トルグート

トルグート：草原を駆け巡ったオイラトの一族

トルグートは、モンゴル系遊牧民族オイラトを構成する一部族であり、その歴史は中央ユーラシアの激動と深く結びついています。彼らは、その名の由来、起源、そして数々の移動と戦いを通じて、独自の文化とアイデンティティを築き上げてきました。

名前の由来：大きな身体を持つ者たち

『トルグート王統記』によれば、トルグートの名の由来は、オイラトのハーン、トゴン・タイシが彼らの使者を見た際に「汝らはなんと大きな身体をしている立派な国民であることか」と驚嘆したことに始まります。この言葉から「トルグート（大きな身体の者たち）」と呼ばれるようになったと伝えられています。

起源：ケレイトの末裔

オイラト年代記やモンゴル年代記には、「トルグートの首長はケレイトのオン・ハーンの後裔である」と記されており、トルグートの起源はケレイトにあるとされています。また、『トルグート王統記』には、伝説的な始祖であるゲレル・デレ・ハーンが中国を支配し、その子孫がトルグートという名前を得てオイラトに加わったという記述があります。

トルグートの前身：ケレヌート

史料によると、北元時代初期には「オイラトのケレヌートのオゲチ・ハシハ」という人物が有力であり、チョロース部のゴーハイ太尉らと権勢を争っていました。オゲチ・ハシハの子エセクは、明朝から「賢義王」の王号を与えられ、北元初期の政争において重要な役割を果たしました。オゲチ・ハシハ、エセク父子こそがトルグート王家の始祖であると考えられています。

トルグートの登場：16世紀後半

16世紀後半にはトルグート部が存在していたことが確認されています。『蒙古源流』には、1562年にトルグート部のハラ・ブーラがオルドス部のフトクタイ・セチュン・ホンタイジによって殺害されたという記述があります。また、1616年のロシア古文書史料には、トルグート部のホー・オルロクが全オイラトの筆頭タイシャであるドルベト部のダライ・タイシの相談役であったと記されています。

1620年、トルグート部はハルハ右翼部のアルタン・[[ハーン]]を攻撃しましたが、敗北し、オイラトとモンゴルの戦争を引き起こしました。その後、四オイラトはシベリアへ逃れて体勢を立て直し、1623年にハルハに攻め込み、ウバシ・ホンタイジを殺害しました。

ヴォルガ・トルグート：西方への大移動

1625年、ホシュート部の内紛を避けるため、トルグート部長ホー・オルロクは、トルグート部を始めとする属民5万家族を率いて西方へ移動し、ヴォルガ河畔に住み着きました（1630年）。これが、現在のカルムイク人の祖先であるヴォルガ・カルムィクの始まりです。彼らは、この地で遊牧していたテュルク系ムスリム遊牧民のノガイを追い払い、17世紀後半には大遊牧国家を築き上げました。

1694年には、ヴォルガ・トルグート部長アユーキがダライ・ラマ6世から「ダイチン・アヨシ・ハーン」の称号を授けられ、ハーンとなりました。アユーキの時代は、ヴォルガ・トルグートの最盛期となりました。

エジネ・トルグート：清朝への帰順

アユーキは全オイラト統合を目指していましたが、息子のサンジブが領民を率いてジュンガルへ移ったことで、その勢力は弱まりました。一方、アユーキがチベットに派遣した使節団は、ジュンガルとの不和のために帰国できなくなり、清朝を頼って牧地を与えられ、エジネ・トルグートと呼ばれるようになりました。

トルグートの帰還：故地へ

1755年、清によってジュンガル帝国が滅亡しました。同じ頃、ヴォルガ・トルグートはロシア人やドイツ人の入植に圧迫され、遊牧地を奪われていました。ヴォルガ・トルグート部長のウバシ・ハーンは、故地への帰還を決意し、17万人の部衆を率いて東へ移動しました。7か月に及ぶ逃避行の末、1771年にイリに到着し、清の臣下となりました。

旧トルグートと新トルグート：清朝の支配下で

清の乾隆帝は、帰順したトルグート部を新旧二部に分け、それぞれにジャサク（旗長）を置きました。ヴォルガ河畔から帰還したトルグート部は「旧トルグート」と名付けられ、ヴォルガ河畔に逃れ、後に帰還したトルグートは「新トルグート」と名付けられました。これら2つのトルグート部には、乾隆帝から牧地が与えられ、イリ将軍の統括下に置かれました。

現代のトルグート：各地への分散

現在、トルグート部族の大半は分散され、モンゴル国の西部および新疆ウイグル自治区の北部に居住しています。また、青海省や内モンゴル自治区にもその子孫が暮らしています。ヴォルガ・トルグートの残りはカルムイク人となり、カルムイク共和国を形成しています。彼らは、それぞれの地で独自の文化を保持しながら、その歴史を今に伝えています。

トルグートは、その起源から現代に至るまで、数々の困難を乗り越え、草原を舞台に独自の歴史を紡いできました。彼らの足跡は、中央ユーラシアの歴史を理解する上で欠かすことのできない要素となっています。

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