サハリンの鉄道

サハリンの鉄道

サハリンの鉄道は、その歴史の中で複数の支配下を経て、独自の発展を遂げてきました。この鉄道網は、サハリン島における輸送インフラの中核を担い、旅客輸送と貨物輸送の両面で重要な役割を果たしています。

歴史的背景

サハリンの鉄道の歴史は、20世紀初頭の日本統治時代に始まりました。当時、南樺太と呼ばれていたこの地域では、資源開発と軍事的な目的のために鉄道網が整備されました。1945年、第二次世界大戦の終結に伴い、ソ連がこの地域を占領し、日本統治時代の鉄道はソ連の管理下に移されました。その後、ソ連運輸通信省を経て、ソビエト連邦崩壊後はロシア連邦運輸通信省、そして現在のロシア鉄道へと管轄が引き継がれてきました。

概要

1945年8月、ソ連軍が侵攻し、日本運輸省鉄道総局樺太鉄道局の路線が接収されました。1946年4月1日にはソ連運輸通信省の路線に編入され、同省の南サハリン鉄道局、極東鉄道局南サハリン支局などを経て、2003年にロシア鉄道サハリン鉄道支社に引き継がれました。2010年以降は、極東鉄道支社サハリン地域部が管轄しています。

当初、軌間は日本の国有鉄道標準であった狭軌（1,067mm）でしたが、2003年からロシア鉄道標準の広軌（1,520mm）への改軌工事が進められ、2019年にほぼ全線で広軌に切り替えられました。この改軌工事と並行して、老朽化した橋梁の架け替えも行われ、2021年12月には、最後に残っていた日本時代の橋梁が新橋梁に置き換えられました。これにより、現在では日本時代の鉄道インフラは一切残っていません。

全線非電化であり、営業キロは1992年には1,072kmでしたが、1990年代に支線区の休廃止が進み、2012年時点では804.9kmでした。広軌化後も、営業最高速度は狭軌時代と同じく60km/hに制限されていますが、2025年頃を目途に120km/hに引き上げられる予定です。

列車集中制御が全線で導入されており、ユジノサハリンスクとホルムスクに指令所があります。列車番号は、東岸ではノグリキ方面が下り、西岸ではイリインスク方面が下りとなっています。このため、ユジノサハリンスクから西岸に連絡する列車には、2つの列車番号が設定されています。

輸送の主力は貨物列車であり、ワニノ・ホルムスク鉄道連絡船を経由して、石油、建築資材、金属製品、海上輸送用コンテナなどが運ばれています。また、本土向けの石炭輸送も盛んです。旅客列車は、2012年以降、ロシア鉄道子会社のサハリン旅客企業株式会社が運行しています。

新型コロナウイルス感染症流行の影響

サハリン旅客企業は、2021年4月5日改正の夏季ダイヤから、愛称付列車「サハリン」号の運休や、駅での手荷物取扱の休止などの措置を取りました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響による旅客数の大幅な減少と、広軌化に伴う設備投資負担の増加が原因でした。同社は、旅客数の回復を期待しており、雇用は維持する方針です。

線区

ロシア鉄道が所管する主な線区は以下の通りです。

コルサコフ - ノグリキ線: コルサコフ（大泊港）からユジノサハリンスク（豊原）を経由してノグリキに至る路線です。旧樺太東線とソ連運輸通信省の新設路線で構成されています。支線区は2019年までに全廃されました。
シャーフタ＝サハリーンスカヤ - アルセンチェーフカ線: シャーフタ＝サハリーンスカヤ（内幌炭山）からホルムスク＝セーヴェルヌイ（北真岡）、イリインスク＝サハリンスキー（久春内）を経由してアルセンチェーフカ（真縫）に至る路線です。旧樺太西線、南樺太炭鉱鉄道線、そしてソ連運輸通信省が新設した東西連絡線で構成されています。
1999年にホルムスク以南の旅客列車が休止され、貨物線化されました。2010年代にはシャーフタ＝サハリーンスカヤ - シャーフティ間の貨物列車が休止されましたが、2021年にはネヴェリスク - ホルムスク＝ソルチローヴォチヌイ間の定期旅客列車が再開されました。
ユジノサハリンスク - ホルムスク線: ユジノサハリンスク（豊原）からホルムスク＝ソルチローヴォチヌイ（手井）に至る路線です。旧豊真線で構成されています。
1994年にノヴォデレヴェーンスカヤ - 77kmピケート9間が廃止されました。2019年にはダーリニエ - ノヴォデレヴェーンスカヤ間が廃止され、2021年にはチョールタフモースト - 77kmピケート9間が再開されました。

