ボカック環礁

ボカック環礁：太平洋に浮かぶ孤高の環礁

ボカック環礁（タオンギ環礁とも呼ばれる）は、マーシャル諸島のラタック列島に属する無人環礁です。マーシャル諸島の中でも最北端に位置し、他の環礁から遠く離れているため、非常に孤立した存在となっています。その独特な地形、動植物、そして歴史的背景について詳しく見ていきましょう。

地理

ボカック環礁は、マーシャル諸島の首都マジュロ環礁から北へ684km、最も近いビカール環礁からは北東へ280kmの距離にあります。アメリカ合衆国領のウェーク島からは北北西に560km離れています。環礁は36の小島から構成され、陸地面積は合計で3.24平方キロメートルですが、環礁全体の面積は129平方キロメートルに及びます。

環礁の特徴

環礁は南北に細長い三日月型をしており、内側の弧は約9.0km、外側の弧は約17.7kmです。西側に幅20mの水路がある以外は、環礁は陸続きになっています。東部と南東部には10の小島があり、主なものとしてはカムウォーム島、ウイッジェ島、シビリア島、ボカック島、ボクワラ島が挙げられます。特にシビリア島は最も大きく、長さ約7.24km、幅は最大で304mに達します。環礁の名前の由来となったボカック島は、シビリア島の南に位置しています。

地質

エニウェトク環礁での掘削調査の結果、ボカック環礁は玄武岩の上に1400mものサンゴが堆積して形成されていることが判明しました。サンゴ礁の成長範囲は通常、海面下50m程度までですが、これほど厚いサンゴ層は、地底の死火山の地盤沈下によるものと考えられています。環礁の地盤は周囲の海底から3,000mも隆起しており、浅瀬の石化サンゴは、エニウェトク環礁から5,500万年かけて供給されたと推定されています。

地形

小島は巨岩と砂でできた高い尾根が特徴で、激しい嵐の影響を受けてきたことを示唆しています。内陸部は砂と礫で構成され、海岸背後には砂と砂利の低い尾根が連なります。土壌は未成熟で、粗いサンゴ砂と砂利にわずかな腐葉土が混ざる程度です。環礁は非常に浅く、ほとんどが水深30m以内で、多くのサンゴが生息しており、中には海面に達しているものもあります。環礁内の水面は周囲の海面より約90cm高くなっています。これは、風によって運ばれた海水が入り込むためで、唯一の狭い水路が風下に位置することも影響しています。

気候

ボカック環礁はマーシャル諸島で最も乾燥した地域であり、半乾燥性気候に属します。年間平均気温は約28℃、年間降水量は1,000mm以下で、降雨は主に夏の終わりに集中します。風は主に北または北東から吹きます。

環礁の植物

ボカック環礁では、9種類の植物が生育しています。これらの植物はマーシャル諸島固有のものであり、外来植物の持ち込みは厳しく制限されています。降水量が少なく、水はけの良い土地、そして高い気温が乾燥した環境を作り出しており、環礁には真水は存在せず、ヤシの木も生育できません。最も一般的な植生は、背の低いモンパノキの森林で、高さは15～50cm程度です。下層にはクサトベラ科やチモシーが繁茂しています。小さなオシロイバナの群生がカムウォーム島で見られ、シビリア島でも小規模な群生が確認されています。

特徴的な植生

濃密なクサトベラ科と少量のモンパノキが茂る海岸は、環礁の南部の50～75％、北東部のシビリア島ではほぼ100％を占めます。ムラサキ科、クサトベラ科、ゴジカは、疎林や海岸沿いのサバンナ地帯を覆っており、マーシャル諸島、そしておそらく太平洋全体でも最も特徴的な植生の一つです。環礁の浅い領域は、まばらな紅藻、散在するサンゴ、貝殻、緑色の海藻で覆われています。

環礁の動物

ボカック環礁には、26種類の海鳥や海岸に住む鳥が生息しています。カツオドリ、アカアシカツオドリ、オオグンカンドリ、アカオネッタイチョウ、セグロアジサシ、シロアジサシ、クロアジサシなどが繁殖しており、渡り鳥も確認されています。これらの鳥は、特に北部の3つの島（シビリア島、カムウォーム島、無名の島）に多く生息しています。コミズナギドリは、ボカック島で繁殖していると考えられています。

その他の動物

シビリア島にはポリネシアネズミが生息していますが、クロネズミは環礁から姿を消したようです。その他、スネークアイトカゲやヤドカリなどの陸上生物が生息しています。海洋生物は概ね良好な状態ですが、一部に環礁の分裂の可能性が見られます。シャコガイは豊富ですが、オオジャコガイは希少です。魚類は主にフエフキダイ科、ブダイ科、フエダイ科が見られ、ウツボやオグロメジロザメも生息しています。また、約100種類の石サンゴ目と2種類のウミトサカ目が存在します。

歴史

先史時代

約2000年前にマーシャル諸島に人間が移住しましたが、ボカック環礁では伝統的なマーシャルの人工物は発見されていません。厳しい気候、飲料水の不足、痩せた土地が、この環礁が無人島であり続ける理由です。この環礁は、ラタック列島の住民にとって、伝統的に狩猟や海鳥の卵を集めるための場所でした。

16世紀～19世紀

ヨーロッパ人による最初の発見は、1526年にスペイン人探検家アロンソ・デ・サラザールによって行われました。その後、多くの船がボカックを訪れましたが、乾燥した気候や近くの肥沃な環礁の存在のため、食用動物の施設を建設する試みはありませんでした。1906年、マーシャル諸島はドイツの保護領となり、ボカックはドイツの領有となりました。しかし、イロジ族はボカックの所有権を主張していました。

20世紀以降

1914年、日本はボカックを含むマーシャル諸島を占領し、ドイツから領有権を移しました。日本の植民地行政はボカックを開発することはありませんでした。1940年代には、日本軍がシビリア島に水上機と通信基地を建設しました。太平洋戦争中には、アメリカ軍の潜水艦による活動が確認されました。1943年3月には、食料不足のため日本軍守備隊は撤退し、1944年4月にはアメリカ軍によって基地が爆撃されました。1944年、マーシャル諸島の領有権はアメリカ合衆国に移りました。1945年には日本軍捕虜が送還され、その後アメリカ軍の部隊がボカックに派遣されましたが、生存者は発見されませんでした。

核実験との関わり

1954年、ビキニ環礁での核実験後に、ボカック環礁の放射能調査が行われました。また、ボカックは核実験場の候補にもなりましたが、最終的に他の場所が選ばれました。

近年

1979年には、ハワイから来た漁師が行方不明になり、1988年に遺体が発見されました。1988年には、ボカック環礁を廃棄物処分場にする提案がありましたが実現しませんでした。2003年には、テキサスから来た無線愛好家がシビリア島で無線局を開設しました。未承認の極小国である「メルチゼデック自治領」は、イロジ・ララブ族との借地契約に基づき、ボカックの統治権を主張しています。現在、環礁には放棄されたキャンプ跡や第二次世界大戦の基地跡が残っています。

結論

ボカック環礁は、その地理的な孤立性、独特な生態系、そして歴史的な経緯から、非常に興味深い場所です。無人島でありながら、過去には様々な出来事の舞台となり、今もなおその痕跡が残っています。この環礁の自然と歴史は、今後も研究と保護の対象となるでしょう。

もう一度検索