カイカイフィルの化石は、2011年1月にチリの古生物学遠征隊によって、南極大陸沿岸のシーモア島のロペス・デ・ベルトダノ累層の上層から発見されました。発見されたのは、大型モササウルス科の頭骨、繋がった顎、上腕骨断片、そして30本の孤立した歯です。ホロタイプ標本に指定された SGO.PV.6509 は、後期マーストリヒチアンにあたる地層から発見され、暁新世と白亜紀の境界から200メートル下の位置にありました。

シーモア島で発見される他の脊椎動物化石とは異なり、カイカイフィルの化石は黄色がかった色を呈しており、これは標本が一貫して鉱物変質を受けたことを示唆しています。標本は発見されるまでに著しい風化を受け、頭骨は複数のブロックに分断されていました。頭骨の複数の部分は雄型としてのみ保存されています。

カイカイフィルの属名「Kaikaifilu」は、マプチェ族の宇宙論に登場する海の神である爬虫類「Coi Coi-Vilu」にちなんで名付けられました。種小名「hervei」は、チリと南極の地質学に多大な貢献をしたチリの地質学者フランシスコ・エルベへの献名です。

分類

2016年に行われた複数の系統解析の結果、カイカイフィルはティロサウルス亜科のティロサウルスやタニファサウルスに近縁であることが示されました。これらの解析結果から、カイカイフィルはティロサウルス亜科の中でも独自の進化を遂げた種であることが示唆されています。

古生態学

ロペス・デ・ベルトダノ累層からは、カイカイフィルの他にも、モササウルス、プログナトドン、プリオプラテカルプス、モアナサウルス、リオドンといったモササウルス科爬虫類の化石が発見されています。これらの属は、かつてはモササウルス属として同定されていましたが、現在は独立した属と考えられています。しかし、これらの分類は主に歯の形態に基づいており、そのうちいくつかはカイカイフィルに見られる歯の形態と一致します。このため、これらの属が全て独立して存在していたかどうかは、今後の研究によって検証される必要があります。

また、1つの生態系に大型の捕食者が多数生息することは稀であるため、この点も解明が待たれます。カイカイフィルは、首長竜アリストネクテス亜科に属するアリストネクテスとも共存しており、機会があればアリストネクテスを捕食していた可能性も考えられます。これらの大型捕食者が、どのような生態的地位を占めていたのか、さらなる研究が求められます。

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