その他の鉄道線

過去には、以下の鉄道線が存在しましたが、いずれも廃止されています。

オハ・モスカリヴォ鉄道: 総延長34km、軌間1520mm。（1934年運行開始、1999年廃止）
オハ・ノグリキ狭軌鉄道: 総延長233km、軌間750mm。（1925年運行開始、2007年廃止）
ポロナイスク・ティフメネヴォ狭軌鉄道: 1995年廃止
ポロナイスク・トゥルダヴォイ狭軌鉄道: 2015年廃止
シャフチョールスク市貨物交通部狭軌鉄道: 2017年廃止

機関区

ロシア鉄道の機関区は、島内に4箇所あります。広軌化後のディーゼル機関車は、ユジノサハリンスク区に所属しており、2М62形、2М62У形、ТЭМ18Д形、ТЭМ18ДМ形、2ТЭ10М形、ТЭМ2形が配置されています。かつては、狭軌・広軌両用のТГ16М形も使用されていましたが、現在はモスクワ鉄道支社に転配されました。

РА3系ディーゼル動車は、サハリン旅客企業に所属し、ユジノサハリンスク区に配置されています。その他にも、操重車や子供鉄道のディーゼル機関車が配置されています。

旅客列車種別

サハリン旅客企業が運行する旅客列車には、以下の種類があります。

長距離列車: ユジノサハリンスク - ノグリキ間を運行します。愛称付列車「サハリン」号も含まれますが、現在は一時運休中です。
急行列車: ユジノサハリンスク - ポロナイスク間を運行します。
* 近郊列車: サハリン南部と東岸中部を運行します。

改軌と近代化

2003年から、ロシア鉄道は狭軌から広軌への改軌工事を開始しました。この工事は、既存の線路に三線軌条を敷設し、その後広軌用のレールを追加する方式で進められました。同時に、トンネルや橋梁の改築、線形の改良も行われました。2019年にはほぼ全線で広軌化が完了しました。

工事中、列車運行に影響が出ないように、三線軌条方式が採用されました。しかし、工事期間中は列車の運休や減便が行われ、鉄道代替バスや臨時航空便が運行されました。広軌化完了後には、新型のРА3系ディーゼル動車が導入され、旅客サービスの向上が図られています。

広軌での運行開始

2019年6月1日から、ポロナイスク以北、ユジノサハリンスク以南、旧豊真線の一部区間を除く各線で、広軌での運行が開始されました。これに伴い、狭軌車両は運用を離脱しました。

2019年9月1日には、コルサコフ - ノグリキ間、アルセンチェーフカ - イリインスク間、ホルムスク - イリインスク間で運行が再開されました。また、ユジノサハリンスク - コルサコフ間、ユジノサハリンスク - トマリ間、ホルムスク - トマリ間には、РА3系ディーゼル動車が投入されました。

2020年には、РА3系ディーゼル動車が増備され、「サハリン」号用の新型客車も投入されました。また、РА3系の愛称が「オルラーン」に決定しました。2021年2月1日からは、ユジノサハリンスク - ポロナイスク間でРА3系による急行列車が運行開始されました。

広軌化の完了

狭軌で残っていた区間も、2020年から2021年にかけて順次広軌化されました。これにより、島内の全線区で広軌化が完了しました。2021年5月には、チョールタフモーストまでの区間も広軌化され、観光需要に対応するため、近郊列車の運行が開始されました。

各線区では、高速走行に適した新しい保線基準のもとで、引き続き軌道改良工事が進められており、2025年頃をめどに営業最高速度を120km/hに引き上げる予定です。

サハリン鉄道歴史博物館

ユジノサハリンスク駅に併設されているロシア鉄道サハリン鉄道歴史博物館は、2004年7月30日に開館しました。この博物館では、日本統治時代から現在に至るまでのサハリンの鉄道の歴史を展示しており、雪かき車やD51形蒸気機関車、ТГ16形ディーゼル機関車、К-1形ディーゼル動車などの車両が展示されています。

