チキンウィング・アームロック

チキンウィング・アームロックは、格闘技で用いられる関節技の一種であり、特にアームロック、ダブルリストロックとして知られています。柔道においては腕緘の一種として分類されます。別名として、キムラロック、腕緘召捕、反対腕緘、逆腕緘といった名称も存在します。

概要

チキンウィング・アームロックは、相手の腕を屈曲させ、体の背中側へ捻ることで極めるダブルリストロックです。具体的な手順としては、まず片方の手で相手の手首を掴みます。次に、もう一方の腕で「4の字」を作り、相手の腕に絡ませながら自分の手首を掴みます。そして、相手の手を背中側へ捻るように力を加えます。この際、絡めた腕が支点となり、テコの原理で相手の肩関節に大きなダメージを与えることができます。

この技の利点は、様々な体勢から仕掛けることができる点にあります。相手が逃れようと動けば動くほど、関節が極まる方向に力が加わりやすいという特徴もあります。また、リストロックや腕挫十字固といった他の関節技への連携も容易であるため、プロレスや総合格闘技の試合で頻繁に用いられています。

過去には、アントニオ猪木がアクラム・ペールワンを、藤原喜明がスーパータイガーを、この技で肩の脱臼に追い込んだ事例があります。また、ルー・テーズにこの技を伝授したジョージ・トラゴスは、挑戦してきた素人の腕を切断してしまったという逸話も残っています。肩の関節だけでなく靭帯も損傷したとみられ、当時の医療技術では治療が困難だったようです。名手としては、テーズ、藤原に加え、上田馬之助が奥の手として使用していたことでも知られています。エル・サムライも得意技としており、WWEではブロック・レスナーがトリプルHを破る際に使用していました。

ブラジリアン柔術や総合格闘技の世界では、この技は「キムラロック」、あるいは単に「キムラ」と呼ばれています。この名称は、1951年10月23日にプロ柔道家としてブラジルに渡った木村政彦が、マラカナン・スタジアムでエリオ・グレイシーをこの技で破ったことに由来します。エリオが木村の強さに敬意を表し、「キムラロック」と名付けたと言われています。この経緯については、増田俊也氏の著書『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』に詳細が記されています。木村政彦はこの技を柔道現役時代から得意としており、その技術は拓大予科が高専柔道に参加し、徹底的に寝技を磨いたことで培われたものです。興味深いことに、1926年に出版された書籍『新式柔道』には、抑え込みやガードポジションからのチキンウィング・アームロックの実演が写真付きで掲載されています。

仕掛け方

上からの仕掛け

横四方固めなど、相手よりも優位な体勢から仕掛ける場合、まず片手で相手の手首（右手で相手の左手、左手で相手の右手）を掴んで輪を作ります。次に、もう一方の腕をその輪の後ろから通し、手首を掴んでいる腕を掴みます。そのまま相手の腕を背中側へ捻り上げます。この形は「トップ・キムラ」と呼ばれます。

下からの仕掛け

ガードポジションから仕掛ける場合は、片手で相手の手首（右手で相手の左手、左手で相手の右手）を掴み、上体を起こして相手の腕の裏側に自分のもう一方の腕を通します。そして、手首を掴んでいる方の腕と輪を作り、自分の上体を相手の側面（腕をキャッチしている側）にずらして、両脚で胴体をしっかりと挟みます。最後に、腕を背中側に捻り上げて極めます。

バリエーション

両者が立った状態から極めるチキンウィング・アームロックも存在します。

腕緘返

腕緘返は、立ち姿勢から仕掛け、相手を返して寝姿勢に持ち込むチキンウィング・アームロックです。相手が立っている場合と、半膝立ち、または3点ポジションの場合に適用できます。相手の正面、または仕掛ける腕側の斜め側面に立ち、上へ引くようにして極めます（下から仕掛ける場合と似た形になります）。タックルへのカウンターや、バックからのクラッチを返して首相撲などから仕掛けます。極めたまま自分も倒れこみ、胴絞め式に移行するパターンもあります。

腕緘返は、背後を取られた際の返し技としても有効で、ヴォルク・ハンの他、桜庭和志が得意技としていたため、「サクラバ」と呼ばれることもあります。しかし、桜庭が開発者というわけではなく、プロレス、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン、サンボ、柔術の基本技の一つです。1982年の「講道館柔道の投技の名称」制定時には、講道館で新名称の候補に挙がりましたが、関節技という理由で採用は見送られました。

分類と名称

ルー・テーズは、この技を「ダブルリストロック」と呼ぶことを強く主張していました。宮戸優光の証言によれば、テーズは「チキンウィングフェースロックは鳥のように腕が動くが、ダブルリストロックは極められると腕は動かないから、チキンウィングアームロックと呼ぶのはおかしい」と語っていたそうです。エド・ルイスの技術書では、小手投げなどを「ウィングロック」と呼んでいます。「チキンウィング・アームロック」という名称は、藤原をはじめとするUWF系のレスラーが主に使用していました。テーズは「試合中に1つしか技を使ってはいけないと言われたら、迷わずこの技を選択する」と語るほど、この技へのこだわりが強かったと言われています。

チキンウィング・アームロックは、ストレートアームバーと同様にダブルリストロックの一種です。柔道では腕緘に含まれますが、自身のもう一方の腕や手首を掴まない場合は、腕挫手固、ハンマーロック（腕挫召捕）となります。UFCでマイケル・キエーザが極めたのは腕緘ではなく腕挫手固であり、ルーク・ロックホールドやジョー・ローゾンが極めたのは腕緘ではなく腕挫三角固です。

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