チャメリア

チャメリアとは

チャメリア（アルバニア語:Çamëria、ギリシャ語:Τσαμουριά / Tsamouriá）は、アルバニア南部とギリシャ北西部にまたがるイピロス（エピルス, Epirus）地方の沿岸部を指す地域名です。この地域は、主にギリシャのテスプロティア県とプレヴェザ県、そしてアルバニアのサランダ県南端とギリシャのヨアニナ県西部の一部を含みます。

この地域は歴史的に複雑な民族構成を持ち、ギリシャでは「エピルス」や「テスプロティア」という呼称が一般的ですが、「チャメリア」という名称は、アルバニア人によって用いられ、大アルバニア主義と関連付けられるため、ギリシャでは忌避される傾向があります。

呼称と定義

「チャメリア」という名称は、この地に住むチャム・アルバニア人に由来し、「～の地」を意味する「-eria」が付け加えられたものです。オスマン帝国時代にはテスプロティアを指す名称として広く使われ、現代ではチャム・アルバニア人と関連付けて用いられることが多いです。その語源は、テュアミス川（Thyamis）に遡ります。

領域

チャメリアと呼ばれる地域は、古代のテスプロティア、中世のヴァゲネティアとほぼ重なります。アンヴラキコス湾の北、イオアニナ山脈の西を境界とし、その北端は歴史的に変動してきました。

古代にはテスプロティアの北限はテュアミス川でしたが、中世にはより北に広がっていました。中世のヴェゲネティアは、今日のアルバニア南部（サランダ県、デルヴィナ県）を含み、北東の境界はロガラ山脈やムジナ山脈にまで及んでいました。これは、近代のチャメリアの定義と一致します。

現代では、「チャメリア」の範囲は、チャム・アルバニア人の居住地域に限定される傾向があり、アルバニア南部ではマルカトとコニスポの2つの自治体のみが含まれます。ギリシャ側では、テスプロティア県とプレヴェザ県、そしてヨアニナ県の一部の村が該当します。ギリシャがこの地域を併合した後、「テスプロティア」という呼称はギリシャ領に限定され、アルバニア南部は「北エピルス」と呼ばれるようになりました。

地理と気候

チャメリアは山岳地帯が大部分を占め、南部には渓谷や丘陵が多く、北部には農地が広がっています。道路や水路は主に中部、南部、西部の渓谷に沿って通っています。

この地域には5つの河川が流れ、アルバニア側にはパヴロ川、ギリシャ側にはアケローン川、ルロス川、アラフトス川、テュアミス川があります。

気候は地中海性で、気温は夏に28度から35度程度、冬は冷涼です。南部の一部を除き、雨が多く、特に冬は北部で雪が降ることがあります。

歴史

古代

古代、この地域はテスプロティア人の名を取り、テスプロティアと呼ばれていました。ストラボによれば、テスプロティア人とモロシア人は、エピルスの14の部族の中で最も有力で、この地域を支配したこともありました。プルタルコスによると、ハオニア人、テスプロティア人、モロシア人はエピルスの中心的な部族でした。紀元前4世紀の碑文からは、テスプロティア人の国家組織が他のエピルス地方の部族と類似していたことがわかります。

中世

中世には、この地域はヴァガネティアと呼ばれ、ローマ帝国、東ローマ帝国の統治下に置かれました。1205年、ミカエル1世コムネノス・ドゥーカスがエピロス専制侯国を建国し、この地域は15世紀まで支配されました。ヴァガネティアを含むエピルスは、ギリシャ人難民の新たな定住地となり、ミカエル1世は「第二のノア」と称されました。この時代に、アルバニア人やアルーマニア人が移住しました。

エピロス専制侯国は、ブルガリア帝国やニカイア帝国などと争い、その後、セルビア王国に征服されました。1358年には、アルバニア人酋長がエピロスに2つの国家、アルタ公国とジロカストラ公国を建国しました。エピルスの分裂はオスマン帝国の侵攻を招き、15世紀にはこの地域はオスマン帝国の支配下となりました。

