ホロフェルネスの首を斬るユディト (ジェンティレスキ、カポディモンテ美術館)

『ホロフェルネスの首を斬るユディト』

アルテミジア・ジェンティレスキが1612年から1613年頃に制作した油彩画『ホロフェルネスの首を斬るユディト』（伊: Giuditta che decapita Oloferne, 英: Judith beheading Holofernes）は、バロック美術を代表する作品の一つです。この絵画は、旧約聖書外典の「ユディト記」に登場する女傑ユディトが、敵将ホロフェルネスを討つ場面を描いています。アルテミジア自身が受けた強姦事件と重ねて解釈されることも多く、女性の力強さを象徴する作品として、美術史において重要な位置を占めています。現在、この作品はナポリのカポディモンテ美術館に所蔵されています。

主題と物語

「ユディト記」によれば、ユディトはベツリアという町に住む美しい未亡人であり、信仰心が厚い女性でした。アッシリアの将軍ホロフェルネスは、イスラエルを含む周辺諸国を侵略し、ベツリアを包囲します。町が降伏寸前の時、ユディトは自ら敵陣に乗り込み、ホロフェルネスを魅了します。酒宴で泥酔したホロフェルネスを、ユディトは召使の女アブラの助けを借りて、彼の剣で斬首し、町を救います。この物語は、ユディトの知性と勇気、そして神への信仰を示すものとして、古くから多くの芸術家によって描かれてきました。

作品の特徴

アルテミジアの描く『ホロフェルネスの首を斬るユディト』は、まさにその斬首の瞬間を捉えています。暗い背景の中で、鮮血が飛び散る様子や、必死に抵抗するホロフェルネスの姿が生々しく描写されています。ユディトは決然とした表情で剣を振り下ろし、召使のアブラも力を込めてホロフェルネスを押さえつけています。この作品の凄まじいまでのリアリズムは、見る者に衝撃を与えます。特に、アルテミジアが20歳頃に描いたとされているこの作品は、彼女の卓越した画力と、感情を表現する能力を如実に示しています。色彩は、ユディトのコバルトブルーのドレス、召使の赤いガウンが鮮やかで、カラヴァッジョの影響を受けた明暗法が効果的に使われています。

図像的源泉と影響

この作品の図像的な源泉として、カラヴァッジョの同主題の作品が挙げられます。アルテミジアは、カラヴァッジョの作品から構図やドラマチックな表現を学びましたが、彼女独自の解釈と感情表現によって、より生々しく、力強い作品へと昇華させています。また、アダム・エルスハイマーの作品も、ホロフェルネスの身体の配置に影響を与えたと考えられています。しかし、アルテミジアの作品は、カラヴァッジョとは異なり、斬首の場面における暴力的な側面を隠すことなく、より強調して描いています。

解釈と評価

この絵画は、女性の力というテーマを強く打ち出しています。ユディトは、単に美しい女性としてだけでなく、男性社会に立ち向かうヒロインとして描かれており、彼女の行動は、社会的な束縛から解放された女性の象徴と解釈できます。また、アルテミジアが自身の体験をこの作品に投影したという解釈も広く支持されています。強姦事件の加害者であるアゴスティーノ・タッシをホロフェルネスに見立て、ユディトによる復讐としてこの作品を捉える見方もあります。しかし、最近の研究では、この作品を単なる個人的な復讐劇としてではなく、女性の力強さと自立を描いた作品としてより広い視点から捉えるべきだとされています。また、制作当初はカラヴァッジョの作品として扱われていたことからも、彼女の画力がカラヴァッジョに匹敵するほど高いものであったことを示唆しています。

来歴と現在の状況

この絵画の初期の来歴については不明な点が多く、制作の依頼主もわかっていません。19世紀にナポリの個人収集家の手に渡り、その後、ブルボン家のコレクションに加わりました。現在はナポリのカポディモンテ美術館に収蔵されており、多くの美術ファンを魅了し続けています。

まとめ

『ホロフェルネスの首を斬るユディト』は、アルテミジア・ジェンティレスキの代表作であるとともに、バロック絵画における傑作の一つです。この作品は、聖書の物語を題材としながらも、女性の力強さ、そして芸術家の個人的な感情が色濃く反映されています。アルテミジアの卓越した画力と、ドラマチックな表現によって、この絵画は今日においても多くの人々に感動を与え続けています。

参考文献

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