ハイパーボリア (クトゥルフ神話)

ハイパーボリア：クトゥルフ神話の極北大陸

ハイパーボリアは、クトゥルフ神話において、グリーンランド近辺にあったとされる架空の古代大陸です。クラーク・アシュトン・スミスによって創造され、彼の作品群や、後のクトゥルフ神話作家たちの作品にも登場し、その世界観を豊かに彩っています。表記揺れが多く、「ヒュペルボレオス」「ヒュペルボリア」「ヒューペルボリア」など様々な表記が見られます。

古代文明と邪神： ハイパーボリアは高度に発達した文明を築いていましたが、同時に邪神アブホースやゾタクア（ツァトゥグァ）、そしてヴーアミ族といった凶暴な原住民族や様々な怪物たちが存在する危険な地でもありました。首都コモリオムは壮麗な都市として繁栄しましたが、最終的には、氷河期の到来によって滅亡し、人々はムー大陸やアトランティスへと移住したとされています。

ギリシア神話との繋がり： ハイパーボリアという地名は、ギリシア神話に登場する伝説上の地「ヒュペルボレイオス」に由来しています。古代ローマの大プリニウスも『博物誌』でこの地について言及しており、スミスはこれらの伝説を下敷きにしてハイパーボリアを創造しました。この古代大陸は、当時のパルプ・マガジンで流行したヒロイック・ファンタジーの舞台としても位置づけられ、スミスはその潮流に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

ラヴクラフトとの関わり： クトゥルフ神話のもう一人の巨匠、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト（HPL）は、スミスのハイパーボリア設定に感銘を受け、自身の作品にゾタクア（ツァトゥグァ）という神格を取り入れました。また、アトランティスの大祭司クラーカシュ＝トンがハイパーボリアの歴史をコモリオム神話として記録したという設定も加えられました。これにより、ハイパーボリアの世界観は、HPLのクトゥルフ神話的要素を取り込み、より深みのある「先史時代版のコズミック・ホラー」としての性格を帯びることになります。

ハイパーボリアを滅ぼした氷河期： ハイパーボリアの滅亡をもたらした氷河期については、後続作家たちによって「旧支配者アフーム＝ザーの仕業」という設定が追加されています。これは神智学の影響を受けており、神智学では人類の進化を7段階に分け、そのうちハイパーボリアは3番目の根源人種に位置付けられています。

主要な地理的要素：

コモリオム： ハイパーボリア王国の首都。大理石と御影石で造られた壮麗な都市でしたが、ヴーアミ族出身の無法者クニガティン・ザウムの暴挙により廃墟と化しました。
ヴーアミタドレス山： コモリオムから1日かかる距離にある山。ヴーアミ族が住み、ツァトゥグァをはじめとする様々な怪物や、蛇人間などが生息する危険な場所です。
ムー・トゥーラン： ハイパーボリア大陸最北端の半島。魔術師エイボンやゾン・メザマレックが住んでおり、ゾタクア信仰とイホウンデー信仰の対立が描かれています。氷河期によって最初に氷に閉ざされた地でもあります。
ツチョ・ヴァルパノミ： コモリオムの南方にある伝説の王国。瀝青の湖や火花を発する大洋など、異様な光景が広がっています。

その他の重要な要素：

エイボンの書： ハイパーボリアで書かれた書物。クトゥルフ神話作品内でしばしば言及されます。
ゾタクア（ツァトゥグァ）： ハイパーボリアで崇拝された邪神。スミスとHPLの作品では描写が大きく異なります。
ヴーアミ族： ヴーアミタドレス山に住む凶暴な原人種族。ゾタクアを信仰しています。
銀の鍵： ハイパーボリア起源とされるアイテム。ルルイエ語羊皮紙とセットになっています。

関連作家と作品：

クラーク・アシュトン・スミスは、詩を含め11編のハイパーボリア関連作品を発表しています。また、『エイボンの書』はハイパーボリアを舞台にした作品集であり、スミスのメモを元に他作家による作品も収録されています。HPLは『狂気の山脈にて』や『永劫より』でハイパーボリアに言及しています。ロバート・E・ハワードも、ギリシア伝説のヒュペルボレイオスを参考に、独自のハイボリアを創造しています。

ハイパーボリアは、その魅力的な世界観と、複数の作家によって積み重ねられてきた歴史、そしてクトゥルフ神話との深い繋がりによって、今日でも多くのファンを魅了し続けている架空の古代大陸なのです。

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