ハードディスク・レコーダー

ハードディスク・レコーダーとは

ハードディスク・レコーダー（HDDレコーダー）は、大容量のハードディスク（HDD）を記録媒体として、音声や映像をデジタルデータで記録する装置です。主に、音声のみを録音する機器と、映像を録画する機器の2種類があり、それぞれ異なる分野で発展してきました。

音声録音用ハードディスク・レコーダー

概要

音声録音用のハードディスク・レコーダーは、デジタルオーディオ機器の一種で、デジタルマルチトラックレコーダーとして利用されます。従来のオープンリール式テープやカセットテープのマルチトラックシステムに代わる存在であり、テープベースのレコーダーにはない編集機能を提供します。単体機として独立した製品もあれば、コンピューター上で動作するソフトウェアとして提供されるものもあります。どちらのタイプも、通常はデジタルミキシングと音声信号処理機能を備えています。

1980年代以前は、多くがアナログマルチトラックレコーダー、特にオープンリールテープが使用されていました。1980年代から1990年代には、ニューイングランドデジタル社がハードディスクレコーディングシステムを提供し、映画のポストプロダクションなどの限られた分野で導入されました。しかし、当時はコストが高く、ディスク容量も限られていたため、大規模なレコーディングスタジオでの使用に限られていました。その後、CD市場の拡大に伴い、デジタルレコーディング技術の開発が進み、1980年代後半から1990年代初頭にかけていくつかの製品がリリースされました。1990年代中頃には、ハードディスクの価格が安定し、供給量が増加、単価が低下、容量が増大、小型化が進んだことで、ハードディスクレコーディングシステムのコストが下がり、個人や小規模プロジェクトスタジオでも導入が容易になりました。他のデジタルレコーダーとしてADATやDTRSなどがありましたが、スタジオレコーディングにおいてハードディスクレコーディングシステムは急速に普及し、標準的なシステムとなりました。

ハードディスクへのオーディオ録音の最大の利点は、ノンリニア編集が可能なことです。音声データはランダムアクセスできるため、非破壊編集が可能です。つまり、元のデータは編集のための素材であり、意図的に操作しない限り変更されることはありません。ただし、ノンリニア編集機能はすべてのハードディスクレコーディングシステムに搭載されているわけではなく、異なる編集方法を提供するメーカーもあります。また、ハードディスクレコーダーは、テープベースのシステムと比較して、記録媒体であるハードドライブの耐久性や容量の制限によるディスク交換にコストがかかるという欠点もあります。

近年では、ハードディスクレコーダーはデジタルミキシングコンソールと一体化され、デジタルオーディオワークステーションの一機能として提供されることが多くなっています。これにより、複雑な処理を自動化できるため、レコーディングエンジニアはミキシング作業に集中できるようになりました。また、パーソナルコンピュータをベースとしたPro Toolsなどのソフトウェアと豊富な周辺機器の登場により、ハードディスクレコーダーはより柔軟なインターフェースを提供し、スタジオでの利用が標準化しています。ハードディスクレコーディングシステムには、物理的なディスクサイズ、転送速度、プロセッサ速度などの制約がありましたが、近年ではハードディスクの大容量化と低コスト化が進んだため、かつて使われていた可逆デジタル音声圧縮技術は姿を消しました。

