ジャン・クリュゲ

ジャン・クリュゲ：幼少期の苦難から三冠馬の鞍上へ

ジャン・クリュゲ（1939年3月8日 - ）は、フランス出身の元サラブレッド競馬騎手です。アメリカ合衆国を主戦場とし、数々の名馬に騎乗、輝かしい功績を残しました。その生涯は、決して平坦なものではありませんでした。

困難な幼少期と競馬との出会い

クリュゲはフランスのロット＝エ＝ガロンヌ県アジャンで生まれました。しかし5歳にして父親に捨てられ、孤児院で過ごします。10歳から15歳頃までは、ローマ・カトリックの神父のもとで暮らしましたが、体罰を受けるなど、決して恵まれた環境ではありませんでした。

人生の転機は16歳の時。友人の祖父が働く競馬場で働くようになり、そこで騎手としての道を歩み始めます。しかし、間もなく兵役が課せられ、アルジェリア戦争へと駆り出されることになります。

アメリカでの成功

除隊後、クリュゲは再び騎手としてキャリアを再開。イヴ・サンマルタンの代役としてフランソワ・マテ厩舎に所属しますが、思うような結果を残せず、サンマルタンの復帰により騎乗機会は激減しました。

転機となったのは、女性調教師デニスとの出会いでした。二人は結婚し、1965年にアメリカ合衆国に移住。フロリダ州を拠点に、ホレイショ・ルロ調教師のもとで活躍を始めます。

1969年、クリュゲはブラウリオ・バエザの代役としてアーツアンドレターズに騎乗、メトロポリタンハンデキャップで優勝、念願のG1競走初制覇を飾りました。この勝利は、アメリカにおけるクリュゲの成功の始まりでした。

その後もクリュゲは数々の名馬に騎乗。1970年にはホイストザフラッグという無敗の2歳馬を手綱に持ちましたが、怪我によりクラシック挑戦は叶いませんでした。クリュゲは、のちにホイストザフラッグを最高の馬と語っています。

1972年には、一時的にヨーロッパの競馬にも復帰。プール・デッセ・デ・プーリッシュ（フランス1000ギニー）とヴェルメイユ賞を制覇するなど、フランスリーディング2位という好成績を残しました。

アメリカとヨーロッパをまたにかけて活躍したクリュゲですが、彼の名を不滅のものにしたのは、シアトルスルーとの出会いです。クリュゲはデビューからシアトルスルーの鞍上を務め、2歳戦から三冠路線を連勝。ベルモントステークスでは、ゴール直前で勝利を確信し、鐙に直立して右手を高く掲げた姿は、今も語り継がれています。

引退とその後

1980年7月に一度引退し、妻の調教師業を手伝いましたが、2年後に復帰。1989年にはホッジズベイでカナディアンインターナショナルに再び優勝するなど、長きにわたり第一線で活躍しました。

引退後は、ケンタッキー州ヴァーセイルズ近郊で暮らしており、オールドフレンズの功労馬繋養事業にも協力しています。現在、妻の介護に多くの時間を費やし、公の場に出る機会は減っているとのことです。

主要騎乗馬

アーツアンドレターズ（1969年メトロポリタンハンデキャップ優勝）
ホイストザフラッグ（1970年全米2歳チャンピオン）
サンサン（1972年ヴェルメイユ賞優勝）
シアトルスルー（1977年アメリカ三冠馬）
マックダイアミダ（1978年ワシントンD.C.インターナショナル、カナディアンインターナショナルステークス優勝）
ホッジズベイ（1989年カナディアンインターナショナルステークス優勝）

クリュゲの生涯は、困難を乗り越え、成功を掴んだ、まさにドラマチックな物語です。彼の卓越した騎乗技術と、不屈の精神は、競馬史に永遠に刻まれるでしょう。

もう一度検索