ユジノサハリンスク子供鉄道

ユジノサハリンスク子供鉄道は、ユジノサハリンスク市都市公園「ガガーリン公園」内に1954年6月6日に開設された子供鉄道です。軌間は750mmで、樺太島内の鉄道を模した車両や施設が使用されています。

歴史

南サハリン鉄道局

1945年9月20日、ソ連最高会議幹部会は、南樺太・千島の国鉄線および私鉄線・専用鉄道線を国有化しました。1946年2月10日、ソ連運輸通信人民委員会は豊原（ユジノサハリンスク）に南サハリン鉄道局を設置しました。1946年4月1日には、運輸通信省が発足しました。戦後、日本人職員がソ連側に業務を引き継ぎ、1948年末に引き揚げが完了しました。

ソ連政府は、当初、樺太北部のネヴェリスコイ海峡に海底トンネルを建設し、南サハリン鉄道局管内の路線を大陸と直結する計画を立てていましたが、1953年にこの計画は中止されました。

南サハリン鉄道局では、戦前の日本の車両や設備が引き続き使用されました。1948年には日本製D51形蒸気機関車が輸入され、1961年には日立製作所と帝国車輛製のディーゼル動車が輸入されました。

極東鉄道局南サハリン支局・サハリン支局

1963年、南サハリン鉄道局は、極東鉄道局の南サハリン支局に編入されました。1967年にはТГ16形液体式ディーゼル機関車の新製が始まり、1968年までに30両が投入されました。これにより、1971年に無煙化がほぼ達成されました。

1966年には自動信号機の導入が始まり、信号通信設備の近代化も進められました。ユジノサハリンスク - ホルムスク線に代わる東西連絡幹線として、アルセンチェーフカ - イリインスク間の新線が建設され、1971年に開通しました。1973年には、ワニノとホルムスクを結ぶ鉄道連絡船が就航し、大陸の鉄道網と接続されました。

1977年には南サハリン支局をサハリン支局に改称し、1979年にはノグリキまで開通しました。1980年代には主要駅舎の改築やポロナイスク駅の新設移転が行われました。気動車については、1985年に富士重工業製のステンレス製ディーゼル動車Д2系が導入されました。

サハリン鉄道局

1991年のソビエト連邦崩壊に伴い、1992年1月20日、極東鉄道局サハリン支局はサハリン鉄道局に再編されました。

1992年にはТГ22形ディーゼル機関車が導入されましたが、1990年代の経済混乱により、鉄道運営は困難な状況に置かれました。1993年にはJR東日本から無償譲受したキハ58系ディーゼル動車をК-1形として導入し、1995年頃にかけて多くの閑散線区の旅客・貨物列車の運行を休止するなど、大規模な合理化を進めました。

1994年にはトンネル施設損壊によりユジノサハリンスク - ホルムスク線の一部が不通となり、同区間の廃止を決定しました。一方、ホルムスク - イリインスク間のトンネルの老朽化に対処するため、迂回する新線を建設し、1996年に開通させました。

2000年代に入ると、予算・部品不足が解消され、老朽化した車両の更新が進められました。2002年7月には、サハリン鉄道局管内の狭軌路線について、広軌への全面改軌計画「路線再建」が決定しました。

ロシア鉄道サハリン鉄道支社・極東鉄道支社サハリン地域部

2003年、ロシア連邦運輸通信省の国鉄事業は、ロシア鉄道公開株式会社に引き継がれ、サハリン鉄道局は同社のサハリン鉄道支社となりました。同年、サハリン鉄道支社管内の改軌工事が開始されました。

2010年10月1日には、サハリン鉄道支社が極東鉄道支社に編入され、極東鉄道支社サハリン地域部となりました。2012年には、旅客列車運行事業がサハリン旅客企業に移管されました。

改軌工事は、2011年1月1日時点で328kmが完成しました。2019年には、ほぼ全線で広軌での運行が開始され、2021年には島内全線区の広軌化が完了しました。

サハリンの鉄道は、その歴史の中で多くの変遷を遂げてきましたが、現在もなお、島内における重要な輸送手段としてその役割を果たしています。

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