ドナルド・マッキンタイア (イギリス海軍)

ドナルド・マッキンタイア：大西洋の戦いを制したUボート・キラー

ドナルド・ジョージ・フレデリック・ウィーヴィル・マッキンタイア（Donald George Frederick Wyville Macintyre, 1904年 1月26日 - 1981年 5月23日）は、イギリス海軍の大佐であり、第二次世界大戦中の大西洋の戦いにおいて、卓越した対潜戦の指揮官として名を馳せました。彼は、多数のUボートを撃沈し、その中には2人のエース艦長も含まれています。また、戦後は海事史家としても活躍し、数々の著書を残しました。

生涯

マッキンタイアは、1904年 1月26日にイギリス領インド帝国のデヘラードゥーンで生まれました。1926年にイギリス海軍に入隊し、当初は地中海艦隊の駆逐艦に配属されました。その後、艦隊航空隊（Fleet Air Arm, FAA）に移り、航空機のパイロットとしての訓練を受けました。7年間、空母フューリアス、ハーミーズ、カレイジャスで勤務しましたが、1935年の事故により水上艦艇勤務に戻ることになりました。

第二次世界大戦前の経歴

空から海に戻ったマッキンタイアは、スループ「キングフィッシャー」の指揮官となり、対潜学校のあるポートランド海軍基地に配属されました。1937年には駆逐艦「ディフェンダー」の艦長となり、極東へ派遣され、アモイ危機で活動しました。1939年に本国に戻り、駆逐艦「ヴェノマス」の艦長として海峡戦隊に加わり、第二次世界大戦開戦を迎えることとなります。

第二次世界大戦

1939年の開戦後、マッキンタイアは「ヴェノマス」と共に英仏海峡で兵員輸送船団の護衛任務に従事しました。1940年1月には、新造の駆逐艦「ハーティ」の艦長に任命されましたが、同名の既存艦との混同を避けるため、「ヘスペラス」と改名されました。この「ヘスペラス」は、本来ブラジル海軍向けに建造されたもので、照準装置や方位盤に違いがありました。最初の任務は、フェロー諸島占領の支援でした。

1940年4月、ノルウェーの戦いに参加し、ナルヴィクとモーで活動しましたが、モーでの空襲により損傷し、ダンディーで修理を行いました。修理後、「ヘスペラス」は駆逐艦「ハリケーン」と共に大西洋での活動に移り、悪天候の中、船団護衛任務を続けました。1941年3月、マッキンタイアは「ヘスペラス」の指揮を譲り、駆逐艦「ウォーカー」の先任護衛指揮官（SOE）として、北大西洋で活動する第5護衛グループの旗艦となりました。

先任護衛指揮官としての活躍

マッキンタイアのSOEとしての最初の戦闘は、HX112船団の護衛中に発生しました。この戦闘で、彼はヨアヒム・シェプケ艦長のU-100と、オットー・クレッチマー艦長のU-99を撃沈しました。U-99は「ウォーカー」によって撃沈され、クレッチマーらは救助されました。一方、U-100は駆逐艦「ヴァノック」によって撃破されました。この時、マッキンタイアはクレッチマーから双眼鏡を「解放」し、その後も使い続けました。この時期には、ギュンター・プリーン艦長とそのU-47も失われており、Uボートのエース艦長3人が相次いで失われたことは、Uボートの優位が終わったことを象徴する出来事でした。

ドイツ空軍の脅威を避けるため、「ウォーカー」は北アイルランドのロンドンデリーへ移動しました。フォイル川を航行する際、水先案内人が伝統的な航法ではなく、独特の目印を使うことに驚いたというエピソードが残っています。

結婚とアイスランドでの活動

1941年の冬まで、マッキンタイアと第5護衛グループは、北大西洋とジブラルタル間の船団護衛任務に従事しました。その後、第5護衛グループは解散し、「ウォーカー」は改装後、アイスランドのクヴァールフィヨルズルで本国艦隊に配属されました。この間、1941年11月11日にモニカ・ストリックランドと結婚しました。

1942年2月、マッキンタイアはイギリスの連絡士官として、ニューファンドランド島のプラセンチア近くにあるアメリカ海軍基地アルジェンシャに勤務しました。彼は、プラセンチアが大西洋会談の場所であることを知りました。マッキンタイアは、アメリカ人の「為せば成る」精神に感銘を受けた一方、基地のインフラが整備されていないことに驚きました。また、アイスランドで駆逐艦母艦「プライリー」が火災で損傷した際には、停泊していたイギリス海軍艦艇を気遣ったエピソードがあります。

再び海へ

1942年6月、マッキンタイアは再び駆逐艦任務に戻り、再編された中部海洋護衛部隊（MOEF）隷下のB2護衛グループの指揮を執ることになりました。1942年10月、ONS138船団の護衛中にU-620とU-301を攻撃しましたが、成功しませんでした。護衛部隊は2日間にわたってUボートを拘束し、船団の離脱を支援しました。

