バートト

バートト部（ドルベン・オイラトの一翼）

バートト部（モンゴル語: Баатуд/Baatud、中国語: 巴圖特）は、14世紀末に成立したドルベン・オイラト（四オイラト、オイラト部族連合）に属する部族の一つです。本記事では、その起源から解体までを解説します。

起源

ガワンシャラブ著『四オイラト史』によれば、バートト部はホイト部と同一起源を持つとされています。これは、両部族が元々同じグループに属していたことを示唆しています。

パラス著『モンゴル民族史料集』には、ホイト部の始祖であるヤバガン・メルゲンが中国の内乱鎮圧に貢献し毒殺された後、帰還した5人の武将がオイラトを5つの部族に分割したという伝説が記されています。この伝説によれば、そのうちの一つがバートト部になったとされています。また、パラスは「バートト」という名称が、中国での戦いにおける彼らの勇猛さに対する尊称に由来すると推測しています。

この逸話は、クビライとアリク・ブケによる帝位継承戦争において、オイラト部がアリク・ブケ側についた史実を反映していると考えられています。

変遷

14世紀末、オイラト部はアリク・ブケの末裔であるイェスデルに従い、当時のハーン、トグス・テムルを殺害しました。この際、イェスデルの下に結集したオイラト部（後のホイト部、バートト部）、旧バルグト部（後のバルグ部、ブリヤート部）、旧ケレイト部（後のトルグート部）、旧ナイマン部（後のドルベト部、ジューンガル部）がドルベン・オイラト（四オイラト）を形成しました。

15世紀半ばには、ドルベン・オイラトでエセン・タイシ、タイスン・ハーンに次ぐ実力者として、アラク・テムル・チンサンという人物が登場します。『蒙古源流』には「オイラトのバートトのバガルフン・オトクのアラク丞相」と記されており、バートト部の首長であったことがわかります。

1452年、エセン・タイシがタイスン・ハーンを弑逆してハーン位に就くと、アラク・テムルはエセンに「タイシ」の称号を与えるよう求めました。しかし、エセンがこれを拒否し、自分の息子オシュ・テムルに「タイシ」号を与えたため、アラク・テムルは怒り、1454年にエセンを殺害しました。アラク・テムルは一時的にドルベン・オイラトを掌握しましたが、ハラチン部のボライに敗れ、バートト部の優勢は短期間で終わりました。

解体

エセンの死後、ドルベン・オイラトは混乱と衰退を続けました。15世紀末にダヤン・[[ハーン]]が即位すると、モンゴル諸部族の再統一が進み、オイラトはモンゴルに対して劣勢となりました。1574年には、オルドス部による大規模なオイラト遠征が行われ、ブヤン・バートル・ホンタイジがオイラトのホイト部を攻撃し、同時期にカザフ・ハン国に遠征していたホトクタイ・セチェン・ホンタイジも、バルス・クルに輜重を置いてバートト部を攻撃しました。当時のバートト部はハムスとドゥリトクらに率いられていましたが、ホトクタイはジャラマン山で彼らを破り、バートトの民を征服しました。

1617年には、ハルハのウバシ・ホンタイジによるオイラト侵攻が始まりましたが、1623年にはオイラト連合軍がウバシ・ホンタイジに勝利しました。しかし、1625年にホシュート部のチン・タイシの遺産相続をめぐる争いがドルベン・オイラト全体を巻き込む内乱に発展しました。チョークルはトルグート部・バートト部と同盟を組んでバイバガスを攻め、バイバガスはチョロース部やホイト部の助けを得ましたが、最終的にチョークルが勝利しました。

この内戦後、ハルハ部首領とドルベン・オイラトの首領達との間に結ばれた『ハルハ・オイラト法典』には、流散したホイト、バートト、バルグの民をハルハとオイラトで分割するという内容が記載されており、この内戦を通じてバートト部、バルグ部は壊滅的な打撃を受け、解体されたと考えられています。実際に、この後バートト部、バルグ部が独立した部族として登場することはなく、ドルベン・オイラトは清朝による統治時代を迎えることになります。

パラスの記述によれば、「バートトの大部分は青海オイラトとトルグートに入った」とあり、バートト部の遺民の大部分はトルグート部と青海オイラト（ホシュート部）によって分割吸収されたと見られています。

参考資料

井上治『ホトクタイ＝セチェン＝ホンタイジの研究』風間書房、2002年
岡田英弘訳注『蒙古源流』刀水書房、2004年
岡田英弘『モンゴル帝国から大清帝国へ』藤原書店、2010年

関連項目

北元
* オイラト

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