主な音声録音用ハードディスクレコーダー

単体機

AKAI professional
DPSシリーズ（Digital Personal Studio）
DPS12 (1997年11月) - 16bit 32/44.1/48 kHz、12tr（Rec8tr）、20ch Mixer、Jaz Drive
DPS16 (1999年) - 16/24bit 32/44.1/48/96 kHz、16tr（Rec10tr）、26ch Mixer
DPS24 (2002年) - 16/24bit 32/44.1/48/96 kHz、24tr、46ch Mixer、CD-RW
フォステクス
Dシリーズ（Digital Recorder）
D-80 (1996年) - 16bit 44.1 kHz、8tr
D2424 - [email protected]/48 kHz [email protected]/48/88.2/96 kHz、24tr（analogRec8tr、ADAT-optical 24tr）
VFシリーズ（Digital multitracker）
VF-16HD (2000年6月) - 16bit 44.1 kHz、16tr（Rec8tr w/digital 16tr）
VF80 (20GB) (2002年2月) - 16bit 44.1 kHz、8tr（Rec2tr）
MRシリーズ（Digital multitracker）
MR-8HD (2006年10月) - 16bit 44.1 kHz、8tr（Rec4tr）
MR16HD (2007年5月) - 16bit 44.1 kHz、16tr（Rec4tr）
コルグ
コルグ・Dシリーズ（Digital Recording Studio）
MRシリーズ（1-Bit Professional Mobile Recorder）
MR-1 - 1bit 2.8824 MHz (DSD) 44.1/48 kHz@16/24bit 88.2/96/176.4/192 kHz 24bit、2tr
MR-1000 - 1bit 5.6448 MHz/1bit 2.8824 MHz(DSD)/24bit 192 kHz(PCM)
ローランド
VSシリーズ（Digital Studio Workstation）
VS-880 (1996年) - 16bit 32/44.1/48 kHz、8tr（Rec4tr）
VS-1680 (1998年) - 24bit 32/44.1/48 kHz、16tr（Rec8tr）
VS-2480 (2001年) - 24bit 32/44.1/48/64/88.2/96 kHz、24tr（Rec8tr@64–96 kHz 16tr@32-48khz）
ヤマハ
AWシリーズ（Professional Audio Workstation）
AW4416 (2000年5月) - 24bit、16tr、44ch Mixer
AW2816 (2001年7月) - 24bit、16tr、28ch Mixer
AW16G (2002年7月) - 24bit、16tr（Rec8tr）、36ch Mixer
AW1600 (2005年) - 24bit、16tr（Rec8tr）、36（input）Mixer
AW2400 (2005年) - 24bit、24tr（Rec16tr）、48（input）Mixer
ズーム
MRSシリーズ（MultiTrak Recording Studio）
MRS-1608 - 16bit、16tr（Rec8tr）、27ch Mixer（Effect、Rhythm、Sampler）

Rec=最大録音トラック数

ソフトウェア

Ardour（Linux、Mac OS X）
Adobe Audition（Microsoft Windows）
Pro Tools（Mac OS、Microsoft Windows）
Cubase（Microsoft Windows、Mac OS X）
Logic Pro, Logic Express（Mac OS X）
Myth TV（Linux）

映像録画用ハードディスク・レコーダー

概要

映像録画用ハードディスク・レコーダー（デジタルビデオレコーダー、DVR）は、映像データをハードディスクに記録するデジタルビデオ装置です。近年では、放送を受信するためのチューナーとハードディスクを内蔵した製品が主流ですが、チューナーとハードディスクが分離しているタイプもあります。また、外付けHDDを複数台増設できる機種も増えています。DVDレコーダーやBDレコーダーの機能を搭載している機種も多く、多機能化が進んでいます。

主なメーカー・シリーズ

パナソニックのディーガ（DIGA）シリーズ (品番: DMR-xxxx など)
東芝/TVS REGZAのレグザ（REGZA）シリーズの中の「タイムシフトマシン」 (品番: DBR-xxxx・D-xxxxなど)
シャープのアクオス（AQUOS）シリーズ (品番: 2B-Cxxxx など)
ソニーのBDZシリーズ (品番: BDZ-xxxx など)
アイ・オー・データ機器のREC-ONシリーズ
ソニー/バッファローのnasne（ハードディスクレコーダー機能を含んだネットワークストレージ）
ケーブルテレビのリース用チューナーであるセットトップボックス（外付けHDD録画やブルーレイへのダビング機能付き）
ガラポン株式会社の「ガラポンTV」シリーズ（ワンセグ全チャンネルの常時録画レコーダー）

歴史

2001年4月に東芝がRD-Styleシリーズ（現:REGZA）でHDDレコーダーとDVDレコーダーを組み合わせた「HDD&DVDレコーダー」を発売しました。2002年頃は両ドライブが高価だったため、ハイブリッド型は主流ではありませんでしたが、2003年にパナソニックDIGAがハイブリッド型を中心に展開したことで、DVDレコーダーとHDDレコーダーが一体化した製品が主流となりました。

