サヴォイア・マルケッティ SM.75

サヴォイア・マルケッティ SM.75：多用途に活躍したイタリアの三発機

サヴォイア・マルケッティ SM.75は、1930年代から1940年代にかけてイタリアで開発・運用された旅客機、軍用輸送機です。その多用途性と堅牢な設計から、民間航空だけでなく軍事作戦にも幅広く使用されました。

開発の背景と特徴

SM.75は、サヴォイア・マルケッティ S.73の後継機として、中距離路線用の旅客機および貨物機として開発されました。設計者のアレッサンドロ・マルケッティは、S.73の基本構成を踏襲しつつ、空気抵抗を減らすために引き込み式の降着装置を採用しました。

機体は鋼管フレームを羽布と合板で覆った構造で、動翼表面は合板張りでした。搭乗員は4名で、客室には最大25名の乗客を収容可能でした。短い滑走路でも運用できるよう、離陸距離は337m、着陸距離は280mと短く設計されています。

初期型のSM.75は、高度3,400mで559kW（750馬力）を発生するアルファロメオ126 RC.34空冷星型エンジンを3基搭載していました。その後、高度1,800mで641kW（860馬力）を発生するアルファロメオ126 RC.18 14気筒エンジンを搭載した11機が「SM.75bis」と命名されました。

イタリア王立空軍（レジア・アエロノーティカ）もSM.75に注目し、軍用機版の開発につながりました。軍用機版は、客室窓が廃止され、胴体背面に銃塔を設置するための補強パネルが追加されました。より大きな搭載量を持つこのモデルは、3基のアルファロメオ128 RC.21エンジンを搭載し、「サヴォイア・マルケッティ SM.82」として軍務に就きました。

各派生型

- SM.76: イタリアの航空会社LATIが1939年に導入し、1940年にSM.76と改称した機体。
- SM.87: 1939年に製造されたSM.75の水上機版。746kW（1,000馬力）のフィアットA.80エンジンを搭載し、最高速度365km/h、巡航高度6,250m、航続距離2,200kmを実現しました。4名の搭乗員と24名の乗客を収容可能。
- SM.90: SM.75に1,044kW（1,400馬力）のアルファロメオ135 R.C.32エンジンを搭載した長胴型。1機のみ製造。
- SM.75GA: 「Grande Autonomia（長航続距離）」の意を持つSM.75GAは、3基の641kW（860馬力）アルファロメオ128エンジンを搭載し、1,100kgの貨物を積載して7,000kmの航続距離を誇りました。補助燃料タンクと高性能無線機を備え、長距離飛行能力を向上させています。

運用の歴史

民間航空での活躍

SM.75は、1938年からアラ・リットリア航空やLATI航空でヨーロッパや南アメリカ路線に就航しました。第二次エチオピア戦争後には、ローマ-アディスアベバ路線にも投入されました。その優れた性能は、4名の搭乗員と17名の乗客、荷物を搭載して高度4,000mを時速362kmで1,721km飛行できることを証明し、ペイロードを搭載しての速度記録や周回航続距離飛行の世界記録を樹立しました。1939年には、無着陸飛行記録挑戦のために改造された機体が約12,000kmの飛行記録を達成しました。

1940年 6月にイタリアが第二次世界大戦に参戦すると、民間型のSM.75はイタリアの海外植民地への補給任務に使用され、1943年 9月8日のイタリア降伏まで継続されました。南米での運用は、1941年 12月にイタリアが米国に宣戦布告するまで続けられました。

軍事航空での活躍

第二次世界大戦開戦後、イタリア王立空軍は東アフリカのイタリア領土への連絡維持のためにSM.75を必要としました。機体は、12.7mmブレダ＝SAFAT機関銃を搭載した銃塔と5人目の搭乗員を追加して軍用機化されました。新造されたSM.75は、最大24名の兵員を長距離輸送できるように設計され、旅客機型と同等の性能を発揮しました。

特別任務

SM.75は、プロパガンダ目的のためにいくつかの著名な飛行任務にも従事しました。

- アスマラへの宣伝ビラ投下: 1942年5月、SM.75 GAがローマからリビアのベンガジを経由してエリトリアのアスマラ上空へ飛行し、宣伝ビラを投下しました。
- ローマ - 東京間飛行: 1942年 6月、SM.75 GA RTがローマから東京へ長距離飛行に挑戦しました。ソ連領空を横断し、内モンゴルを経由して東京に到着しました。帰路もソ連領空を通過して無事帰還しました。
- アビシニアへの爆撃任務: 1943年5月、SM.75 GAを改造した2機が、アビシニアのグラ飛行場に駐留する米軍爆撃機を攻撃するために爆撃任務を実行しました。

その他の運用

- イタリア共同交戦空軍: 1943年 9月にイタリアが連合国に降伏した後、数機のSM.75が連合国側で戦いました。
- ハンガリー: イタリアからハンガリーに輸出された5機のSM.75は、ハンガリー空軍で使用されました。
- ドイツ: イタリア降伏後、ドイツは数機のSM.75を接収してドイツ空軍で使用しました。

派生型一覧

- SM.75: 民間旅客機および貨物機、後に軍用機に改装
- SM.75bis: 民間旅客機型SM.75のエンジン強化版
- SM.75 GA: SM.75の長距離型
- SM.76: LATI航空向けの機体
- SM.82: SM.75を原型とする軍用機
- SM.82PD: SM.82の長距離飛行記録専用機
- SM.87: SM.75の水上機版
- SM.90: エンジンを換装した長胴型SM.75

運用国

主要諸元(SM.75)

- 乗員: 4名（軍用の場合 +銃手1名）
- 搭乗可能乗客数: 18 - 25名、又は兵員25名
- 全長: 21.6 m
- 全幅: 29.68 m
- 全高: 5.1 m
- 翼面積: 118.6 m²
- 最大離陸重量: 13,000 kg
- エンジン: アルファロメオ 126 RC.34 空冷星型エンジン × 3
- 最高速度: 363 km/h
- 巡航高度: 6,250 m
- 航続距離: 1,720 km

参考文献

- Lembo, Daniele, gli ultimi voli sull'impero, Aerei nella storia n.23, April-May 2002.
- Pellegrino, Adalberto, Il raid segreto Roma-Tokyo, Storia militare n.45, June 1997
- Rosselli, Alberto. "In the Summer of 1942, a Savoia-Marchetti Cargo Plane Made a Secret Flight to Japan." Aviation History. January 2004.

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