オスマン帝国時代

オスマン帝国時代には、この地域はヨアニナ州の一部となり、後にヤニナ・パシャリクの支配下に入りました。この時期に、「チャメリア」という名前が使われるようになり、ヤニナ州の一地区となりました。

18世紀には、アルバニア人の武装勢力指導者アリー・パシャがこの地域の支配者となり、半独立のヤニナ・パシャリクを形成しました。アリー・パシャはスーリの住民を屈服させようとしましたが、スーリオーテスの抵抗を受けました。パシャリクが崩壊した後、この地域は再びオスマン帝国の支配下に戻りました。ギリシャ人とアルバニア人は、チャメリアを含むエピルス全域を自国の領土にしようとしました。バルカン戦争後、1913年のロンドン会議でエピルスが分断され、チャメリアの大部分はギリシャ領、一部がアルバニア領となりました。

近現代

チャメリアがギリシャ領となってからは、ギリシャ語、アルバニア語、アルーマニア語、ロマ語などが話されていました。1923年のローザンヌ条約に基づき、トルコから追放されたギリシャ人難民がこの地に入植しました。1936年にはテスプロティア県が設立されました。

チャム・アルバニア人は宗教的な権利は認められましたが、少数民族としての地位は認められず、国家による直接的な迫害の証拠は少ないとされています。ムスリムのチャム人は、住民交換でトルコに送られ、資産はギリシャ政府に移管されました。

第二次世界大戦中、一部のムスリムのチャム人は枢軸国と協力し、戦争犯罪に関与しました。戦後、ギリシャにいたチャム・アルバニア人は、枢軸国への協力を理由にアルバニアへ追放されました。しかし、ギリシャのレジスタンスに参加したチャム人や戦争に関与しなかった人もいました。ギリシャ人のゲリラや住民は、チャム・アルバニア人を攻撃し、虐殺事件も発生しました。

住民構成

チャメリア地域は、歴史的に複雑な民族混住地であり、ギリシャ人、アルバニア人、その他の民族が住んでいました。19世紀の民族主義革命の時代とは異なり、民族的な純粋性とは程遠い状況でした。

歴史的民族構成

ギリシャの国勢調査では、ムスリムのみがアルバニア人とみなされていました。1913年には、6万人の総人口のうち、2万5千人がアルバニア語を母語とするムスリムでした。1923年には2万319人のムスリムのチャム人が居住していました。1928年の国勢調査では、1万7008人のアルバニア語を母語とするムスリムが住んでいました。

1941年のイタリア占領下の国勢調査では、正教徒のアルバニア人の数も調査されました。この調査では、5万4千人のアルバニア人が居住しており、うち2万6千人が正教徒、2万8千人がムスリム、ギリシャ人の数は2万人とされました。ギリシャ側はこの数値を誇張されたものとしています。戦後、ギリシャの国勢調査では民族や言語を調査しなくなり、1947年にはムスリムの数は113人、1951年には127人となりました。

現在

ギリシャ政府の国勢調査では民族や言語の調査を行っていないため、チャメリアに住むアルバニア人の数を正確に把握することは難しい状況です。正教徒のチャム人の数は4万人程度と推定されています。アルバニア語は、イグメニツァなどで一部の住民が話しています。エスノローグによると、エピルスとフロリナのレホヴォ村で、1万人がアルバニア語を話すとされています。1994年の調査では、ギリシャ領でのアルバニア語使用は急速に縮小しており、少数言語への公的な支援がないことが原因と考えられます。

主な町

脚注

参考文献

Albania at War, 1939-45, Bernd I. Fischer, p. 85. C. Hurst & Co, 1999
Historical Atlas of Central Europe, 2nd. ed. Paul Robert Magocsi. Seattle: U. of Washington Press, 2002.
Roudometof, Victor. Collective Memory, National Identity, and Ethnic Conflict: Greece, Bulgaria, and the Macedonian Question.
* Clogg, Richard. A Concise History of Greece. Cambridge University Press, 2002.

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