グナエウス・パピリウス・カルボ (紀元前85年の執政官)

グナエウス・パピリウス・カルボ：共和政ローマ末期の悲劇の英雄

グナエウス・パピリウス・カルボ（紀元前81年没）は、紀元前1世紀初期の共和政ローマにおいて、重要な役割を果たした人物です。彼は紀元前85年、84年、82年の3度にわたり執政官（コンスル）を務め、ルキウス・コルネリウス・スッラとの内戦で民衆派（ポプラレス）を率いましたが、最終的には敗北し、亡命という悲劇的な結末を迎えました。

出自と家系

パピリウス氏族は、古代ローマにおいて重要な氏族の一つであり、パトリキ（貴族）系とプレブス（平民）系の両方が存在しました。カルボはプレブス系の出身であり、彼の家系から最初に記録に登場するのは、紀元前168年の法務官（プラエトル）ガイウス・パピリウス・カルボです。このガイウスには3人の息子がおり、そのうちの一人グナエウスが、本記事のカルボの父親にあたります。カルボ自身にも、法務官を務めた弟ガイウスと、紀元前90年の護民官ガイウス・パピリウス・カルボ・アルウィナという従兄弟がいました。カルボ家は、グラックス兄弟の時代から民衆派の支持者であったことが知られています。

政治経歴

早期の経歴

大プリニウスによれば、カルボは生まれた時から歯が生えていたという逸話が残っています。紀元前112年、彼の父グナエウスは、新貴族（ノビレス）のマルクス・アントニウス（後の弁論家）に訴えられ、有罪判決を受けました。父は判決後、自決しています。カルボ自身が歴史に登場するのは、その20年後の紀元前92年、護民官に就任した時です。護民官時代には、民会を解散しなかったことが元老院から批判され、騒動を引き起こしたとされています。

執政官就任年からの逆算により、カルボは遅くとも紀元前88年までには法務官に就任したと考えられます。同盟市戦争中の紀元前89年には、「カルボ」という将軍がルカニアで勝利を収めたという記録があり、これが本記事のカルボである場合、法務官就任は紀元前89年であった可能性が高いです。

マリウスとキンナへの加担

紀元前88年、ローマにおける民衆派と閥族派（オプティマテス）の対立は、内戦へと発展しました。スッラがミトリダテス6世との戦いに出征している間に、護民官プブリウス・スルキピウスが、新市民を全トリブスに割り当てる法案と、マリウスにミトリダテスとの戦争を委ねる法案を成立させました。これに対しスッラは軍を率いてローマを占領し、反スッラの有力者たちを国家の敵と宣言しました。カルボもその一人であった可能性が高く、マリウス派の指導者として台頭していきます。

紀元前87年、スッラがギリシアへ渡ると、執政官ルキウス・コルネリウス・キンナはスッラへの忠誠を破り、再びスルキピウスの法案を成立させようとしました。しかし、市街戦に敗れてローマを脱出、マリウスと合流し、ローマを包囲しました。カルボもキンナと共に軍を指揮し、ローマ攻略に貢献しました。紀元前86年1月にマリウスが死去すると、キンナが実権を握り、紀元前85年と84年にはカルボを同僚執政官に任命しました。

執政官として

キンナとカルボにとって最大の課題は、スッラの帰還でした。スッラは紀元前85年までにミトリダテスとの戦いを終え、イタリアへの上陸準備を開始。これに対し、キンナとカルボは軍隊の募集、艦隊の修理、食糧の確保など、スッラとの戦いに備えましたが、紀元前84年、キンナは軍の反乱によって殺害されました。

キンナの死後、カルボは単独で執政官の地位に留まりました。紀元前84年、スッラは元老院に書簡を送り、マリウス派との和解を拒否し、戦争をほのめかしました。元老院は両者に軍の解散を命じましたが、カルボはこれに応じませんでした。紀元前83年、スッラがイタリアに上陸し、内戦が再開されました。

スッラとの戦いと最期

紀元前83年、スッラがイタリア南部に上陸すると、カルボはガリア・キサルピナの総督として、スッラ軍を迎え撃ちました。しかし、両執政官は連携せず、それぞれが敗北。カルボはローマに戻り、スッラに寝返った元老院議員を国家の敵と宣言しました。紀元前82年、カルボと小マリウスが執政官に選出されましたが、マリウス派の将軍クィントゥス・セルトリウスはこれに反対しました。カルボと小マリウスはセルトリウスをヒスパニアに派遣し、マリウス派の戦力を分散させることになりました。

その後、カルボはメテッルス・ピウスやグナエウス・ポンペイウスと戦うためにイタリア北部へ向かい、小マリウスはラティウムとカンパニアでスッラと対峙しましたが、カルボ軍は各地で敗北。カルボ自身もフィデンティアの戦いでマルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルスに敗れ、アフリカ属州へ逃亡しました。スッラはカルボを国家の敵として指名手配し、ポンペイウスに追跡を命じました。最終的に、カルボはパンテッレリーア島で捕らえられ、処刑されました。

人物評価

キケロはカルボを「悪い市民、悪い執政官、反逆者」と批判し、プルタルコスは「キンナよりもさらに無謀な暴君」と評しています。しかし、カルボの処刑後、ポンペイウスの横柄な態度には批判の声も上がりました。カルボの生涯は、共和政ローマ末期の混乱と内戦の時代を象徴する悲劇として、後世に語り継がれています。

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