グランドティトン国立公園

グランド・ティトン国立公園：雄大な自然と歴史が息づく場所

グランド・ティトン国立公園は、ワイオミング州西部に位置し、イエローストーン国立公園の南に隣接するアメリカ合衆国の国立公園です。公園の象徴であるグランド・ティトン山（標高4,197m）を始めとするティトン山脈は、その険しくも美しい姿で訪れる人々を魅了します。この地は、氷河が作り出した独特の地形と、多様な動植物が生息する豊かな自然、そしてアメリカ史における重要な出来事が重なり合った場所です。

地理

ロッキー山脈の一部であるティトン山脈は、ジャクソン・ホールの底からそびえ立ち、長さ約65km、幅11～15kmにわたります。最高峰のグランド・ティトンの他に、12の山が標高3,660mを超えています。特に、アヴァランチ渓谷とカスケード渓谷の間にある7つの山々は「カセドラル・グループ」と呼ばれ、写真撮影スポットとして人気があります。山脈の東側には、ジャクソン・ホールと呼ばれる地溝谷が広がっており、長さ約90km、幅10～20km、平均標高約2,070mです。この谷は、ティトン山脈の隆起によって形成され、深い地溝は、ティトン断層により山脈の岩盤を垂直に引き離しています。この地溝と山脈の両方を含んだエリアがグランド・ティトン国立公園となっています。

氷河によって削られた山脈は、U字谷や圏谷、モレーンなど、氷河地形の教科書的な例を見ることができます。山麓には、ジャクソン湖、リー湖、ジェニー湖など、氷河が残した堆積物によって形成された湖が点在しています。最大のジャクソン湖は、面積103.4km²、最大深度134mを誇ります。公園内には、100以上の高山湖が存在しています。

また、南にはバーンド・リッジがあり、氷河の終点である最終モレーンが、ジャクソン・ホールの中心を横切っています。スネーク川は、ジャクソン湖から流れ出て、谷を流れ、バーンド・リッジを二分しています。スネーク川は、公園内を約80kmにわたって蛇行し、3つの主要な支流と合流します。気候は半乾燥山地気候で、夏は34℃まで上昇し、冬は-43℃まで低下することがあります。年間降雪量は約490cm、降雨量は約250mmです。

人類史

先史時代には、約12,000年前からアメリカ先住民がこの地で狩猟生活を営んでいました。ジャクソン・ホールは、交易と移動の重要な交差点であり、黒曜石が豊富なイエローストーン地域へのルート、ティトン・パスを通って北西部へのルート、そしてコロラド高原とグレート・ベイスンへのルートが交わっていました。18世紀から19世紀にかけて、フランス人の探検家がティトン山脈を「Les Trois Tetons（3つの胸）」と名付けました。その後、白人の毛皮猟師や毛皮商がこの谷を「ホールズ（穴）」と呼び、その一人のデイビッド・ジャクソンにちなんで、この谷がジャクソン・ホールと名付けられました。

1805年から1806年にかけて、ルイス・クラーク探検隊の一員であるジョン・コルターが、この地域を訪れた最初の白人となりました。その後、地理学者フェルディナンド・ヴァンデヴィア・ヘイデンが、1860年と1871年にこの地域を調査し、イエローストーン地域で政府が支援する科学調査隊を率いました。

環境保全のための戦い

19世紀末から20世紀初頭にかけて、グランド・ティトン地域の保護を求める声が高まりました。イエローストーン国立公園の拡張や、ティトン山脈を含めた国立公園の設立が提案されましたが、地元の反対や政治的な対立により、実現には時間がかかりました。

1927年、慈善家のジョン・ロックフェラー2世はスネーク・リバー・ランド・カンパニーを設立し、匿名で地域の土地を買い占めました。そして、国立公園局が運営できるまで、その土地を保持しました。地元住民は、公園の設立に反対し、何度も議論を重ねました。しかし、第二次世界大戦後の観光収入の増加や、住民の意識の変化により、公園の設立を支持する声が高まりました。そして、1950年、ジャクソン・ホール・ナショナル・モニュメントとグランド・ティトン国立公園が合併し、現在の形となりました。公園への貢献を記念し、イエローストーン国立公園とグランド・ティトン国立公園を結ぶハイウェイは、ジョン・ロックフェラー2世記念公園道路と名付けられました。

地質

ティトン山脈を構成する岩盤は、約2.5億年前の変成砂岩、石灰岩、頁岩、火山性堆積物などです。ジャクソン・ホールの地下には、古生代と中生代の地層が埋まっており、暖かく浅い海で堆積した炭酸塩岩や、海底と非海底の堆積物が交互に重なっています。白亜紀には、この地域を海路が覆い、シエラネバダ・アークから火山性堆積物が供給されました。

約7,000万年前から始まったララミー変動と呼ばれる造山活動によってロッキー山脈が隆起し、ティトン山脈も形成されました。火山活動や氷河作用もこの地形形成に大きな役割を果たしました。約900万年前には、ティトン山脈が断層に沿って隆起し始め、鮮新世には、ジャクソン・ホールに湖が形成されました。氷河期には、氷河がジャクソン・ホールから土壌を運び去り、その後、モレーンや漂礫土として局所的に堆積しました。また、地すべりや侵食も、この地の地形変化に影響を与え続けています。

生物学

グランド・ティトン国立公園とその周辺には、1000種を超える維管束植物が生息しています。冷たい風が吹く斜面や標高約3,000mの高山帯では、アメリカシロゴヨウ、フレキシマツ、ミヤマバルサムモミ、エンゲルマントウヒなどが生えています。谷底では、コントルタマツ、ダグラスファー、アオトウヒなどがよく見られ、川岸や湖畔沿いには、アスペン、ハコヤナギ、ハンノキ、ヤナギなどが生えています。公園内の森林は、異なる種類の樹木が組み合わさって形成され、様々な野生動物に生息環境を提供しています。土壌、水分、傾斜、方角、高度などの条件によって、植物の生育場所が決定され、森林、ヤマヨモギ平原、河岸回廊、湿地帯、高山帯など、様々な植物群落が形成されています。また、氷河期に谷に吹き込まれた黄土には、コヨーテやアメリカアナグマが巣穴を掘っています。

1976年、グランド・ティトン国立公園は、隣接するイエローストーン国立公園と共に、ユネスコの生物圏保護区に指定されました。公園は、大イエローストーン生態系の中心に位置し、地球上に残された最大の手付かずの温帯生態系の一部です。そのため、多くの動物が二つの公園と周辺の国有林を行き来しています。

公園内では、コロンビアヒョウガエル、キタヒキガエルなど5種の両生類、6種のコウモリ類、ハクトウワシ、ヒメハチドリなど300種を超える鳥類、ヒグマ、アメリカクロクマなど17種の食肉目、イエローストーン・カットスロートトラウトなど16種の魚類、アメリカバイソン、ヘラジカなど6種の有蹄類、3種のウサギ類、4種の爬虫類、22種の齧歯目など、多様な野生動物が生息しています。

この国立公園は、その壮大な自然美と多様な生態系、そして歴史的な価値によって、世界中から多くの人々を魅了しています。

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