グーシ・ハーン

グーシ・ハーン：チベットに王朝を築いたオイラトの英雄

グーシ・ハーン（1582年 - 1655年）は、17世紀にホシュート部の族長として活躍し、チベットにグシ・ハン王朝を築いた人物です。本名はトゥルバイフといい、勇猛果敢なリーダーシップでオイラトを率い、チベット仏教の勢力争いに介入、最終的にはチベット全土を統一しました。

生涯：ゲルク派支援と青海平定

当時のチベット仏教界では、ゲルク派とカルマ派の対立が激化していました。モンゴルの領主たちもそれぞれを支援し、争いが絶えませんでした。カルマ派を支持するチャハルのリンダン・ハーンの死後、チョクト・ホンタイジが青海地方に侵攻、ゲルク派の勢力を滅ぼしました。これにより、ゲルク派はオイラトに支援を要請し、チョクト・ホンタイジ討伐を託しました。

1636年、ホシュート部のトゥルバイフ（グーシ・ハーン）はこの要請に応じ、1万の兵を率いて青海に侵攻。1637年までにチョクト・ホンタイジ軍を壊滅させました。この功績により、ダライ・ラマ5世から「テンジン・チューキ・ギャルポ（持教法王）」の称号を授与されました。これは、チンギス・カンの血を引かない者がハーン位を名乗るという、モンゴル史上において重要な出来事でした。

青海遠征の際、グーシ・ハーンはジュンガル部のホトゴチンに「バートル・ホンタイジ（勇敢なる副王）」の称号を与え、娘を娶らせ、オイラト本国の統治を任せました。

チベット統一とダライ・ラマ政権の樹立

青海を平定したグーシ・ハーンは、1640年にツァン軍とチャハル部、ハルハ部を打ち破りカム地方を平定。1642年にはツァン地方も制圧し、チベット全土を統一しました。そして、チベット王に就き、ダライ・ラマ5世をチベット仏教界の最高指導者として推戴し、ダライ・ラマ政権を確立しました。

子孫：青海湖周辺を統治

グーシ・ハーンの子孫は、その後も青海草原で遊牧生活を送りながら、名目上のチベット王位を継承しました。10人の息子のうち8人はアムド地方に留まり、戦略的に重要な青海湖周辺を支配しました。

これらの8人は「和碩特（ホシュート）八台吉」または「青海八台吉」と呼ばれ、青海ホシュート部の有力者として勢力を誇りました。ただし、オチル・ハン・ダヤンとゴンボ・チャグンを除いた8人を指すという説もあります。

グーシ・ハーンの娘アミンターラは、ジュンガルのバートル・ホンタイジの妻となり、ガルダン・ハーンの母となりました。

グーシ・ハーンは、軍事的な才能と政治的手腕により、オイラトの勢力を拡大し、チベット仏教界に大きな影響を与えた人物として、歴史に名を残しています。

参考資料
宮脇淳子『モンゴルの歴史 遊牧民の誕生からモンゴル国まで』（刀水書房、2002年、ISBN 4887082444）
佐藤長『中世チベット史研究』（同朋舎出版、1986年、ISBN 4810404927）

関連項目
オイラト
ガンデンポタン
グシ・ハン王朝
ダライ・ラマ5世
チベット仏教
ホシュート

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