2004年11月には、ソニーが6チャンネルを同時に1週間分録画できる「VAIO type X」を発売し、全録型レコーダーが登場しました。これにより、「とりあえず全部録画しておいて後で検索する」という新しい録画スタイルが生まれました。

2009年頃からは、一部の薄型テレビやデジタルチューナー、PlayStation 3のtorneなど、USB端子に外付けHDDを接続して録画できる機種が登場し、一般化しました。2021年時点では、多くの薄型テレビが外付けHDDによる録画に対応しており、テレビとHDDを組み合わせることでハードディスクレコーダーと同等の機能が利用できます。

歴史的な製品

コクーン (チャンネルサーバー) - 2003年にソニーが発売したアナログ放送専用HDDレコーダー。
Rec-POT（アイ・オー・データ機器） - i.LINK端子を備えた機器と接続してデジタル放送を録画するレコーダー。
iVDR - Rec-POT同様にチューナーと接続する単体型と、薄型テレビに内蔵された機器がある。
バッファローのDVR-1C
torne

録画モードと消費記憶量

録画モードには、受信した放送と同じ画質で録画するDRモードと、画質は低下するがデータ量が少なく済む長時間録画モードがあります。各メーカーで異なる名称が用いられており、パナソニックでは「DR、HG、HX、HE」、三菱では「AF、AN、AE」などがあります。1TBのHDDでDRモードで録画した場合、地上デジタル放送で約127時間、BS・CS放送で約90時間録画できます。長時間モードでは、15倍モードで約1,905時間、あるいは1,350時間の録画が可能です。ただし、機種によってはHDD1台あたりのファイル数に上限があり、短時間の番組を大量に録画すると、ファイル数の上限に達して記憶領域をフルに活用できない場合があります。

長所・短所

長所

キーワードを設定することで関連番組を自動録画できる。
ランダムアクセスにより、録画した番組をキーワード検索して自由に視聴できる。
早送り再生で視聴時間を短縮できる。
CM部分をジャンプできる。
番組の編集が容易。
外付けHDDにより大容量化が可能。
複数チューナー搭載により同時録画が可能。
スマートフォンとの連携機能がある機種もある。
字幕データを記録・表示できる機種が多い。

短所

著作権保護のため、コピー回数制限やコピーガードがあり、故障時にデータが再生できなくなる場合がある。
外付けHDDは本体と紐付けされており、他のレコーダーで再生できない（SeeQVault対応製品を除く）。

光学ディスクへのダビング

近年ではHDDの大容量化が進み、外付けHDDによる容量拡張が容易になったため、HDDに録画した番組を光学ディスクにダビングする機会は減っています。HDDレコーダーのメリットはランダムアクセスによる快適な視聴にあり、ディスクへのダビングはそのメリットを損なうためです。

ただし、特定の番組をディスクに保存する必要がある場合には、BDにDRモードの画質で記録することが可能です。BD（一層）の場合、地デジで約3時間、BS/CSで約2時間10分の録画が可能です。DVDへのダビングは一部メーカーのみ対応しています。ソニーとシャープでは、DVDにAVCREC方式で録画したものは再生できません（BDの普及促進のため）。また、画質を落としたAE/HE（ハイビジョン画質）、EP（標準画質）の場合、機種によっては録画時間の設定変更が可能です。東芝の一部機種には、ディスクに応じた録画時間を調整する「AT（オートモード）」「MN（マニュアルモード）」があります。

HDDからディスクへの高速ダビングの対応は、ディスクの種類によって異なります。

○：高速ダビング可（ただし、BDのDR画質録画は容量超過で画質変換）
▲：等倍録画（画質変換の上で記録）
△：等倍録画（録画当時の画質で記録）
×：ダビング不可

脚注

外部リンク

* ハードディスク・レコーダー - IT用語辞典 e-Words

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