キモン

キモン：アテナイ帝国の礎を築いた将軍

キモン（紀元前510年～紀元前450年）は、アテナイの黄金時代を築いた英雄的な将軍にして政治家です。マラトンの戦いで名を馳せたミルティアデスを父に持ち、その血を受け継ぎ、アテナイの覇権確立、そしてデロス同盟を中心としたアテナイ帝国の形成に多大な貢献を果たしました。

困難な生い立ちと貴族連合

キモンの若年は、父の汚名と財政難に彩られていました。父ミルティアデスはパロス島遠征の失敗によって国家反逆罪で訴えられ、巨額の罰金を科せられ獄死。その債務はキモンにも相続され、窮地に立たされました。裕福なカリアスからの支援を拒否するなど、清廉潔白な性格が伺えますが、姉エルピニケの決断により罰金問題は解決しました。その後、名門アルクメオン家のイソディケと再婚。この結婚は、当時のアテナイで大きな勢力を持っていたアルクメオン家、カリアス家との同盟関係を象徴するもので、テミストクレスに対抗する貴族派の結束を強固にする役割を果たしました。キモンの子どもの名前（ラケダイモニオス、エレウス、テッサロス）が、それぞれスパルタ、エリス、テッサリアを意味することから、ペリクレスからは「外国かぶれ」と批判されました。

ペルシアとの戦い

紀元前477年、キモンは将軍に任命されると、アリステイデスと共にスパルタの将軍パウサニアスをビュザンティオンから追放。デロス同盟を率いてペルシアと戦い、その戦略的才能を遺憾なく発揮しました。エイオンの陥落、スキュロス島の征服、そしてテーセウスの遺骨をアテナイへ持ち帰るなど、軍事面での成功はアテナイ市民の支持を確固たるものにしました。紀元前469年または紀元前466年にはエウリュメドン川の戦いでペルシア軍に圧勝。多くの都市がデロス同盟に加入し、アテナイの勢力は着実に拡大しました。

ケルソネソスでの活躍と政治的弾圧

小アジアでの勝利の後、キモンはトラキアのケルソネソスへ進出し、現地の部族を征服。タソス島の反乱を鎮圧するなど、軍事手腕を発揮しました。しかし、マケドニアへの侵攻を怠ったとして、ペリクレスらから賄賂受領の容疑で告発されます。エルピニケの尽力もあり無罪となりますが、この出来事は、後に彼を政治の渦に巻き込む伏線となります。

スパルトアとの戦争と追放

第三次メッセニア戦争において、キモンはスパルタへの援軍を率いて赴任。しかし、アテナイ軍の作戦失敗と、スパルタ側の冷遇によって、政治的信用を失墜させます。紀元前461年、キモンは陶片追放によってアテナイを追われます。タナグラの戦いでは、アテナイへの協力を申し出ますが拒否され、政治的孤立を深めます。キモンの追放後、民主派のエピアルテスとペリクレスは、アレオパゴス会議の権限を弱体化し、アテナイの民主化を推し進めました。

帰還と最期

第一次ペロポネソス戦争の勃発により、アテナイはキモンの軍事・外交手腕を必要とします。紀元前451年、キモンは帰還し、スパルタとの5年の休戦条約を締結しました。その後、キュプロス遠征を行い、ペルシアと戦うギリシア諸都市を支援。キティオン包囲中に病死しました。彼の死はアテナイに大きな悲しみをもたらし、人々は彼の功績を称え、記念碑を建立しました。コルネリウス・ネポスによると、キモンは気前の良い人物として知られ、私有地の収穫物を自由に取らせたり、食事を施したりするなど、多くの民衆に恩恵を与えたと言われています。

参考文献

トゥキュディデス著、小西晴雄訳、『トゥーキュディデース　世界古典文学全集11』、筑摩書房、1971年
コルネリウス・ネポス著、上村健二・山下太郎訳、『英雄伝』、国文社、1995年
プルタルコス著、河野与一訳、『プルターク英雄伝』、岩波書店、1955年
プルタルコス著、柳沼重剛訳、『英雄伝　2』、京都大学学術出版会、2007年
* ヘロドトス著、松平千秋訳、『歴史　（下）』、講談社、1972年

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