クートフーミ
クートフーミ（Kuthumi）は、ヘレナ・P・ブラヴァツキーによって提唱された近代神智学における重要な霊的指導者（マハトマ）の一人とされています。ブラヴァツキーは、彼をカシミール出身のブラーマンで、チベットの叡智に通じた人物として描きました。しかし、クートフーミの姿を実際に見た者はなく、その実体は謎に包まれています。
神智学において、クートフーミは人類の意識進化を監督するスピリチュアル・ハイアラーキー（アセンデッドマスター）の一員、グレート・ホワイト・ブラザーフッドのメンバーとされています。ブラヴァツキーは、彼とモリヤという別の霊的指導者の協力を得て、『ヴェールを剥がれたイシス』や『シークレット・ドクトリン』といった著書を執筆したと主張しました。また、アルフレッド・パーシー・シネットやアラン・オクタビアン・ヒュームなどの人物が、クートフーミが口述したとされる文書を書き残しています。これらの文書は、シネットの著作や、クートフーミとモリヤからシネットへの手紙をまとめた『マハートマー書簡』の主要な構成要素となっています。
人類学者の杉本良男は、クートフーミの存在が、神智学協会がインドの藩王やシク教との繋がりを重視していたことを示唆していると指摘しています。特に、シク教との繋がりは、インドで宗教のプロテスタント化を目指したアーリヤ・サマージというナショナリズム運動と深く関連していると述べています。
神智学協会に引き取られ、「世界教師の乗り物」として教育されたジッドゥ・クリシュナムルティは、少年時代にチャールズ・ウェブスター・レッドビータと共に、毎晩アストラル体を使ってチベット山中のクートフーミを訪ね、指導を受けていたと語っています。また、神智学協会から分派したアルケイン・スクールのアリス・ベイリーも、1895年にクートフーミに会ったと述べており、ヨーロッパ風の服を着たターバンを巻いた男だったと描写しています。
ベイリーは、オカルティズムの概念である七光線において、クートフーミが第二光線を司るとしました。また、近代神智学の昇天大師派では、クートフーミがマイトレーヤ（弥勒菩薩）の後を継ぎ、1956年1月1日からイエス大師と並んで「世界教師」とみなされるようになったとされています。
さらに、近代神智学の信奉者の間では、クートフーミはかつてピタゴラスとして肉体を持っていたと信じられています。他にも、ガイ・バラードのアイ・アム運動や、マーク・プロフェットが設立したサミット・ライトハウスなど、様々な団体や人物によって、クートフーミがトトメス3世、バルタザール（東方の三博士）、アッシジのフランチェスコ、シャー・ジャハーンとして現れたという説も唱えられています。
一方で、K・ポール・ジョンソンは、ブラヴァツキーが語る「マスターたち」は、彼女の師匠たちが理想化された存在であると主張しました。彼は、「クートフーミ大師」のモデルは、インド独立運動とシク教の革新を推進したシク・サバーのメンバーで、最後のシク王デュリープ・シンのいとこであったタクール・シンであると断言しています。また、人類学者の杉本良男は、ブラヴァツキーの『幻想紀行』に登場するクートフーミは、ラーム・ランジット・シンがモデルである可能性があると指摘しています。
クートフーミの手紙は、ブラヴァツキーの自作自演であるという疑いが長年持たれていましたが、1984年の心霊現象研究協会の再調査によって、筆跡が彼女のものではないと判断されました。しかし、口述筆記した者が誰なのかという疑問は依然として残っており、ブラヴァツキーの側近であるダモダル・マーワランカルやスッバ・ラーオ、あるいはアルフレッド・パーシー・シネットが書いたという説があります。杉本良男は、クートフーミの手紙がダモダルとシネットが交流していた時期に限定されており、ダモダルが1885年にチベットに向かって消息を絶つと手紙も途絶えたことから、ダモダルが関与していた可能性を指摘しています。
クートフーミは、神智学における重要な霊的指導者として、多くの信奉者や研究者の間で語り継がれてきました。しかし、その実体は謎に包まれており、様々な議論や解釈が存在します。今後、さらなる研究や考察によって、クートフーミの存在がより明確になることが期待されます。
参考文献
大田俊寛『現代オカルトの根源 - 霊性進化論の光と闇』筑摩書房〈ちくま新書〉、2013年。ISBN 978-4-480-06725-8。 （第一章「神智学の展開」参照）
杉本良男「闇戦争と隠秘主義 : マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット (特集 マダム・ブラヴァツキーのチベット)」『国立民族学博物館研究報告』第40巻、国立民族学博物館、2003年12月10日、267-309頁、NAID 120005727192。
Barker, A. Trevor. The Mahatma Letters to A.P. Sinnett
Leadbeater, C.W. The Masters and the Path Adyar, Madras, India: 1925--Theosophical Publishing House
Prophet, Mark L. and Elizabeth Clare Lords of the Seven Rays Livingston, Montana, U.S.A.:1986 - Summit University Press