カナダ海軍との協同

マッキンタイアは、カナダ海軍の経験不足や訓練不足に度々不満を感じていました。例として、カナダ海軍艦の信号機のバッテリーが切れ、予備がないため交信不能になったことや、爆雷が錆び付いたまま装備されていたことがありました。

悲劇と勝利

1942年の秋、アイスランド周辺の強風により、乗組員が艦上から流されるという悲劇がありました。艦載艇を出せない状況で、士官が救助を試みましたが、水兵は力尽きてしまいました。しかし、その一方で、マッキンタイアはガイ・フォークス・デイに父親になったという知らせを受け取りました。

12月後半、護衛していたHX219船団の護衛中、「ヘスペラス」は駆逐艦「ヴァネッサ」と共にU-357を迎撃しました。1日中続いた戦闘の末、「ヘスペラス」はU-357に体当たり攻撃を行い、艦体を真っ二つにしました。この攻撃で、「ヘスペラス」の艦首は大きく損傷し、積んでいた七面鳥も水浸しになってしまいました。

1943年4月、「ヘスペラス」は新兵器ヘッジホッグ対潜迫撃砲を搭載して再び海に出ました。北へ向かうONS4船団の護衛中に、U-191を探知しました。最初の攻撃は失敗に終わりましたが、2度目のヘッジホッグ攻撃によってU-191を撃沈しました。また、4月29日には、ニューファンドランドへ向かう船団が氷山の脅威を乗り切るのを支援しました。

港での日常

「ヘスペラス」は、アルジェンシャ、リヴァプール、セントジョンズを拠点としていました。マッキンタイアは、港にいる間には、熱い風呂と寝台での睡眠を得る機会があることを理解していました。アルジェンシャでは、アメリカ海軍の士官たちが、飲酒を許可しているイギリス海軍艦艇を訪問しました。また、リヴァプールでは、免税のジンを求めて民間人が訪問するエピソードがありました。

SC129船団

1943年5月3日、「ヘスペラス」を含むB2護衛グループは、SC129船団と共にアルジェンシャを出発しました。6日後、U-402によって2隻が雷撃され、マッキンタイアが参加した船団で初めての犠牲者となりました。その後、「ヘスペラス」はU-223を損傷させ、サン＝ナゼールへ追い返しました。さらに、U-186を撃沈しました。しかし、燃料不足や爆雷の不足に悩まされながら、5月16日までに船団は危険な海域を脱出しました。

新たなグループへ

1944年4月、マッキンタイアは「ヘスペラス」を離れ、アメリカ製のフリゲート「ビッカートン」の艦長となり、第5護衛グループに所属することになりました。4月21日、ONS233船団の護衛任務に就きましたが、その後護衛空母「ヴィンデックス」と第9護衛グループに合流しました。

U-765

5月5日、U-765を探し出し、クリーピング攻撃という戦術によって、撃沈に成功しました。その後、U-736との交代を知りましたが、その後の攻撃は不成功に終わりました。

ノルマンディー上陸作戦

1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦の前後に、マッキンタイアは「ビッカートン」と第5護衛グループで、ウェスタンアプローチの浅い海域を哨戒しました。6月15日、Uボートを捜索中に、音響追尾魚雷によって「モーン」が撃沈されるという悲劇がありました。6月25日にはU-269を撃沈しました。

「ビッカートン」の沈没

1944年8月18日、「ビッカートン」は重巡洋艦ケントと護衛空母を護衛中に雷撃を受け、艦尾が破壊されました。重要性から、マッキンタイアは駆逐艦で「ビッカートン」を処分しました。

終戦

マッキンタイアは海上勤務から離れることになりました。彼は対潜戦の戦術が変化したことを感じており、航空勤務に移りました。彼は海軍航空基地の司令官として戦争を終えました。

その後

マッキンタイアは、戦後に海軍を退役し、歴史家、作家として成功しました。1956年には自伝「U-Boat Killer」を出版しました。1955年には、かつての宿敵オットー・クレッチマーと再会し、双眼鏡を返還しました。1981年 5月23日、77歳で死去しました。

功績

マッキンタイアは「Uボート・キラー」として名を馳せ、第二次世界大戦中に6隻のUボートを撃沈しました。また、船団護衛指揮官としても優秀であり、護衛成功率は99.8%という驚異的な記録を誇ります。

栄典

マッキンタイアは、殊功勲章（DSO）3回、殊功十字勲章、柏葉敢闘章、レジオン・オブ・メリットを受章しました。

著書

マッキンタイアは、多数の海軍史に関する著作を残しました。主な著書には「U-Boat Killer」「Destroyer Man」「Jutland」「Narvik」「The Thunder of the Guns: A Century of Battleships」「Fighting Admiral」「The Battle of the Atlantic」などがあります。

参考文献

マッキンタイアの研究には、以下の書籍が参考になります。
Clay Blair: Hitler's U-Boat War [Volume 2]: The Hunted 1942–1945
Peter Dickens: HMS Hesperus
Paul Kemp: U-Boats Destroyed
Donald Macintyre: U-Boat Killer
David White: Bitter Ocean