フルコナゾール

フルコナゾールは、アゾール系に分類される抗真菌薬の一つです。体内の深い部分で起こる真菌感染症、いわゆる深在性真菌症の治療薬として開発され、広く用いられています。特に、カンジダ属やクリプトコッカス属といった真菌が原因となる様々な感染症に対して効果を発揮します。

効果が期待できる症状・疾患

主に、カンジダ属またはクリプトコッカス属の真菌によって引き起こされる以下の疾患に適用されます。

真菌血症: 血液中に真菌が入り込み、全身に広がる重篤な状態です。
呼吸器真菌症: 肺や気管支などの呼吸器系における真菌感染です。
消化管真菌症: 口腔から食道、胃、腸にかけての消化器系における真菌感染です。
尿路真菌症: 腎臓や膀胱、尿道などの尿路系における真菌感染です。
真菌髄膜炎: 脳や脊髄を覆う髄膜における真菌感染で、特にクリプトコッカス属によるものが知られています。

また、特定の状況下での真菌症予防にも用いられます。

造血幹細胞移植患者における深在性真菌症の予防: 免疫力が著しく低下した移植患者において、日和見的に発生しやすい深在性真菌症を未然に防ぐ目的で使用されます。

さらに、女性に多いカンジダ性の感染症である腟炎や外陰腟炎に対しても効果がありますが、この適用は主に経口のカプセル剤に限られます。

作用のメカニズム

フルコナゾールは、真菌の細胞膜を構成する上で不可欠な成分であるエルゴステロールの合成を阻害することで効果を発揮します。エルゴステロール合成経路の特定の酵素の働きを妨げることにより、真菌の細胞膜の構造が異常になり、透過性などの機能が損なわれます。これにより、真菌の増殖が抑えられ、最終的には死滅に至ります。

使用できない方（禁忌）

以下に該当する患者には、フルコナゾールの投与は避ける必要があります。

特定の薬剤を服用中の患者: トリアゾラム（睡眠薬）、エルゴタミン・ジヒドロエルゴタミン（片頭痛治療薬）、キニジン（抗不整脈薬）、ピモジド（精神神経用薬）といった薬剤と同時に使用すると、それぞれの薬物代謝に影響を与え、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
過去にフルコナゾールまたは製剤成分に対して過敏症を起こしたことのある患者: アレルギー反応を起こす可能性があるため、再投与は禁忌です。
妊娠している、または妊娠している可能性のある患者: 胎児への影響が懸念されるため、投与は原則として避けるべきとされています。

副作用について

フルコナゾールは比較的安全性の高い薬剤とされていますが、副作用が発生する可能性もあります。臨床試験では、全体の約15%の患者に何らかの副作用が見られました。比較的よく見られるものとしては、発熱、吐き気、下痢、発疹、むくみ、肝機能や腎機能を示す検査値（ALT, AST, Al-P, BUNなど）の上昇などがあります。

添付文書には、特に注意が必要な重大な副作用が記載されています。

ショック、アナフィラキシー: 急激な血圧低下や呼吸困難など、重篤なアレルギー反応です。
中毒性表皮壊死融解症（TEN）、スティーブンス・ジョンソン症候群: 皮膚や粘膜が広範囲に障害される重篤な皮膚疾患です。
血液障害: 無顆粒球症、汎血球減少症、血小板減少、白血球減少、貧血など、血液成分が異常に減少することがあります。
急性腎不全、肝障害: 腎臓や肝臓の機能が著しく低下し、黄疸や肝炎、肝不全に至ることもあります。
精神神経系・循環器系の異常: 意識障害（錯乱、見当識障害など）、痙攣、電解質異常（高カリウム血症）、心電図異常（QT延長）、不整脈（心室頻拍、心室細動、房室ブロック、徐脈など）などが起こることがあります。
間質性肺炎、偽膜性大腸炎: 肺や大腸に炎症が起こることがあります。

これらの重大な副作用の初期症状に気づいた場合は、速やかに医療機関に連絡することが重要です。

日本での販売と剤形

日本では、主にファイザー株式会社がジフルカンの商品名で販売しています。また、多くの製薬会社からフルコナゾールの後発医薬品（ジェネリック医薬品）も提供されています。

利用者の状態や感染部位に応じて、いくつかの剤形が用意されています。

カプセル剤: 経口で服用するタイプです。
ドライシロップ: 水に溶かして服用するタイプで、特に小児などに用いられます。
注射液: 点滴などで静脈内に投与するタイプです。

その他の情報

不感症治療薬としての誤解

かつて、一部の個人輸入代行業者がフルコナゾールを「不感症治療薬」と称して広告・販売していた時期がありました。しかし、製造元であるファイザーはこの効果を公式に否定し、警告書を送付するなどの対応を取りました。医学的な根拠に基づかない誤った情報であり、現在はそのような広告は見られなくなっています。

改良品（ホスフルコナゾール）について

フルコナゾールは水に溶けにくい性質を持つため、注射剤として使用する際には比較的多くの輸液で溶解する必要がありました。これは、深在性真菌症患者に多い腎機能障害や心不全などで水分制限が必要な場合に、投与が困難になるという課題がありました。

この問題を解決するため、フルコナゾールをリン酸エステル化したプロドラッグであるホスフルコナゾール（商品名：プロジフ）が開発されました。ホスフルコナゾールは体内に入ると酵素によってフルコナゾールに変換されます。水溶性が大幅に向上したことで、同量のフルコナゾールを投与する場合と比較して、わずか40分の1程度の輸液量で投与が可能になりました。これにより、水分制限が必要な患者への投与が容易になりました。

さらに、ホスフルコナゾールはフルコナゾールの点滴静注と異なり、比較的短時間での急速静脈投与が可能であり、また投与開始の2日間は通常量の2倍を投与することが認められています。これらの特性により、より迅速に有効な血中濃度に到達させることができるという利点も持ち合わせています。

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