クートフーミの概説
神智学において、クートフーミは人類の意識進化を監督するスピリチュアル・ハイアラーキー（アセンデッドマスター）の一員、グレート・ホワイト・ブラザーフッドのメンバーとされています。ブラヴァツキーは、彼とモリヤという別の霊的指導者の協力を得て、『ヴェールを剥がれたイシス』や『シークレット・ドクトリン』といった著書を執筆したと主張しました。また、アルフレッド・パーシー・シネットやアラン・オクタビアン・ヒュームなどの人物が、クートフーミが口述したとされる文書を書き残しています。これらの文書は、シネットの著作や、クートフーミとモリヤからシネットへの手紙をまとめた『マハートマー書簡』の主要な構成要素となっています。
人類学者の杉本良男は、クートフーミの存在が、神智学協会がインドの藩王やシク教との繋がりを重視していたことを示唆していると指摘しています。特に、シク教との繋がりは、インドで宗教のプロテスタント化を目指したアーリヤ・サマージというナショナリズム運動と深く関連していると述べています。
神智学協会に引き取られ、「世界教師の乗り物」として教育されたジッドゥ・クリシュナムルティは、少年時代にチャールズ・ウェブスター・レッドビータと共に、毎晩アストラル体を使ってチベット山中のクートフーミを訪ね、指導を受けていたと語っています。また、神智学協会から分派したアルケイン・スクールのアリス・ベイリーも、1895年にクートフーミに会ったと述べており、ヨーロッパ風の服を着たターバンを巻いた男だったと描写しています。
ベイリーは、オカルティズムの概念である七光線において、クートフーミが第二光線を司るとしました。また、近代神智学の昇天大師派では、クートフーミがマイトレーヤ（弥勒菩薩）の後を継ぎ、1956年1月1日からイエス大師と並んで「世界教師」とみなされるようになったとされています。
さらに、近代神智学の信奉者の間では、クートフーミはかつてピタゴラスとして肉体を持っていたと信じられています。他にも、ガイ・バラードのアイ・アム運動や、マーク・プロフェットが設立したサミット・ライトハウスなど、様々な団体や人物によって、クートフーミがトトメス3世、バルタザール（東方の三博士）、アッシジのフランチェスコ、シャー・ジャハーンとして現れたという説も唱えられています。
懐疑的な視点
一方で、K・ポール・ジョンソンは、ブラヴァツキーが語る「マスターたち」は、彼女の師匠たちが理想化された存在であると主張しました。彼は、「クートフーミ大師」のモデルは、インド独立運動とシク教の革新を推進したシク・サバーのメンバーで、最後のシク王デュリープ・シンのいとこであったタクール・シンであると断言しています。また、人類学者の杉本良男は、ブラヴァツキーの『幻想紀行』に登場するクートフーミは、ラーム・ランジット・シンがモデルである可能性があると指摘しています。
クートフーミの手紙は、ブラヴァツキーの自作自演であるという疑いが長年持たれていましたが、1984年の心霊現象研究協会の再調査によって、筆跡が彼女のものではないと判断されました。しかし、口述筆記した者が誰なのかという疑問は依然として残っており、ブラヴァツキーの側近であるダモダル・マーワランカルやスッバ・ラーオ、あるいはアルフレッド・パーシー・シネットが書いたという説があります。杉本良男は、クートフーミの手紙がダモダルとシネットが交流していた時期に限定されており、ダモダルが1885年にチベットに向かって消息を絶つと手紙も途絶えたことから、ダモダルが関与していた可能性を指摘しています。
結論
クートフーミは、神智学における重要な霊的指導者として、多くの信奉者や研究者の間で語り継がれてきました。しかし、その実体は謎に包まれており、様々な議論や解釈が存在します。今後、さらなる研究や考察によって、クートフーミの存在がより明確になることが期待されます。
参照
参考文献
大田俊寛『現代オカルトの根源 - 霊性進化論の光と闇』筑摩書房〈ちくま新書〉、2013年。ISBN 978-4-480-06725-8。 （第一章「神智学の展開」参照）
杉本良男「闇戦争と隠秘主義 : マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット (特集 マダム・ブラヴァツキーのチベット)」『国立民族学博物館研究報告』第40巻、国立民族学博物館、2003年12月10日、267-309頁、NAID 120005727192。
Barker, A. Trevor. The Mahatma Letters to A.P. Sinnett
Leadbeater, C.W. The Masters and the Path Adyar, Madras, India: 1925--Theosophical Publishing House
Prophet, Mark L. and Elizabeth Clare Lords of the Seven Rays Livingston, Montana, U.S.A.:1986 - Summit University Press
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