トランシリアン

トランシリアン：パリ近郊を網羅する広大な鉄道ネットワーク

パリとその周辺地域を結ぶトランシリアンは、フランス国鉄（SNCF）がイル＝ド＝フランス地域圏で展開する大規模な郊外鉄道ネットワークです。1999年9月20日に「Transilien」という名称でサービス開始される以前は、単に郊外列車と呼ばれていました。現在では、RERの一部路線やトラムの一部も含む広義の意味と、パリ中心部の主要5駅（サン・ラザール駅、北駅、東駅、リヨン駅、モンパルナス駅）からの路線を指す狭義の意味で用いられています。本稿では主に狭義のトランシリアンについて解説します。

主要路線と広大なネットワーク

トランシリアンは、アルファベット一文字で識別される13本の主要路線で構成されています。そのうち5路線はRERと共通しています。各路線は末端部で複数に分岐し、パリ中心部から放射状に広がる網の目のような路線網を形成しています。総延長は1280kmにも及び、388もの駅が存在します。1日あたり約5000本の列車が運行され、総運行距離は約17万kmに達します。その利用者数は一日平均250万人と、フランス国鉄全体の3分の2を占める規模です。

かつてはオルセー駅（旧オステルリッツ駅）やアンヴァリッド駅も郊外路線の起点でしたが、1979年にRER C線と直通運転を開始したため、現在は起点駅ではなくなっています。また、かつてパリ交通公団（RATP）が運営していたヴァンセンヌ線とソー線もRERに統合されています。

歴史：パリ都市圏発展の原動力

パリと郊外を結ぶ最初のトランシリアン路線は、1837年8月26日にサン・ラザール駅からル・ペック間で開業しました。その後、19世紀半ばまでに主要5駅を中心とした路線が次々と開業し、パリ都市圏は市境を越えて郊外へと拡大していきました。セーヌ川とその支流に沿って発展した鉄道網は、都市の発展にも大きく影響を与えました。丘陵地の開発が本格化するのは、20世紀後半以降の道路網整備以降のことです。

鉄道網の発達により、パリ市民は容易に郊外の自然豊かな地域へレジャーに出かけることが可能となり、バルビゾン派や印象派などの芸術運動にも影響を与えたと言われています。1938年には、方面別に分かれていた運営会社が統合され、フランス国鉄が発足しました。1960年代からは、郊外路線をパリ中心部まで地下で乗り入れるRERの建設が始まり、SNCFも運営に参入しています。

1991年のパリメトロに続いて、1999年にはトランシリアンの一等車も廃止されました。

各路線の特徴：ターミナル駅毎に解説

ここでは、RERとトラムを除く狭義のトランシリアンについて、モンパルナス駅から時計回りに主要駅毎に解説します。

モンパルナス駅: オー＝ド＝セーヌ県とイヴリーヌ県方面を結ぶ路線（N線）があり、RERは乗り入れていません。
N線: ヴェルサイユ、ラ＝ヴェリエール方面に向かう路線。一部区間でU線、RER C線と重複。

サン・ラザール駅: オー＝ド＝セーヌ県、イヴリーヌ県北部、ヴァル＝ドワーズ県西部方面への路線が多数あります。RER A線の西部区間もかつてはサン・ラザール駅発の路線でした。
L線: ラ・デファンス経由の南線とナンテール経由の北線に分かれる。
J線: ナンテール経由の南線とアルジャントゥイユ経由の北線に分かれる。

北駅: セーヌ＝サン＝ドニ県、ヴァル＝ドワーズ県東部、セーヌ＝エ＝マルヌ県北部方面に向かう路線。RER B線、D線と直通する路線も存在します。
H線: ポントワーズ、エルモン・オーボンヌ方面。RER C線と重複区間あり。
K線: ミトリー・クレイユ、オルネー方面。RER B線と重複区間あり。

東駅: セーヌ＝サン＝ドニ県、セーヌ＝エ＝マルヌ県方面に向かう路線。RER E線と直通する路線も存在します。
P線: シェル・グルネー経由の北線とグレッツ＝アルマンヴィリエ経由の南線に分かれる。RER E線と重複区間あり。

リヨン駅: ヴァル＝ド＝マルヌ県、エソンヌ県東部、セーヌ＝エ＝マルヌ県南部方面に向かう路線。RER D線と直通する路線も存在します。
* R線: ムラン方面。RER D線と重複区間あり。

多様な車両：電車、客車、機関車

トランシリアンでは、電車、客車、機関車など多様な車両が使用されています。電車には2階建て車両が多く、客車列車には運転台付き制御車が連結され、プッシュプル運転が行われています。ここでは、狭義のトランシリアンとSNCFが運営するRER路線で使用される車両について簡単に紹介します。

電車: Z5300、Z5600、Z6100、Z6400、Z8100、Z8800、Z20500、Z22500、Z20900、U25500、Z50000など。
デュアルモード車: B82500など。
機関車: BB17000、BB25500、BB27300、BB63500、BB67400など。
客車: RIO、RIB、VB2Nなど。

Z50000（Francilien）は、2009年から導入された新型電車で、今後旧式車両を置き換える予定です。B82500はディーゼルと電気の両電源に対応するデュアルモード車両で、非電化区間にも対応しています。

運賃システム

運賃は原則として区間制ですが、パリ市内のRER区間はRATPの路線やメトロと共通の均一運賃です。ゾーン制の定期券であるカルトランジュがありますが、イル＝ド＝フランス地域圏外では利用できません。観光地入場券とのセット券なども存在します。パリ近郊の一部駅には自動改札機が設置されていますが、多くの駅では信用乗車方式です。

まとめ

トランシリアンは、パリとその周辺地域を結ぶ重要な交通手段として、多くの人々の生活を支えています。その歴史、路線網、車両、運賃システムなど、多様な側面を持つトランシリアンは、パリ都市圏の社会経済の発展に大きく貢献しています。今後も、更なる利用者の増加や利便性向上のため、さまざまな改善が期待されています。

もう一度検索