ジュロン島

ジュロン島：シンガポールの石油化学工業拠点

ジュロン島は、シンガポール南西部に位置する人工島であり、同国最大の島です。もともと7つの島々が点在していた場所を、1990年代から2009年にかけて埋め立てて造成されました。面積は約32平方キロメートルに及び、シンガポールの石油化学工業の中心地として重要な役割を果たしています。

歴史：漁村から工業拠点へ

ジュロン島の歴史は、かつて漁村として栄えていた7つの島々に遡ります。1960年代まで、これらの島々にはマレーの伝統的な木造家屋が立ち並び、人々が生活していました。しかし、1960年代後半から1970年代前半にかけて、対岸のジュロン工業団地の開発が進むにつれて、エッソ、シンガポール・リファイナリー・カンパニー、エクソンモービルといった大手石油企業がこれらの島々に進出しました。これを受け、シンガポール政府は石油化学工業を振興する戦略を打ち出し、その後の経済成長の原動力となりました。

1980年代に入ると、シンガポールの急速な産業化に伴い、本島での工場用地が不足しました。そこで、ジュロン島周辺の島々を埋め立てて繋げ、巨大な人工島を造成する計画が浮上し、1991年にJTCコーポレーションがこのプロジェクトのエージェントに指定されました。1995年に本格的な埋め立て工事が開始され、2000年に公式に開島しました。当初は20年を要すると見込まれていた埋め立て計画は、主要な請負業者である日本の五洋建設によって予定よりも早く完了しました。この結果、ジュロン島は元の7つの島の合計面積9.91平方キロメートルから30平方キロメートル以上に拡大しました。

産業：石油化学産業の集積地

ジュロン島は、石油化学企業が集積する一大拠点であり、複雑に張り巡らされたパイプラインと巨大なタンク群が特徴的な景観を形成しています。BASF、BP、セラニーズ、エクソンモービル、デュポン、三井化学、シェブロン、ロイヤルダッチシェル、住友化学など、世界的な大手企業が拠点を構え、2010年には80以上の企業が240億シンガポールドルもの巨額の資金を投じています。

島内の企業は、石油を原料として多様な工業製品を生産しています。例えば、石油から作られるポリカーボネートはCDやDVD、液晶テレビのパネルの原料となり、高吸収性ポリマーはおむつや生理用品に利用されています。エクソンモービル社は、潤滑油の生産に多額の投資を行っており、デュポン社は自動車部品や電気器具などに使われる合成樹脂を生産しています。石油・ガス・石油化学を含む化学部門の生産額は、2005年には6650億シンガポールドルに達し、シンガポールの製造セクターの生産額の32%を占めるまでに成長しました。

ジュロン島の石油精製量は1日あたり130万バレルに達し、ガソリン、灯油、ジェット燃料などを国内外に販売しています。接触分解プラントでは、ナフサなどの副生成物を分解し、プリンターのトナーやプラスチック、半導体、航空機用素材など、さまざまな製品の原料を生産しています。また、インドネシアのガス田から海底パイプラインを通じて天然ガスが供給されており、一部は燃料として利用され、残りは石油化学製品に加工されています。

警備：厳戒態勢

ジュロン島は、テロ対策のため非常に厳重な警備体制が敷かれています。2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、保安地区に指定されており、島へのアクセスは厳しく管理されています。通行できるのは、独自のセキュリティパスを持つ従業員や訪問者のみで、カメラなどの撮影機器の持ち込みや島内での写真撮影は原則として禁止されています。違反者はパスが没収され、島への立ち入りが禁止されます。また、コンピューターなどの機器類の持ち込みも、地区によって登録が必要です。車両で入場する際も、厳重な検査を受ける必要があります。

インフラストラクチャー：本島との接続と島内のネットワーク

ジュロン島は、全長2.3キロメートルの土手道「ジュロン島高速道路」で本島と結ばれています。公共バス路線も運行されており、島へのアクセスを容易にしています。島内には、2つの消防署、フードコートや診療所、無料駐車場を備えたアメニティセンターが設置されています。1982年から稼働しているセラーヤ発電所は、シンガポールで初めて本島以外に建設された発電所です。島内に張り巡らされたパイプラインネットワークは、企業間の連携を可能にし、例えば帝人はCIFE社から塩素を、三井化学からビスフェノールAをパイプラインで受け取ることができます。パイプの色によって用途が分けられており、赤いパイプは消防用水、緑色のパイプは冷却用海水、銀色のパイプは蒸気や生産物を輸送しています。

将来の計画：高付加価値産業へのシフト

シンガポール政府は、医用生体工学分野など、高付加価値の製品生産に力を入れています。その一環として、シンガポール科学技術研究庁の研究機関であるInstitute of Chemical and Engineering Scienceがジュロン島に開設されました。また、原油やナフサなどを地下に貯蔵する「ジュロン・ロック・キャバーンズ」の建設も進められており、2013年の完成を目指しています。さらに、ジュロン島の西端とジュロン工業団地を結ぶ第二の土手道の計画も進行中です。

ジュロン島は、シンガポールの経済成長を支える重要な存在であり、今後も石油化学工業の中心地として、また高付加価値産業の拠点として発展を続けるでしょう。

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