グランドバンク

グランドバンク：豊穣の海から資源枯渇の危機へ

グランドバンク（Grand Banks）は、カナダ・ニューファンドランド島の南東沖に広がる、広大な大陸棚の浅瀬です。水深は25mから100mと比較的浅く、北からのラブラドル海流（寒流）と、南からのメキシコ湾流（暖流）がぶつかる潮目の海域であるため、世界有数の好漁場として知られてきました。

好漁場のメカニズム

暖流と寒流が混ざり合うことで、海水が攪拌され、海底に堆積した豊富な栄養分が海面へと供給されます。さらに、複雑な海底地形が海水の湧昇を促し、プランクトンが大量に発生。これを餌とする魚介類が集まり、豊かな生態系を育んでいます。

グランドバンクで獲れる代表的な魚介類には、タラ（タイセイヨウダラ）、モンツキダラ（ハドック）、カラフトシシャモ（キャペリン）などが挙げられます。海底にはホタテガイなどの貝類やロブスターも豊富に生息し、これらの魚介類を求めて、シロカツオドリやミズナギドリといった海鳥や、アシカ、イルカ、クジラなどの海洋哺乳類も集まってきます。

ただし、寒流と暖流が交わることで、濃い霧が発生しやすいという側面もあります。特に春から夏にかけては、温暖な風が寒流の上を吹くため、海上はしばしば深い霧に覆われます。

大西洋岸経済を支えた漁場の歴史

グランドバンクは、古くから人々に利用されてきた漁場です。アメリカ先住民は沿岸で漁労を行い、15世紀にはバスク地方の漁民など、ヨーロッパの漁民や航海者もこの海域で漁をしていました。1497年にはジョン・カボットが北米沿岸を探検し、大量の魚が獲れる海域の存在を報告。これがきっかけとなり、16世紀にはフランス、スペイン、ポルトガル、イングランドなど、ヨーロッパ各国の漁船が押し寄せるようになりました。漁民の中にはニューファンドランド島などに定住する者も現れ、漁業はカナダ東部やニューイングランドの初期経済において重要な役割を果たしました。

天然資源と災害

グランドバンクでは、石油資源も発見されています。ハイバーニア油田、テラ・ノヴァ油田、ホワイトローズ油田などの海底油田開発計画が進められていますが、一方で、嵐の多い海域であるため、1982年には半潜水式石油掘削装置「オーシャンレンジャー」の沈没事故が発生し、84人全員が犠牲となる悲劇も起きています。

また、1929年にはグランドバンク南西部で大規模な海底地震が発生し、巨大な海底地滑りを引き起こしました。これにより大西洋横断ケーブルが切断されたほか、ニューファンドランド島の南海岸やケープブレトン島東部に津波が襲来し、大きな被害をもたらしました。

タラの激減と漁業の崩壊

しかし、近年、グランドバンクでは漁船の大型化や魚群探知機の普及などにより、乱獲が深刻化し、魚の資源量が激減しています。かつては伝統的なはえ縄漁で行われていたタラ漁も、第二次世界大戦後には大型トロール船による底引き網漁へと変化。海底を根こそぎにする漁法は、タラの産卵場所となる海底地形を破壊し、生態系に悪影響を与えました。

1992年、カナダ政府はグランドバンクの漁場を閉鎖し、漁業資源の回復を図っています。大幅な漁獲量制限や漁期制限などが行われていますが、タラの生息数は依然として回復途上にあり、沿岸の漁民たちは生活に困窮しています。

漁民の中にはロブスター漁に転向する者もいますが、多くは漁村を離れたり、沖合油田や大都市への出稼ぎを余儀なくされています。アトランティック・カナダの貧困化は、深刻な社会問題となっています。また、タラの生息状況をめぐり、漁業管理官や研究者と漁民の間で意見の対立も生じています。

周辺国との領海や排他的経済水域（EEZ）の境界をめぐる紛争も、乱獲を加速させる要因となっています。カナダは、グランドバンク周辺で水路調査や地質調査を進めており、海洋法に関する国際連合条約（UNCLOS）に基づき、EEZの拡大を目指しています。

フィクション作品への影響

グランドバンクは、漁民たちの活動や自然の脅威を描いたフィクション作品の舞台ともなっています。ラドヤード・キップリングの小説『勇ましい船長』や、セバスチャン・ユンガーの小説『パーフェクト ストーム』などがその代表例です。

グランドバンクは、豊かな恵みをもたらす一方で、厳しい自然環境と資源枯渇という問題に直面しています。持続可能な漁業を実現し、この貴重な海洋資源を未来へと引き継いでいくために、国際的な協力と資源管理が求められています。

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