ダイル・ムッラーン

ダイル・ムッラーンは、かつてダマスクスの西郊外、カシオン山の麓に位置した村であり、修道院でした。7世紀から9世紀にかけて、ウマイヤ朝やアッバース朝のカリフたちが、避暑地として、あるいは首都を監視する拠点として、この地を訪れました。しかし、その正確な場所は、現代においては特定されていません。

場所と語源

中世の資料によれば、ダイル・ムッラーンはダマスクスの主要な門の一つであるバーブ・アル＝ファラーディース（楽園の門）に近い、カシオン山の斜面に位置していました。村からは、ダマスクスを取り囲むように広がるグータ地方の豊かな果樹園を一望できたと伝えられています。

ダイル・ムッラーンという名前は、この地にあった大きなキリスト教の修道院に由来すると考えられていますが、その語源ははっきりとしていません。アラビア語では「トネリコの木の修道院」という意味になりますが、歴史家の間では、この説には疑問も呈されています。また、シリア語からの語源を辿ろうとしても、決定的な説明は見つかっていません。

ダイル・ムッラーンの眼下には、サフラン畑が広がり、村の城壁内には庭園や果樹園が豊富にあったと伝えられています。修道院は、美しいモザイクで飾られていたことでも知られています。

歴史

ダイル・ムッラーンは、ウマイヤ朝のカリフたちが、首都ダマスクスを監視しつつ、娯楽を楽しむための滞在場所として利用しました。ウマイヤ朝の創始者であるムアーウィヤは、シリア総督であった時代に、副官のブスル・ブン・アビー・アルタートに命じ、メッカとマディーナを征服するための軍をダイル・ムッラーンで動員させました。その後、ムアーウィヤの後継者となったヤズィード1世は、カリフとなる前にダイル・ムッラーンに滞在し、この地の灌漑システムを改善したと伝えられています。

カリフのアブドゥルマリクとその側近たちは、春の期間をダイル・ムッラーンとジャービヤで過ごしました。アブドゥルマリクの息子のワリード1世は、この地で亡くなっています。また、カリフのワリード2世は、ダイル・ムッラーンに拠点を置いていたと考えられています。

750年にウマイヤ朝が滅亡した後も、後継王朝であるアッバース朝のカリフやその代官たちが、ダイル・ムッラーンを訪れました。ハールーン・アッ＝ラシード、マアムーン、ムウタスィムといったカリフたちは、この村で過ごした記録が残っています。カリフのワースィクは、ダマスクスで起こったカイス族の反乱を鎮圧するためにラジャア・ブン・アイユーブを派遣しましたが、その際、ラジャアはダイル・ムッラーンに司令部を置きました。

ダイル・ムッラーンは、その美しい景観と、ウマイヤ朝、アッバース朝という二つの大王朝のカリフたちが滞在した歴史的な場所として、重要な意味を持っています。しかし、その正確な位置が失われてしまったことは、惜しまれます。

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