ジャンヌ・ダルク (ヘリ空母)

フランス海軍ヘリ空母『ジャンヌ・ダルク』(R97)：練習巡洋艦としての側面と多様な任務

フランス海軍で運用されていたヘリ空母『ジャンヌ・ダルク』(R97)は、その設計からヘリ空母と巡洋艦の中間的な存在と言える艦艇でした。ジェーン海軍年鑑ではヘリ空母として分類されますが、『世界の艦船』ではフランス海軍最後の巡洋艦と位置付けられています。これは、本艦が航空運用能力に加え、優れた兵装と航続距離を備えていたことに起因します。起工時は『ラ・レゾリュー』という艦名でしたが、竣工にあたり、フランスの英雄ジャンヌ・ダルクの名を冠して改名されました。この改名は、フランス海軍における伝統と歴史を継承する意思表示と言えるでしょう。

誕生の背景と設計

1950年代半ば、老朽化した練習巡洋艦『ジャンヌ・ダルク』の後継艦建造が検討されました。当初は既存のフリゲートを複数運用する案も浮上しましたが、最終的には、戦時における対潜戦、水陸両用作戦、兵員輸送も考慮した大型艦の建造が1956年に決定されました。この決定に基づき、1957年度計画で建造が承認されたのが『ジャンヌ・ダルク』(R97)です。

本艦の設計はPH-57と名付けられ、防空巡洋艦『コルベール』を基本設計としました。しかし、高速性よりも多様な任務遂行能力の重視という戦術要求から、機関区画の容積は縮小されました。推進機関は、ラトー・ブルターニュ社製の多管式ボイラー2缶と蒸気タービン1基を2つの機械室に配置。両機械室は隔壁1枚で仕切られたシンプルな構造となっています。海上公試では排煙が艦橋と干渉することが判明し、煙突の高さを増す改修が施されました。

船型は中央船楼型で、艦の前半部は従来の巡洋艦に似た設計。中央部に指揮管制情報区画、主マスト、煙突が集約されています。一方、艦の後部はヘリコプター運用のための航空艤装が集中しています。

航空運用機能と多様な任務遂行能力

『ジャンヌ・ダルク』のヘリコプター甲板は長さ62メートル、幅21メートルを確保し、5箇所の発着スポットを備えていました。同時に2機のヘリコプターが発着可能で、発着スペースの前後にはさらに2機の発進準備スペースがありました。ヘリコプター格納庫は通常時、シュペルピューマ4機を搭載可能で、戦時には練習艦装備の撤去によりさらに4機の搭載が可能でした。格納庫後部には航空機の保守修理設備と弾薬庫が配置され、艦尾には12トン能力のエレベーターがヘリコプター甲板と格納庫を繋いでいました。通常時の搭載ヘリコプターはウェストランド リンクス3機とアエロスパシアル アルエット III 3機でした。

優れた指揮統制能力と航空運用能力を生かし、水陸両用作戦への投入も想定されており、LCVP上陸用舟艇2隻も搭載可能でした。兵員輸送任務では、最大で700名の大隊規模の輸送能力を備えていました。

防御システムと武装

本艦は船楼前端部と艦尾甲板に55口径100mm単装両用砲を各2基搭載。1974年には、船楼前端部の100mm砲間にエグゾセMM38艦対艦ミサイル発射筒を片舷3基ずつ追加搭載しました。しかし、2000年の改装で艦尾甲板の100mm砲2基は撤去されています。設計段階ではマズルカ艦隊防空ミサイルや305mm対潜迫撃砲の搭載も検討されましたが、実現しませんでした。同様に、SENIT-2戦術情報処理装置やクロタル個艦防空ミサイルも計画されましたが、装備に至りませんでした。

艦歴と退役

『ジャンヌ・ダルク』はブレスト海軍工廠で1960年8月7日に起工、1961年9月30日に進水、1964年7月16日に就役しました。2009年にはアタランタ作戦に参加し、ソマリア沖・アデン湾に展開。2009年12月には最終航海に出航し、アフリカ、南米、カリブ海、北米を訪問。フランス海軍士官学校の練習艦としての任務を最後まで全うし、2010年5月27日にブレストに帰港、同年に退役しました。

『ジャンヌ・ダルク』は、フランス海軍の歴史において重要な役割を果たした艦艇として記憶されています。その多様な任務遂行能力と、練習艦としての貢献は、後世に長く語り継がれるでしょう。

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